キーワードは「人生これから」。今時50代女性のライフスタイル

近年、「超高齢化社会でどのように心豊かで心身健全な人生を送るか」という議論や取組が活発である。なかでも1956年~1965年生まれの50代女性は、世代としては「バブル世代」と「ポスト団塊世代」と二つの世代にまたがるが、若い頃の消費経験が豊富で、海外旅行なども積極的に楽しんだ世代である。この50代女性のライフスタイルについて考察する。

三ツ橋 明子

三ツ橋 明子 主任研究員

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目次

最近、多くの地域、大学、企業などが一緒になり、やがてくる超高齢化社会でどのように心豊かで心身健全な人生を送るかという議論や取組が活発である。そこでよく話題になるのは、主に退職を迎えた男性のセカンドライフについて。退職後、外部との交流が少なくなり、アイデンティティを失い閉じこもりがちな男性も多いと聞く。そのためか、最近は地域、企業も次世代のシニアを対象に啓発の機会を設定しているケースもあるようだ。
では、女性はどうだろう。現在50代の女性は、1956年(昭和31年)~1965年(昭和40年)生まれ。世代としては「バブル世代」と「ポスト団塊世代」と二つの世代にまたがるが、いずれも、これまでの50代とは異なり、若い頃の消費経験が豊富で、海外旅行なども積極的に楽しんだ世代である。

  • バブル世代:1960年~1970年生まれ(ここでは60年~65年生 2015年現在50歳~55歳)
    若い頃、車、スキー、海外旅行、ブランドファッションなど様々なモノ、コトの消費を楽しんでいた世代。経験豊富で、質の良いモノやコトも知っている世代と考えられるが、その後、バブル崩壊を経験。男女雇用機会均等法の施行などにより女性の社会進出が進んだこともあり、働き方や結婚、出産などのライフコースが多様化。
  • ポスト団塊世代:1951年~1959年生まれ(ここでは56年~59年生 2015年現在56歳~60歳)
    右肩上がりの経済を担った世代。三無主義、シラケ世代とも呼ばれ、上の世代ほど会社一辺倒ではない。若いころのデートに車は必須。最初のデザイナーズブランドブーム、テニスやスキーなどを楽しんだ。

当社の「女性の時間の使い方と旅行に関する調査」では、「最近自分の時間が増えた」と回答したのは、50代が最も多かった(図1)。その理由は子供から手が離れたことが最も大きいのだが(図2)、これから増えた時間をどのように使っていきたいのか、世代の特徴を踏まえ考察してみた。

図1:最近自分の時間が増えたと感じているか

図2:最近自分の時間が増えた理由 上位5項目

幼少期は高度経済成長期、男女雇用均等法施行前後に社会人に、20代~30代でバブル景気を経験

現在50代の女性は、幼少期は高度経済成長期、小学校から中学校時代に沖縄返還(1972年)やオイルショック(石油危機)を経験している。女性の4年制大学進学率は12.2%(1979年)、大学入試は1979年の共通一次試験開始の前後であり、大学卒業後の就職環境はオイルショック前に就職した上の世代に比べて厳しく、特に4年制大学卒女性は結婚退職を前提に働ける期間が短いという意識から企業からの求人が少なかった時代である。1986年に男女雇用機会均等法が施行。その前後に企業に就職した50代前半の女性は男性と同等の立場で働く女性として内外から注目される存在となった。
また1986年~1991年に50代女性世代はバブル景気を経験している。海外旅行や車やスキーなど様々なモノ・コト消費を楽しんだ。一方で結婚・出産を経て働き続ける女性はまだ少なく、就職しても結婚や出産で退職する女性も多い年代であった。親の世代が昭和一桁生まれで母親が主婦であることが多い家庭で育った世代であること、企業側も働き続ける女性への対応が追いつかなかった時代であることも影響していたかもしれない。

今の50代の40代はライフスタイルが多様化 同じ年代でも様々な生活・行動

この世代が40代になる2000年ころからSTORY(2002年創刊 光文社)エクラ(2007年創刊 集英社)HERS(2008年創刊 光文社)など40代以上の女性向けの雑誌が増え、女性誌が本屋の棚を占める割合が広がっていった。それ以前は40代女性むけといえば、「主婦の友」や「ミセス」など既婚・主婦がターゲットとされていたが、社会でキャリアを積む女性も増えてきた1990年代以降、女性のライフルタイルは多様化、年齢や好みで細かくターゲットを定めた女性誌が多数出現するようになった。40代向けや50代向けなど年齢別、メイク、ヘアスタイル、ネイル、などのテーマ、シチュエーション別などである。女性の生き方が多様になり、同世代であっても、同じような人生を送っているとは限らないのがこの世代の女性である。

