MICEからE分野の産業を考える

MICE分野考察の第二回目は、「E」について考えてみたい。「E」だけはExhibition, Eventと二種目あるが一つで表現されている。理由は簡単でMICEEでは発音しづらい。しかしながら、偶然の一致なのか管轄する官庁が異なることを皆さんはご存じであろうか。二つのEは経済産業省である。ここから「E分野の産業」を考えてみたい。

太田 正隆

太田 正隆 客員研究員

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目次

はじめに

MICEと言われる産業分野を業界から見た場合で整理をすると、以下のような区分がある。Meeting, Incentiveは、主に企業等を中心とした集まりやアクティビティーで旅行業界の範疇である。それぞれの目的を達するために移動や宿泊等のサービス提供を中心として活躍している産業である。Conventionは国際会議を中心として、学会や政府間会合等について数十年に渡り開催件数や分野、開催地等のデータをとっており、世界中の国別、都市別等の統計を同じ指標で比較できるようになっている。窓口は日本政府観光局(JNTO)である。三つの分野に共通するのは、データや業界監督を行っているのが国土交通省観光庁である。省庁再編の前は運輸省観光部が主管であり、更に遡ると戦前の鉄道省である。日本の観光行政は、鉄道から船舶、モータリゼーション、航空などの輸送手段の発達に大きく影響されている。主管は観光庁MICE参事官室である。

これに対してExhibition, Eventの分野は、19世紀に発達した万国博覧会が始まりである。日本でも江戸末期に薩摩藩や明治政府がロンドン万博、パリ万博等へ出展し伝統文化、芸術等を中心に芸能も出展している。さながら今でいうところのクールジャパン、コンテンツ産業分野である。日本は、1928年には国際博覧会条約を締結し、博覧会国際事務局(BIE)に加盟している。万国博覧会の主たる目的は科学技術の発展や国威発揚であり、産業振興やビジネスイノベーションの促進である。こうした博覧会を主管しているのが経済産業省商務情報政策局・商務流通保安グループ 博覧会推進室である。商務情報政策局には、サービス産業、サービス政策を主管する課があり、我々になじみの深いクールジャパンは生活文化創造産業課で、通称クリエイティブ産業課としている。関連する民間団体には、展示会産業団体である「日本展示会協会」を筆頭に、ディスプレー業界等があり、イベント産業では「日本イベント産業振興協会」等がある。「E産業分野」が経済産業省主導の産業団体であることが判る。

日本標準産業分類に掲載される「展示会(見本市を含む)の企画・運営業」

日本には「日本標準産業分類」(総務省統計局)があり、ここでいわゆる「業」というのが明確にされて、統計を始めとして国が産業として具体的な指標を設定し、毎年の就業人口や経済成長等について財及びサービスの生産又は 提供に係るすべての経済活動を分類する法律に基づく分類である。平成26年4月1日施行される改定版で、中分類92-「その他の事業サービス業」、929「他に分類されない事業サービス業」、9299「他に分類されないその他の事業サービス業」の中に「展示会(見本市を含む)の企画・運営業」と例示掲載されることになった。従来は、同9291に「ディスプレイ業」があっただけである。

日本標準産業分類に「業」として登録されたことは、実は大きく評価すべき事実であり大きな意味を持っていることを、展示産業関係者以外にはほとんど意識がされていない。「イベント業」という産業すら産業分類には入っておらず、イベント制作、イベント請負」、イベントプロデュース等の項目もない。ちなみに、「プランナー業」や「国際会議請負業」「MICE業」もない。また、「旅行業」はあるが「観光業」はない。観光業は多岐に渡る産業で構成され、宿泊業、輸送業といった独立した産業の集合体であることが理由である。

産業振興には統計や経済活動の規模把握、事業所、就業構造等が明確になっていて初めて具体的な政策や施策を行うことが出来て、モニタリングや評価が可能になる。開催件数や動員人数、参加人数等といった事象と経済活動内容の把握が一致して初めて評価に繋がり、次の政策や戦略策定に続くものである。

参考

イベント産業(EVENT)に関する資格、検定制度とISO20121

社団法人日本イベント産業振興協会は、一般企業(イベントの需要側)、広告代理店や制作会社等(イベントの供給側)、行政、大学等産官学を含めた多岐に渡る産業や分野の企業・団体・個人が参加している。業界の質の向上を目的として、資格制度や検定制度を制定しその普及に努めている。

イベント業務管理士資格(旧イベント業務管理者資格)

イベント・プロフェッショナル人材の育成を目的として、そのためのスキル標準(職務知識・技能標準)の明確化と、中長期にわたる人材育成を考慮したキャリアパスで構成されており、1級資格(幅広く本格的な業務知識・知識をもったディレクター職を評価対象とする)と2級資格(幅広い基本知識・技能をもったアシスタント・ディレクター職を評価対象とする)となっている。

イベント検定

企業や自治体にはイベントの専門家としての実務経験はなくとも、的確なオリエンテーションを行って、より適切で効果的なイベントを実施する「イベントについての体系的な基礎知識」を持つ人材が必要であり、こうした人材の養成を目的として設計、実施。

