「ボーダレスな交流を」~「3000万人時代のビジョンを描け」~

月刊JTMレポート : 2010年11月号

カテゴリ : 訪日旅行

執筆 : 小林 裕和(客員研究員) 

日本に対する世界の評価は、少なくともイメージではけっして悪くない。大きな潜在力を持っている訪日観光客市場だが、その3,000万人時代に向けて日本が描く交流ビジョンが必要だ。

今年の1月末、香港の「東大」である香港大学で、日本の会社として初めて日本での採用を目的とした「就職セミナー」が開催された。会場は日本での就職に興味を持つ学生約200人で埋まり、熱心に日本企業の人事担当者の説明に聞き入った。主催したのはフォースバレー・コンシェルジュ株式会社(東京都千代田区)。将来の日本の競争力に危機感を抱き、日本の企業のグローバル展開を人材面から支援しようと、世界中のトップ大学の学生を日本の企業に就職する機会を創出する事業を始めた。同社代表取締役柴崎洋平氏は学生の反響の大きさに驚く。「日本という国に興味を持っている学生が多いことに驚きました。グローバル化をすすめる日本の企業への就職が増えれば、日本ファンも増え、口コミなどで日本文化のよさが広がり、必ず訪日外客数の増加にもつながり、中長期的には日本の国力の増加につながってくるでしょう」。

同社は昨年末から年初にかけて台湾、香港、シンガポール、タイ、マレーシア、合計5カ国で計15回の就職セミナーを開催し、学生の参加は合計約3000人に達した。興味深いのは学生へのアンケートの結果で、なぜ日本で就職したいか、という質問に対し、答えが訪日動機と同じような傾向が得られたことである。つまり日本の文化に興味を持っていたり、小さいころから日本製品に触れてきたことが、日本での就職希望に大きく影響しているのである。

英国放送協会(BBC)による、世界28カ国、3万人を対象とした世論調査によれば、日本に対する好意的な評価は、対象とする主要国17カ国・国際機関の中で、ドイツ、カナダ、EUに次ぐ第4位となっている(プラス評価からマイナス評価を引いた値の順位)。日本に対する世界の評価は、少なくともイメージとしては決して悪くない。訪日旅行市場は大きな潜在力をもっているといえるだろう。

jr_1011_21.gif出典:BBC World Service Poll 2010
国の順番は、「主にプラス評価」から「主にマイナス評価」を引いた値の順番。


しかし、「時間消費」活動であるツーリズムの難しいところは、旅行動機と実際の行動が簡単には直結しないことである。旅行に出てもらうには、その間に目には見えない制度面などの様々なバリアが存在し、それらを取り除く必要がある。そのためには、「3000万人」が日本を訪問するとは、それがどんな世界なのか、その姿=ビジョンを明確に描く必要がある。

それは単に狭義の意味での「観光」を目的とする人の移動が増えるだけでなく、留学や就業など、多様な日本への目的をもった人が、国境を意識せずに自由に行き来する「ボーダレスな交流」という姿ではないだろうか。その発想は「東アジア交流圏」構想にも通じる。その意味では東南アジア各地での就職イベントの成功は、「すでに起こった未来」のようである。

「ボーダレスな交流」のヒントはまだある。周りを海に囲まれた日本にとって、国境を超える観光・交流を考えるとき、「航空」サービスの課題が常に伴う。例えば東南アジアを見てみよう。マレーシアの首都クアラルンプールからタイのバンコクまで、エア・アジアは片道65.04米ドル(約5800円。1米ドル90円換算、6月5日)。距離は約1200km。東京からは福岡を超えてソウルまでの距離である(1160km)。

今や欧州だけでなく、アジアでも海外旅行が片道1万円以下の航空料金で可能となり、国境を越えた交流を加速している。日本においても、羽田空港の国際線定期便開始や地方空港の活用など、「すでに起こった未来」の実現に対し、期待はますます高まる。そして必要なのは、観光分野におけるイノベーションと企業家精神だろう。

「訪日観光客3000万人」の大交流時代に向けて、日本はアジアにおいて、どのような世界=交流ビジョンを描くのか。そのスタンスに立ったビジョンが見えてきたとき、課題と共に可能性も広がるのではないだろうか。

出典:日経MJ 2010年5月31日掲載のコラムを加筆したものです。

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