WEB上の客室流通のこれまでとこれから ~チャネルマネージャー、GDS、チャネル・スイッチャーが鍵を握る~

月刊JTMレポート : 2012年2月号

執筆 : 花井 文袈 (研究員) 

海外のホテル業界では、複数のOTA(オンライン専業旅行会社)に宿泊プラン情報を一括で送るために"チャネルマネージャー"と呼ばれる宿泊管理システムが普及している。Ezyieldのように、無数の大手旅行サイトとつながり、大手外資系ホテルチェーンがワールドワイドで導入を進めるチャネルマネージャーも出てきている。海外のチャネルマネージャーは、日本ではほとんどその実態が知られていないが、ホテルの客室流通の流れを変え、ひいてはホテルから旅行業界への割り当てを間接的に減らすなどの"大きなインパクト"を持っている。 こうした海外での動きは日本の旅館・ホテル業界にも波及しつつある。ドラスティックな変化を見せる海外の動向から、今後の日本の客室流通がどのように変化していくのか、考察をまとめた。


◆日本におけるチャネルマネージャーの普及
客室の販売チャネルとして、有力なOTA(オンライン専業旅行会社)を開拓することは、宿泊施設にとって重要な戦略になっている。 しかし、施設側が客室の提供先であるOTAを増やせば増やすほど、レートパリティ(*価格の公平さといった意味で、同じ商品はどのサイトから予約しても同じ価格になるようにする事)を高いレベルで維持するのは難しく、チャネルの管理が煩雑になってくる。

特に、大手のOTAでは、各旅館・ホテルが客室を提供するための管理画面を独自に提供している。そのため、各宿泊施設では、OTAを増やせば増やすほど、個々のOTAに各々、客室情報、価格情報などを提供する作業が必要で、労力の負荷が増していくというジレンマがある(図1参照)。

そこでこのような煩雑さを解消するべく、宿泊施設に普及してきたのが、チャネルマネージャーと呼ばれる宿泊予約管理システムだ。国内の代表的なチャネルマネージャーは、TLリンカーン(株式会社シーナッツ)、楽じゃん(株式会社トランスネット)、手間いらず(比較.com株式会社)であり、この5年ほどで、日本の旅館・ホテルの多くに普及してきた。

図1:チャネルマネージャー利用による作業負荷の違い(JTM作成)
チャネルマネージャー利用による作業負荷の違い
*CRS:Central Reservation System。世界的なホテルグループの場合、ヘッドクオーターがこれを管理し、各プロパティホテルがPMSでCRSと連携を取り、客室の在庫マネジメントを行っている。
*PMS:Property Management System。ホテルチェーンの各プロパティのチェックイン、チェックアウトを管理するシステム。



◆海外チャネルマネージャーの現状、新興勢力の台頭
一方、海外では無数のチャネルマネージャーが存在するが、その中でメインストリームに乗るのは、EZYield、Rate tiger、RateGain(Travel Click)といったほんの数社である。 EZYieldの2011年10月時点での公称数字によれば、欧米、アジアなど96カ国4000以上ものホテルがEZYieldを導入しているとのことで、他を圧倒しているようだ。 大方の利用者は中小のホテルであり、販売チャネルのコントロールというのが主な利用目的である点で、日本の状況と同じである。また、中小ホテルだけでなく、ハイアットやスターウッドなどの大手外資系ホテルチェーングループも、世界規模で各プロパティ(グループに所属するチェーンホテル)がEZYieldを導入している。

チャネルマネージャーを使うメリットは、(1)客室・料金の一元管理によりレートパリティを向上させる、(2)効果的なレートマネジメントが可能、(3)XML(*開発における記述言語の1つ)ベースでシステム間の連携が柔軟に行える、(4)コスト負担が少なく、有望な販売チャネル(OTA)が開拓できる、(5)月額固定の低コストで利用できる、(6)24時間365日のフォローを受けられる、などである。

多くの宿泊施設は、このようなメリットにもとづいてチャネルマネージャーを選択しているが、特に大手ホテルチェーンにとって最大の関心事は、上記(4)の接続先OTAの種類や数だ。販売チャネルの管理を一元化するためというのが、従来のチャネルマネージャーの導入目的だが、最近は接続先OTA(販売先チャネル)が異なるのであれば、複数のチャネルマネージャーも積極的に開拓していこうという動きになっている。

数々のメリットで普及してきたチャネルマネージャーであるが、もちろんデメリットもある。 1点目は、宿泊施設サイドからの客室・価格情報がOTAサイドに流れる一方通行で、その逆のOTAサイドからの予約情報、顧客情報は宿泊施設には自動的に流れてこないことである。これらの情報は従来通り、個別のOTAからEメールやFAXで流れて来て、マニュアル管理されている(図2参照)。(この点、日本のチャネルマネージャー・TLリンカーンはリザプリという予約情報を返すサービスを提供しており、異例である。) また、デメリットの2点目としては、接続先がOTAに限られ、従来型の旅行会社やホールセラーとは繋がっていない点である。

チャネルマネージャーが先のようなメリットを有して台頭してきた一方で、チャネルマネージャーの機能を果たしつつ、こうしたデメリットを埋める、つまり双方向のデータ更新を可能にし、ホールセラーともつながる「チャネル・スイッチャー(あるいはデマンド・ゲートウェイ)」と呼ばれる新興勢力が注目を集め始めている。 主には中国・インド系の企業で、HBSi、Derbysoft、ChinaOnlineなどが知られている。ハイアットは、チャネルマネージャーはEZYieldと契約しているが、HBSiとも契約している。また、他の大手チェーンも導入に動いているという。

