観光客と住民の満足度アップ(観光経済新聞 2013年6月15日掲載)

顧客満足度の向上とは、観光の場合、観光客が観光地、宿泊施設、地域での体験などを通じて何に満足し、逆に何が不満と思うかをつかみ、不満の解消に努めることである。しかし観光客の満足度と、これに対する地域側の理解とは意外に一致していない。九州の主要観光地を例に観光客と住民の満足度を考察する。

中根 裕

中根 裕 主席研究員

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「顧客満足度が重要」とはよく耳にする。顧客満足度の向上とは、観光の場合、観光客が観光地、宿泊施設、地域での体験などを通じて何に満足し、逆に何が不満と思うかをつかみ、不満の解消に努めることである。しかし観光客の満足度と、これに対する地域側の理解とは意外に一致していない。それは地域が観光客の不満に「気付かない」、あるいは「満足しているはず」と思い込むケースだけでなく、外部の観光客は評価するのに、地域が地域の魅力を過小評価しているケースも多々見受けられる。

「JTB地域パワーインデックス」調査では、全国150観光地を過去3年以内に訪れた人に、その観光地の何に満足したかを聞いている。同時に住民(居住者や観光従事者)にも「観光客は何に満足していると思うか」を聞いた。図は一例として九州の主要観光地についての結果である。両者の満足度に対する意識の違いを比較すると、黒川温泉は観光客の満足度が高いだけでなく、住民が観光客の満足に対して強い自信と自負を持っていることが分かる。

さらに観光地の満足度向上には、温泉、食、景観、物産など、具体的な資源単位で何が評価されているかの分析が必要である。

観光客と住民との認識のギャップの具体例を佐賀県嬉野温泉で見てみる。本調査では自由回答で観光客と住民におすすめしたいものを具体名で聞いている。観光客のおすすめは「温泉」「湯」「泉質」で納得ある結果である。住民の観光客へのおすすめは、「肌」「湯」「温泉豆腐」「泉質」「美肌」と、温泉の効果や実感が得られるキーワードが並んだ。漠然と「温泉が魅力」という地域は全国に数多くある。嬉野を選択してもらうために、「美肌の湯」といった特徴や売りが認知され、差別化がされていることが大切である。

また住民が考える満足したもの第3位の「温泉豆腐」は地域の伝統的な食で馴染みが深いものであるが、観光客の満足には5位に留まっている。地域がおすすめの割に観光客が評価していないのかもしれないし、あるいはその存在や素晴らしさが知られていないことも考えられる。

地域に根付き地域の人が評価する資源に対し、観光客に評価されていないのは、地域が過大評価しているケースだけではない。逆に素晴らしい資源なのに知られていないとか、旅行中に体験する場所が乏しい等の場合もあり、集中してアピールすることで新たな地域ブランドになる可能性も持っている。

(表1)旅行者と住民が考える満足したもの(嬉野温泉)