月刊JTMレポート : 2009年1月号
執筆 : 石田 幸司(客員研究員)
観光客受け入れ数では世界第一位の観光大国のフランスが揺れている。1990年には11.9%だった全世界の観光客受け入れシェアは、2007年には9.1%に落ち込んだ。観光収入でも、2002年以降スペインに抜かれ世界第3位に留まっている。
高まる国際競争の中で、観光先進国としてのフランスの取り組みについて報告する。
フランスは外国人観光客受入数では世界第1位(2007年8,190万人)であり、観光業は外貨獲得ではNo.1の国内産業部門である。観光部門は対GDP比で6.2%を占め(世界平均3.8%)、観光業従事者は直接・間接部門併せて19万6千人に上る。(La direction du tourisme, Chiffres clés du tourisme, 2008)
一方、同じ欧州内のスペインやイタリアが、地域発展の効果を見込み、安価で良質な観光施設の設置や、交通網の整備など観光産業推進に力を入れて来た。また、モロッコ、チェニジア、ドバイに代表される新たなデスティネーションの台頭も顕著だ。これらの影響か、フランスにおける全世界の観光客受け入れシェアは1990年から縮小傾向に転じており、観光の国際収支の黒字幅は、2000年の14,074百万ユーロをピークに、2005年は8,911百万ユーロまで減少した。2007年は12,788百万ユーロと盛り返しを見せるもピーク時の水準には及ばない(Ibid)。
2007年IPSOS(※)実施の調査によると、受入国のホスピタリティに満足した観光客はフランスの場合全体の20%にすぎず、イタリア(33%)、スペイン(30%)を大きく下回っている。また、フランスが誇る食文化においても満足と答えた観光客は42%でイタリア(51%)の後塵を拝している(Ministère de l'économie de l'indutrie et de l'emploi, Destination France 2020, 2008)。
フランス政府の観光担当秘書官Hervé Novelli氏は、直面する課題を、激化する国際競争下でのホスピタリティの低下、発展の地域間不均衡、新しい観光商品開発の鈍化と見ている(Taxiclic.com,2008/6/26.http://www.taxiclic.com/actualites)。PR活動、国土・施設の整備といった面では頭打ちの感のあるフランスの観光行政が次に進む方向性は何か。政府は2008年6月に「Destination France 2020」と題した新しい観光政策を発表した。これは、観光分野の地位確保と雇用創出を目指すもので、「持続可能な観光」の推奨と、フランス国土全域での調和ある開発という2つの大きな特徴を持つ。
「持続可能な観光」は、フランス国民の生活水準向上に寄与するための新しい観光形態の発展を指す。具体的には、フェアツーリズム(フェアトレード原則に基づき、地域産品を産地で消費するために旅行を推奨するもの)・連帯ツーリズム(観光業の経済効果を地元住民が適切に得るために地方団体の観光業サービスへの参画を推奨するもの)やソーシャルツーリズム(全階層の国民(若年層、年金生活者、低所得者、身体障害者など)の観光へのアクセスを推奨するもの)の実践だ。
また、国土全域への調和ある開発を実現する手段として、ローコスト航空会社の積極的誘致を政策目標に掲げている。観光地間の発展の不均衡はこれまでフランスを悩ませていた大きな問題で、パリを含むIle-de-France州が外国人観光客宿泊日数で33.9%を占め、ニースを含むProvince Alpes Cote d'Azur州の10.8%を大きく引き離す(La direction du tourisme,op.cit.)。
しかし、フランス空港連盟(L'union des aéroports français (UAF))によれば、1997年にアイルランドのラインエアー社が初上陸以来、フランスにおける地方空港の利用率はこの10年で42%増加した。ローコスト航空会社が大きく関わっているのは周知の事実だ。
現在、フランス全土で150ある空港のうち、ローコスト航空会社の離着陸の空港は30か所のみだが、ローコスト便の就航が地域に与える経済効果は大きい。破格の航空運賃のため、旅行先として優先順位が低かった地域にも観光客が訪れるようになる。さらに、昔からの観光名所ではないため、ホテルや物価が安く、観光客はお金を落とす。失業率が高い地方にも観光業界で新しい雇用が生まれる、と地元にとっては一石二鳥の効果がある。ローコスト航空会社の誘致のために、規制の緩和、法的な環境整備、助成金拠出など国、州、県が連携して取り組む姿勢を打ち出している。
フランスは、これまでのPR活動、観光施設の充実といった従来型の政策に加え、観光が地域密着の産業であることを考慮し、社会的弱者援助の概念や産業界の新しい潮流を取り込んだ観光施策の推進に着手している。我々が学ぶべきはこの柔軟性なのだ。
※IPSOS France:消費者動向調査などに実績のあるフランスの大手民間調査会社。
【参考文献】
-Ministère de l'économie de l'indutrie et de l'emploi., Destination France 2020, 2008.
-La direction du tourisme., Chiffres clés du tourisme, 2008.
-Taxiclic.com., L'actualité, 26 Juin.2008
. http://www.taxiclic.com/actualites
-Direction Régionale de l'Industrie, de la Recherche et de l'Environement., Statistiques industrielles, 2007.
-Le Monde., 18. Juillet 2007.
-Ibid., 2. Décembre 2008.
新着情報
検索