図2:グローバルホテルにおける、一般的な客室在庫の管理と流通の全体俯瞰図(各所ヒアリングをもとにJTMが作成) チャネルマネージャー利用による作業負荷の違い
*GDS:Global Distribution System。詳細は以下で説明。



◆GDSとの関係は?大手ホテルチェーンが鍵を握る
ホテルなど宿泊施設にとっての販売チャネルは、OTA、チャネルマネージャー、チャネル・スイッチャーだけではない。旧来より、GDS(=Global Distribution System)の存在もある(図2参照)。GDSは、もともとは航空会社が開発し、旅行会社へ提供していた航空券の予約・発券の自動化システムだった。しかしその後に、航空券だけでなく、ホテルやレンタカー、クルーズや列車など多数のサプライヤーが乗りあって提供するようになった(*紛らわしいが昔はCRSと呼ばれていた)。
GDSは、自動でサプライヤー情報を旅行会社に提供する点で、これまでに見てきたチャネルマネージャーやチャネル・スイッチャーと競合関係にあるのではないかというのが筆者の見方である。チャネルマネージャーの接続先がOTAのみ、GDSの接続先が旧来型のホールセラーや管理画面を持たないような中小のOTAなどに限られている点から、現時点で競合関係にないという見方もあるが、チャネル・スイッチャーの一部にはホールセラーなどと接続するものも出てきており、競合すると見た方がよいと考える。GDSとの接続には莫大な費用がかかること、予約1件につき4-5ドルのブッキング・フィーが課せられることなど、ホテルにとって厳しい条件もあり、今後のGDSの動向にもよるが新興勢力との激しい競争が予想できる。

このように、競合関係渦巻く海外Webの客室流通の現状を探ってみると、この領域については大手のホテルチェーンがトレンドを作っていることが見えてくる。大手のホテルチェーンが、有力なチャネルマネージャーやチャネル・スイッチャーと手を結び、有力なOTAに、そのチャネルマネージャーやチャネル・スイッチャーに接続するように働きかけているのが現状だ。こうして、有力な販売チャネルはさらに勢力を増していくことになる。そして、ホテルは客室の提供をチャネルマネージャーなどに絞り、手間暇のかかる旅行会社への個別の割り当てには応じなくなってきている。

それでは、日本において、チャネルマネージャーを中心としたWebの客室流通は、今後はどのように展開していくのだろうか?

◆日本における客室流通の今後
日本と海外の客室流通には決定的な違いがあり、これがチャネルマネージャーの利用においても影響を与えている。まず、宿泊施設の空室提供における決定権の違いだ。海外ではどのOTA、ホールセラーにどれだけの空室をいくらで提供するかについての決定権は宿泊施設側にあり、宿泊施設サイドがベスト・レート・ギャランティー(自社サイトより安い価格での他社での販売を禁止する)の縛りをつけて価格の一元コントロールをしている。一方、日本では、OTAの登場により近年は少しずつ状況が変わりつつあるが、基本的には旅行会社が年間契約で客室枠をブロックし、販売価格を決定、客室販売のイニシアチブをとる。こうした主導権のあり方が、チャネルマネージャーなどの販売チャネルを有機的にコントロールする海外と、ツールとしての使用に終わる日本との違いになっている。 もう1つは、海外では食事を含まない室料のみ(スケルトン型)が基本であるのに対して、ホテルだけでなく旅館もある日本では人数に対して料金が付き、さらに食事選択が入るなど販売単位が異なり、独自市場を形成する。従って、インバウンドへの取り組みとして、日本の宿泊施設が海外のチャネルマネージャーなどに対して客室を提供しようとする場合、人数別の料金から部屋種別(ベッド数)に基づく料金、食事や特典プランなしのスケルトンへのデータ変換などが必要になる。このように、日本国内にある宿泊施設の客室販売は、現状では海外のチャネルマネージャーが参入しにくい市場となっている。

このように市場の特殊性から鎖国状態のような日本の客室流通であるが、この1-2年でその状況も変わり始めている。日本の宿泊施設でも旅行会社へのブロック在庫を絞り、代わりに楽天やじゃらんなどの場貸しサイトでの販売で自主コントロールを強める傾向が見られる。インバウンドの取り込みを考える宿泊施設の一部では、海外と国内のチャネルマネージャーを併用し始めたところも出てきた。楽天やじゃらんなどのOTAが海外チャネルマネージャーと接続を進めて、海外拠点を置く中で、日本の宿泊施設が海外チャネルとの接点を持つ機会も増えてきた。また国内のチャネルマネージャーのTLリンカーンなどの海外展開が検討されているという話もある。 こうした日本国内と海外との客室流通のボーダーが無くなってくる環境では、国内外のチャネルマネージャーなどを新たな販売チャネルの開拓手段として戦略的に利用しようという動きがさらに出てくるのではないか。これまでは客室販売を旅行会社に依存し、主導権を持たなかった日本の旅館・ホテル業界であるが、GDS外しや、自社サイトでの直販強化、旧来の旅行会社への客室割り当てを徐々に絞ってOTAにシフトしているという動きが聞き取りの中で伺えた。旅館・ホテルにとって、販売チャネルの選択肢の増加は、このような宿泊施設主導の動きを加速させていくものとみられる。そして恐らく、海外の現状のように日本でも、宿泊施設側が客室流通のトレンドを左右し、割り当ての采配を握るという状況になっていくだろう。日本のWebにおける客室流通は、新たなステージに来ているようである。

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