これからの訪日中国人旅行者を考える

政府は訪日外国人数を2020年に4000万人、2030年には6000万人とする目標を掲げました。目標達成の過程では、国別、さらには国の中でも様々な価値観を持つ旅行者への対応が求められる時代となります。本コラムでは、ライフスタイルや旅行への意向などから旅行者を5つのタイプに分けた「旅ライフセグメント5」を用いて、訪日中国人旅行者のニーズをより深くとらえてみます。

早野 陽子

早野 陽子 主席研究員

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目次

このほど政府は訪日外国人数を2020年に4000万人、2030年には6000万人とする目標を掲げました。また、何度も日本を訪れるリピーターの数についても2030年に3600万人と、2015年の3倍にする計画としました。訪日旅行者数のボリュームやリピーターが増え、市場が成熟化してくれば、旅行者の求めることが多様化するのは必至です。ほんの少し前までは訪日外国人旅行者を一括りに語ることも少なくありませんでしたが、今は国別、さらには国の中でも様々な価値観を持つ旅行者への対応が求められる時代となり、その傾向は今後もますます強まると考えられます。

このコラムでは、ライフスタイルや旅行への意向などから旅行者を5つのタイプに分けた「旅ライフセグメント5」を用いて、訪日中国人旅行者*のニーズをより深くとらえてみます。

訪日中国人旅行者に特徴的なことは「体験重視」「高アンテナ」タイプの多さ

調査対象者となった訪日中国人旅行者を「旅ライフセグメント5」でタイプ分けしてみたところ、最も割合が高いタイプは「共感型(29.5%)、次いで「メリハリ消費(28.8%)となりました。また、他の国と比較して特徴的に多いタイプは「体験重視(20.5%)」と「高アンテナ(15.8%)」でした。「体験重視」は旅行好きで、時間を惜しまず旅行の体験を味わいたいタイプ、「高アンテナ」は情報感度が高く、まだ誰も知らないモノやコトを誰よりも先に見つけたい、イノベーター(トレンドセッター)とも言うべきタイプです。

新しい商品やサービスの普及の流れ

これまでの当社の研究結果から、新しい商品やサービスが普及する際には、まずイノベーターである「高アンテナ」タイプが見つけ出して利用を始め、その中で良いと思ったものをアーリーアダプターである「共感」タイプが利用して拡散することがわかっています。

まだ知られていない日本の魅力を見つけだし、中国人旅行者の中に浸透させていってもらうには、5タイプの中でも、とりわけ「高アンテナ」と「共感」タイプの旅行者がどのようなモノやコトに興味を持っているかを知ることが重要だと言えます。

旅ライフセグメントの5タイプ:イノベーターに含まれる「高アンテナ」「体験重視」タイプ、アーリーアダプターに含まれる「共感」タイプ、フォロワーに含まれる「メリハリ消費」「合理派」「体験重視」タイプ

イノベーターである「高アンテナ」タイプの特徴とは

では、イノベーターである「高アンテナ」タイプの訪日中国人旅行者はどのような特徴を持っているのでしょうか。

1)グローバルな感覚を持った国際派

「高アンテナ」タイプの属性を見てみると、海外の大学や大学院を卒業した人の割合(高アンテナ6.3%、全体4.8%)や外資系の企業で働く人の割合(高アンテナ23.4%、全体19.2%)が高くなりました。また、若い時期から海外旅行を経験している人の割合も比較的高く、グローバルな感覚を持った国際派と言えるタイプと考えられます。

イノベーターである「高アンテナ」タイプの訪日中国人旅行者の最終学歴

(図1)最終学歴(単一回答)

(図2)職業(単一回答)

(図2)職業(単一回答)

(図3)年齢層(単一回答)

(図3)年齢層(単一回答)

(図4)初めての海外旅行時期(単一回答)

(図4)初めての海外旅行時期(単一回答)

2)品質・安全・ブランド・健康を重視

普段の生活の中で、どのようなことを重視して商品を選ぶかを見てみると、主に重視しているのは「品質」「安全」「好きなブランド」「健康によい」ことでした。別の設問では「普段から日本製のものを選んで買っている(高アンテナ74.1%、全体50.3%)」割合も高くなり、日本の商品に対して、品質や安全性を期待している面も大きいと考えられます(図5)。

(図5)ふだん商品を選ぶ時に重視すること(複数回答)

(図5)ふだん商品を選ぶ時に重視すること(複数回答)

3)日本人や日本文化と積極的に関わりを持ちたい

日本を訪れた時に、日本人とどのような関わりを持ちたいか、という質問に対しては、「日常生活に触れたい」が58.9%と全体の44.0%を15ポイント近くも上回りました。また、ホテルや観光案内所、ガイドやお店の人と話をしてみたい、日本の歴史文化について日本人に説明してもらいたい、といった割合も比較的高く、日本人や日本の文化と積極的に関わりを持ちたいという意向が垣間見られました(図6)。

訪日中国人旅行者が日本で買いたいものの上位には化粧品があがりますが、価格は高くても免税店ではなく百貨店の化粧品売り場で購入したい、という女性は少なくないようです。販売員にメイクアップをしてもらい、お化粧方法などのアドバイスを受けながら購入できるなど、日本ならではのきめ細かいサービスが喜ばれているからです。サービスや商品を通して「買う」という行為自体を「体験価値」として、どう楽しんでもらうか、どう付加価値をつけていくか、ということも大切であると考えられます。

(図6)日本人との交流について(複数回答)

(図6)日本人との交流について(複数回答)

「高アンテナ」から「共感タイプ」へのスムーズな情報の流れをつくる

ここまで、新しいトレンドを精力的に発掘するタイプである「高アンテナ」の特徴を簡単に見てきましたが、「高アンテナ」にとっては“自分だけが知っている”という事実が大切であるため、自分自身から積極的に情報を発信しようとはしません。そこで重要な役割を担うのが「共感」タイプです。「共感」タイプは「高アンテナ」とは違い、自分で情報を発掘しないものの、「高アンテナ」など情報感度が高い人たちが取る新しい動きには目を光らせ、その中で面白そうだと思ったことを体験して他者と共有するのが好きなタイプです。訪日中国人旅行者における「高アンテナ」と「共感」タイプの興味の接点を見つけ、「高アンテナ」から「共感」タイプへのスムーズな情報の流れをいかに作れるかが、選ばれる商品やサービスづくりに重要となりそうです。

調査概要

調査手法:
インターネットアンケート調査
調査期間:
2016年1月22日~1月29日
対象者:
中国本土に在住し、1年以内に日本への観光旅行を希望している、
年収 12 万元(約 240 万円)以上の 中国人男女 1,000名(男性 532名、女性 468名)