月刊JTMレポート : 2008年5月号
執筆 : 大下 茂(客員研究員)
訪日観光客が求めているのは、富士山や京都、東京ディズニーランドなどの著名な観光地だけだろうか。
記憶を辿った先に見える、もうひとつの日本。
外国人が楽しめる日本の「観光の宝」は、身近な日本の風物の中にもあった。
「水郷」とは、元々は利根川下流の潮来や佐原地域に広がる環境のことを指していた。水の環境が広がる同地域は、今から30年程前までは、舟がなければ生活できなかったという。そのような暮らしぶりから生まれたものが「嫁入り舟」(注)。現代でこそ、かつての記憶の中に置かれてしまっているが、長い地域の履歴の中では、つい最近まで日常的に見られていた風景である。この風物詩が復活され、観光客の目を惹いている。
改めて「地域固有の伝統・文化は?」と尋ねられると、答えに窮することがある。しかし、暮らしに密着したものの中に、その答えを見出すことができる。言わば「風物詩」は、地域の風土、そして風土とともに活きてきた暮らしぶりの中で脈々と受け継がれている地域固有の最良の財産ではないだろうか? それらとの何気ない出会いを、観光客は求めている。
水郷地域の佐原は、成田空港から車で30分という立地にあることから、近年徐々にではあるが外国人観光客が日常的に訪れる地域となりつつある。来訪した外国人観光客の意向を把握したところ、下記のデータのとおり「日本文化の体験」「日本文化の実演・見学」「市民との交流」といった、我々の日頃の生活から考えると余りにも当たり前の日常的暮らしそのものに興味・関心を抱いている。「食」一つをとっても、歴史的な建物(和風)の建物で、庭が見えて、伝統的な芸能が楽しめる場所での食事。また、水郷を行く船上で箱に入ったお弁当を食べる食体験も興であると回答している。
「食」こそ、風土と直結し、地域固有の味覚と料理法が受け継がれているものである。このように地域としては、気をてらったり、無理に新しいものを取り入れようと必死に悩むことはない。いま一度、地域の記憶を辿って「風物詩」と言われるものを再考してみてはどうだろうか。人の気を惹く地域の魅力・宝の山は、意外にも身近なところにある。「記憶を辿った先にみえる、もうひとつの日本」、それは外国人のみならず、画一化された都市生活に慣れ親しみすぎた現代日本人の琴線にもふれるものになるのではないかと思う。
歴史的なまちを快適に楽しむために望まれるサービス(回答者数50)

2004年・2005年の佐原秋の大祭りに訪れた外国人観光客への意向調査結果より
来訪した外国人が希望する食事したい場所・環境(回答者数50)

2004年・2005年の佐原秋の大祭に訪れた外国人観光客への意向調査結果より
嫁入り舟。かつては水郷地域の日常的な風景として随所に見られた地域固有の風物詩。風物詩の復活が人の目を惹き、集客のコンテンツとなっている(千葉県香取市佐原)。
祭りは地域の伝統・文化が現代に受け継がれたものである。外国人だけでなく日本人も心が踊るシーンである。祭りに提灯、日本人には見慣れた風景であるが、外国人観光客は提灯を持つだけでも、日本文化に触れたように感じるらしい(千葉県香取市佐原の秋の大祭)。
注:嫁入り舟
かつては地域全体が水路によって形成された生活形態であったため、嫁入りする際に花嫁や嫁入り道具などを舟で運んだことに由来する
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