50代は働く女性にとっては仕事から余暇への気持ちの転換期

総務省「労働力調査」の結果から女性の就業率の推移をみてみると、年々50代女性が働く割合が上昇していることがわかる。少し年齢のくくりは異なるが、同調査結果で2015年3月における45~54歳の就業率は2011年の81.8%から2015年には83.8%となっており、さらに上昇傾向にあることが予想される。そこで、当社が2015年3月に実施したアンケート調査で、仕事への意識について聞いたところ、男女で大きく異なる結果となった。
現在働いている人に働くことについての意識について聞いたところ、40代男性では「仕事派」(仕事に全力を傾けたい、仕事に力を入れるが、時には余暇を楽しみたい)が43.1%、「余暇派」(仕事はなるべく早く片付けて余暇を楽しみたい、余暇に全力を傾けたい)は、28.7%であった。
50代男性では「仕事派」が42%、「余暇派」は、28.6%であった。60代になっても、「仕事派」が41.9%、「余暇派」が27.8%である。
一方40代女性は、「仕事派」25.7%、「余暇派」44.85%、50代女性は、「仕事派」34.5%、「余暇派」34.5%で、60代女性では、同25.7%、同38.9%であった。男性は、リタイア期にさしかかっていても仕事を重視したい気持ちが大きく、女性は早い時期から仕事から余暇へと気持ちを転換していくようだ。(図3)。

図3:働くことについての意識

人生まだまだこれから。健康維持、増進には時間とお金をかける。

同調査で、普段、仕事や家事以外で時間やお金を使っていることで今後かける時間やお金を増やしたいと思うことを聞いたところ、50代は、男女とも1位は「家族とのお出かけ」、2位は50代男性では「健康維持、増進のためのこと」が20.8%、50代女性も2位は「健康維持、増進のためのこと」だが、男性よりも高く25.0%であった(図4)。まだまだ「これから」と考えるシニア女性にとって健康維持、増進は重要事項であり、今後、お金や時間をかけていきたいことであることがうかがえる。健康でなければこれからの人生は楽しめない。現役であるうちに、少しでも若いうちに、健康維持、増進に努めておこうという姿が見られる。

図4:今後かける時間やお金を増やしたいと思うこと 上位6項目(複数回答)

買い物のきっかけとなる情報源は「店頭で見て」、「家族や友人の口コミ」、「新聞の折り込みチラシ」

50代女性の買い物のきっかけとなる情報源としては、「店頭で見て」(57.7%)が最も高く、次いで「家族や友人の口コミ」(34.6%)、「新聞の折り込みチラシ」(27.0%)であった。インターネットアンケートによる調査のため、インターネットの利用率は一般の消費者より高いと考えられるが、新聞の折り込みチラシが3位と上位に来ていることは興味深い。若い頃から雑誌などの紙媒体に親しんだ世代であり、まだアナログな感覚を持っている世代なのかもしれない。また、「家族や友人の口コミ」が前後の世代より高い傾向にあるが、インターネットも比較的高かった。仕事でもインターネットを活用している世であり、今後も情報源として活用していくものと思われる。(図5)

図5:買い物のきっかけとなる情報源

海外旅行先を決める際に重視するポイントは、「訪れるのによい時期か」、「美味しいものが食べられるか」、「初めて見たり体験したりするものがあるか」

海外旅行の行先を決める際に重視するポイントを聞いたところ、50代男性では、多いほうから順に「美味しいものが食べられるか」(43.4%)、「初めて見たり体験したりするものがあるか」(43.1%)、「金額が安いか」(39.1%)であった。
50代女性は、「訪れるのによい時期か」(54.0%)、「美味しいものが食べられるか」(53.6%)、「初めて見たり体験したりするものがあるか」(46.0%)、の順であった。女性の場合、「訪れるのによい時期か」は男性より多く、金額よりも、「美味しいものが食べられるか」、「初めて見たり体験したりするものがあるか」が上位に来ている。
自分の時間が増えてきた今だからこそ、ベストシーズンに訪れることを重視したいと思う姿が見られる結果である(図6)。

図6:旅行先を決める際に重視するポイント(海外旅行)


従来、企業に在籍していれば定年が、家庭においては子供が独立し子育ての終わりが見える50代女性は、会社からも社会からも「リタイア」する時期が近づいていると考えられていたが、いまや、まだまだ「人生これから」と考える新しい時代がやってきている。博報堂新しい大人文化研究所が40代~60代の男女900人に「自分なりのライフスタイル創造意欲」についてアンケート調査(2013年)したところ、94.4%が「自分なりのライフスタイルを創造したい」と回答した。中でも50代の女性は「ぜひ創りたい」と「どちらかといえば創りたい」をあわせて99.3%だったという。また、当社の調査から、この世代のライフスタイル価値観を見てみると、他の世代と比較して「流行や話題には敏感に反応する方だ」「自分を表現する商品を選択する」「旅行では宿・ホテルは重要。ちょっといい宿・ホテルを探すことが多い」といった項目が高くなった。若い頃から様々な消費体験を積み、好奇心が旺盛でこだわりが強く、自分流の生き方を大事にする新しい大人の女性に何を提案していくのか。年齢だけでない、世代による特徴を踏まえた考察が重要である。

出典:総務省「労働力調査」
博報堂新しい大人文化研究所「自分なりのライフスタイル創造意欲」調査(2013年)
団塊世代、ポスト団塊世代のライフスタイルと今後の旅行消費に関する調査(2015年)
女性の時間の使い方と旅行に関する調査(2014年)