まずは近隣地域をターゲットに! ~ニューツーリズム旅行商品の流通~

全国で各地域独自の魅力を活かした新たな旅行商品が企画・造成されているが、これらのニューツーリズム旅行商品の広報・告知に苦労している地域は少なくない。しかし、いきなり都市部などの大きなマーケットをターゲットにするのではなく、まずは近隣地域に目を向けることで新しい展開が開けてくる。

丸山 千春

丸山 千春

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多種多様な旅行者ニーズに対応するために、地域独自の魅力を活かした新たな旅行商品の企画・造成が、全国各地で取り組まれている。これらのニューツーリズム旅行商品では、出発地側の旅行会社が中心となって企画・造成してきた従来の旅行商品とは異なり、地元主導で今までは旅行の素材としては考えられなかった地域資源を活用し、よりきめ細かく、多品種・小ロットで対応しようとしている。着地型旅行商品(注)として、地域活性化への貢献が期待されている。

一方で、その課題のひとつとして、広報・告知・集客など流通面の難しさが指摘されており、その特性から発地型である従来の旅行商品と同じ告知方法や集客方法では、対応できないケースが少なくない。

観光庁では、平成19、20、21年度の3年間わたり「ニューツーリズム創出・流通促進事業」に取り組み、全国で143件の実証事業(モニターツアー)を採択している。これらの事例から、ひとつヒントをご紹介したい。

ニューツーリズム旅行商品を開発・造成する事業体の多くは、地域に密着した小規模な組織やそれらの集合体であり、これにかかわる旅行会社も地元の第2種、第3種の旅行会社であることが多く、宣伝・告知に大きな予算を使えるケースは少ない。従来の旅行商品の多くが、出発地の大手旅行会社で企画・造成されていることと対照的だ。また、大手旅行会社とタイアップできて、メディア媒体などで募集型企画旅行商品のように広域的に宣伝しても、専門性・テーマ性が高いなどの旅行商品特性から、広告宣伝だけではその魅力が十分に伝わらないことが多い。

そこで、各地で試みられているのが、いきなり遠方の都市部マーケットをターゲットにするのではなく、まずは県内や近隣県などの市場にアプローチする方法だ。ともすると、遠方であっても人口の多い都市部を狙いたくなるものだが、距離的に近い市場をターゲットとすることにより、地域に密着した組織が限られた予算の中で展開できる。特に、従来は観光地としての認知度が低い地域で新たな観光資源の開発を目指すような場合は、地元の人も知らない新たな観光資源なども少なくない。このため、近隣のマーケットから集客して実績を作り、参加者の反応を見ながら課題を抽出し改善する。そして、次のステップとして徐々に訴求する地域を拡大することが、事業展開をより確実にする。

上記の実証事業でも、地元の旅行会社とタイアップしたり、自ら第3種旅行業登録を取得するなどして、近隣マーケットにアプローチして、モニターツアーとして実施した「CSRツーリズム ~秋吉石灰岩コンビナートを巡る~(エコツーリズム・産業観光)」、「松江ゴーストツアー(文化観光)」、「愛知武将観光の旅(文化観光)」などは、その後事業化され、旅行商品として販売さ
れている。この他にも、近隣マーケットをターゲットとして実施した実証事業の成果をもとに、事業化を実現したり、その準備中の事例は多い。

<事業化の事例>
地元企業の協力により工場見学を商品化   (社)宇部観光コンベンション協会
~企業OB、郷土史家などが、専門の説明員として実体験を交えながら解説~

近隣地域への広報・告知手段は、比較的低コストで選択肢も多く、遠方からの参加者を集めるのと異なり、旅行日数が短くてすみ交通費もかからないので参加者の数を確保しやすい。そして、参加者の反応や評価が蓄積されることで、旅行商品の改善や受入側の体制整備を進めることも可能になる。近隣地域をターゲットにする場合は、地元の第2種、第3種旅行会社とのタイアップ、或いは自ら旅行業登録を取得することで対応が可能だ。

ニューツーリズム旅行商品として地域の新たな素材を開発し、企画・造成してゆくためには、何よりも地域の人々が地域を知ることが大切であり、これが着地型旅行商品に対する地域の理解や支援へとつながり、事業として持続する素地ができるのである。

注:「着地型」とは
着地型とは、これまでの旅行商品が都市部の旅行会社で企画・造成される「発地型」であったのに対し、旅行目的地側主導で行うことを指す。これまでは、旅行者のニーズを把握し情報を発信するのに便利な発地型が大半だったが、消費者志向の多様化にともない、地元の人しか知らないような穴場や楽しみ方が求められるようになり、着地型が見直されている。地元にとっても新しい観光素材を掘り起こし、都市部の旅行会社に提案する着地型が地域おこしにつながるとして力を入れている。
出典:ツーリズム・マーケティング研究所 ホームページ 観光用語辞典
ニューツーリズム

*参考資料
「ニューツーリズム旅行商品 創出・流通促進 ポイント集 (平成21年度版)」
観光庁観光産業課