土木観光への期待  Expectation for the sightseeing to CIVIL ENGINEERING STRUCTURE

身近な土木施設を見学する「土木観光」が一部のマニアだけではなく市民の間にも広がっています。また、土木界においても、土木の持つ意味や役割を社会に伝えるために「観光」を前向きに活用する動きが見られます。このたび土木学会誌2014年6月号に当研究所より寄稿を致しましたが、土木学会様のご厚意で許諾を得られましたので再掲いたします。

中根 裕

中根 裕 主席研究員

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図1 一般募集された国道289号線工事現場への見学ツアー(出典:新潟県三条市HP)

2013年8月に土木学会の記念事業として「東京外かく道路親子現場見学ツアー」が催行され40名の親子が集まった。年末には第2弾として「東京港トンネル ウォーキングツアー」が催行され、短期間で定員となりテレビ―ニュースでも紹介されていた。さらに自治体の企画だが新潟県三条市で福島県との県境を越える国道289号線工事現場を見学する「秘境八十里越・体感バス」が実施されこれも話題となった(図1)。
これらは時期を限定した土木構造物へのイベント的なツアーであるが、随時見学できる大規模土木構造物もある。関東地方整備局江戸川河川事務所が管理する「首都圏外郭放水路「龍Q館」の地下放水路は、予約制ながら随時公開されており、通称“地下神殿”と称され評判を呼んでいる。

昨今のこうした土木構造物を対象とした観光は、モノづくりに対する社会全般の再認識という背景もあるだろうが、世間から注目があつまり評判となることは決して今に始まったものではない。典型と言えるのが1958年完成の「東京タワー」と1963年の「黒部ダム」であろう。東京タワーは高さでパリのエッフェル塔を越えたことが日本の技術進歩の誇りとなった。

また黒部ダム完成の翌1964年には東京オリンピックが開催され、同時期に首都高速道路、東海道新幹線が開通されるなど、国土基盤に係る土木構造物の完成が『敗戦から日本が復興した象徴』として感慨深く捉えられた時代であった。そして高速交通機関の整備は、利便性の飛躍的向上によって、立ち直った日本各地を見たいという国民の潜在欲求を刺激し、その後の国内旅行大衆化を後押ししたと言って過言ではない。

では戦後復興の象徴として捉えられてから半世紀を経て、あらためて土木工事現場や土木構造物に対し注目されているのは何故だろうか?技術者や専門家の世界と思われている土木の世界に、素人である一般観光客が何故興味関心を寄せているのか?ここでは最近の観光旅行の質的変化と、対象としての土木構造物との関係を俯瞰してみたい。