スポーツイベント検定

2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催を始め、スポーツツーリズム、スポーツコミッションの設立など、スポーツを経済や地域の活性化に結びつける動きが活発になっている。スポーツに関するマーケティングを始め、マネージメント、スポーツイベントの可能性、ツーリズム、都市経営、持続可能性等、多岐に渡る分野について学習し、理解を進め地域におけるスポーツイベント人材育成を目的として設計・実施。

ISO20121(イベント・サステナビリティマネジメントシステム)

国際標準化機構(ISO・International Organization for Standardization)
本部はスイスのジュネーブにあり、工業、サービス、環境等の世界標準を設定する国際機関である。2009年、持続可能性のあるイベントマネージメントシステムを作りたいというイギリスとブラジルの共同提案により、ISOへ打診があり各国へ通知された。日本におけるISO窓口は経済産業省であり、「イベント」ということでJACEに依頼。日本側はイベント産業に係るが中心となって各種企業から30名程度の委員が参加し、3年がかりで参加した17か国と共に作業を続けて認証された。ロンドンオリンピックが最初であり、日本では横浜女子マラソン(2012年)や世界トライアスロンシリーズ横浜大会(2012年)がある。2020年東京オリンピック・パラリンピックでは環境基準部分において、ISO20121を目標と定めて準備している。

(ニュースリリース)
http://www.jace.or.jp/bw_uploads/g3aDjINYg4qDioFbg1hfSVNPjZGN24nvi2NfMTEwMTE5LnBkZg.pdf

https://tokyo2020.jp/jp/plan/candidature/dl/tokyo2020_candidate_section_5_jp.pdf

こうしたイベント実務者や専門家の育成、普及啓発を目的として各種活動を行っている。また、統計データとしてイベントを「博覧会」、「フェスティバル」、「見本市・展示会」、「会議イベント」、「文化イベント」、「スポーツイベント」、「販促イベント」の7つに分類し、イベント統計を取りまとめている。
また、イベント系の4団体と連携しながらイベント普及のための各種活動を行っている。

展示産業(EXIBITION)における日本展示会協会の役割

日本展示会協会は、展示会主催者(需要側)全国の展示施設、ディスプレイ、制作、レンタル、電気幹線等の各種企業(供給側)等が加盟し、展示会・見本市を通じて産業振興や関連する産業の普及、国際化、展示会の質の向上を目指して人材育成等を推進している。

日本における展示会の国際化を目指し、展示会の認証制度を制定し諸外国からも同様の指標で判りやすい展示会認証制度を導入した。

同協会は1967年設立と古く、展示産業の国際組織であるUFI(国際展示会連盟)等とも連携し、日本から理事も出している。国内的には、多様な産業がメンバーとなっており全国の展示施設や国際会議場も重要なメンバーとして加わっていることは大きな特徴である。

展示会認証制度

第三者機関と協力をしながら、信頼性の高い展示会統計を整備し、日本の展示会産業の活性化を目指している。従来展示会ごとに一定していなかった、出展社や来場者の数え方を国際基準を準拠して制定することで、各国との比較や展示会規模等が正確に把握することが可能となった。(http://www.jecc-ninsho.jp/

展示産業は、展示会場という一定の広さや機能をもった施設が必要であり、イベントと異なり場所・会場が限定的である。屋外展示という方法もあるが、広い野原に展示することで目的を達成する訳ではない。「展示場」という「スペースメディア」を通じて、「展示・ディスプレイ」という手法をもって、出展社(セラー)と来場者(バイヤー)の商談(ビジネスマッチング)を行うことが最大の目的であり、そのビジネスチャンスを提供するのが主催者である。

日本自動車工業会が行っているモーターショーを始め、業界団体、新聞社や雑誌社等が行っている各種の展示会が主な展示会であったが、近年では展示会を事業目的として行う専門企業が出現してきた。従来は、欧米の外資系企業やドイツの見本市会社等が日本に進出し、展示会場を借りてビジネスマッチングを目的とした展示会、トレードショーを主催してきたが、日本企業が主体となった展示会も増えてきた。

一部のパフリックイベントを除き、イベント産業も需要側(企業等の広告主)、供給側(広告代理店を始めとする各種企業)が中心となって、販売を目指してイベントは成立している。オリンピックに象徴されるスポーツイベントビジネスの場合、オリンピックというメディアを通じて需要側(オリンピック委員会)と、それに応える供給側(スポンサー企業)が、資金調達等を通じて開催目的を達成し、供給側は広告宣伝等の目的を達成することでイベントとして成立している。非常に明快である。

まとめ

「E分野」では、ビジネスが目的であることが明確な場合が多く、売上や期待する効果が判り易く、手段(展示会、各種イベント)の評価構造が明快である。コンベンション、企業ミーティング、インセンティブ等の分野のように「誘致活動」や「開催地選定」等の活動ではなく、必要があればそのニーズを待つのではなく、作り込むことでイベント産業や展示産業が成り立っている。

マーケティング用語でいうところの会議主催者やインセンティブ主催者(需要側)が求める立場に立って誘致等を行う「マーケットイン」がMICであり、主催する企業や支援する企業(供給側)がどんどん提案していく「プロダクトアウト型」がイベント分野、展示分野であるのではないだろうか。この部分は、MICE産業全体を考えるうえで案外重要なカギになるのではないだろうか。次回は、MIC分野の産業について関連する団体や、人材育成等について考えてみようと思う。

参考(イベント・展示分野における人材育成の考え方)