「時代の最先端」と「変わらない本質」の両立が神社・仏寺の観光の鍵

神社や仏寺はかつて、文化や技術の中心地、集積地として時代の最先端を行く組織であり、門前町には参拝者向けに流行りの品々や人気のグルメが並び、最新技術を駆使した建築が建てられました。時代とともに神社や仏寺の役割は変化してきましたが、社会環境や市場のニーズ、テクノロジー等の技術が急速に変化・発展する現代、変化を柔軟に捉え、観光という手法を活用して、社寺の本来の意義や価値をいま再び社会に伝達することの可能性を考察します。

河野 まゆ子

河野 まゆ子 主任研究員

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目次

神社や仏寺はかつて、文化や技術の中心地、集積地として時代の最先端を行く組織であった。門前町には参拝者向けに流行りの品々や人気のグルメが並び、最新技術を駆使した建築が建てられた。時代とともに神社や仏寺の役割は変化してきたが、近年は、日本における「外国人に人気の観光スポット」の第1位が3年連続で伏見稲荷大社となるなど(平成28年トリップアドバイザー調査)訪日外国人が社寺や周辺の景観に観光地としての魅力を感じることも知られている。
 観光庁は、平成28年度より、複数地域の観光によるネットワーク形成を目指して“テーマ別観光”による地方誘客推進を掲げている。初年度に選定された支援事業のひとつに『社寺観光 巡礼の旅』があり、神社や仏寺を観光資源として活用する取り組みに注目が集まっている。
 社会環境や市場のニーズ、テクノロジー等の技術が急速に変化・発展する現代、変化を柔軟に捉え、観光という手法を活用して、社寺の本来の意義や価値をいま再び社会に伝達することも可能なのではないか。

(1)	社寺自身が積極的にデザイン

1. 社寺自身が積極的にデザインしてきた社寺観光のかたち

昭和30年頃まで、京都の清水寺は観光客が極めて少なく、産寧坂には店も全くなかった。清水寺の南今の西大谷あたりから泉涌寺あたりまでは鳥辺野と呼ばれ、平安時代以前より、北の蓮台野、西の化野と並ぶ東の墓地・葬送の地となっていた。つまり、当該地域周辺は遺体を風葬にした場所であり、現代のような良いイメージは市場に浸透していなかった。その後、清水寺は観光誘致を目指し3,000万円を拠出。お堂の下を大随求菩薩の胎内に見立て、僧侶が解説・案内してくれる「胎内めぐり」を発案。近隣の事業者に声を掛けて3軒の店舗を産寧坂に誘致することに成功。興味を抱いたマスメディアが取材に訪れ、観光客が激増したことで、その後数か月で、3軒だった産寧坂の店舗は15軒に増加した。
 学問の神として信仰を集め、年間約750万人の参拝者を集める福岡の太宰府天満宮も、昭和31年頃までは年間の参拝者は30万人程度にとどまっていた。更に、本来、太宰府天満宮は「まことごころの神(子供を健やかに守る神)」であり、「学問の神」という打ち出し方はしていなかった。
 福岡から1時間かかるという決して利便性がよいとはいえない立地であったが、(1)人口増で競争社会になる (2)車社会が到来する という時代の潮流を読み、「まことごころ」というご神威の一側面である「学業成就」にフォーカスするとともに、駐車場を整備した。駐車場はあえて神域より遠くに設け、参道を人が歩く動線を設計したことで、参道を含むエリア一帯の活性化に寄与した。現在でも、隈研吾設計のスターバックスが立地するなど、「新しさ」を吹き込むことに積極的な姿勢をとっている。
 現代において著名な社寺が、昔から連綿と賑わっていたというわけではない。市場の潮流の変化を的確に捉え、信仰の本質を変えないまま、その本質を伝えるための“手法”に関して時代性にマッチした工夫を凝らすとともに、社寺を囲む地域を面として活性化させることと表裏一体の取組として推進していったことが、当該社寺が地域の核として、且つ観光資源として浸透・定着していったことの要因にあると言える。

2. 社寺で授与されるものたちは存外新しい

現代の視点で「歴史的」「伝統的」と思われる社寺の授与物は、斬新な視点やファッション性を加味した時代ごとの新しい取組を経て生まれてきたものである。まさに現在は、ICTの進化や訪日外国人の社寺来訪機会の増加など、変化のさなかにある市場のニーズを汲んだ、新しい授与品や信仰を伝えるメッセージの表現方法が生まれてきても不思議ではない時代だ。

「お守り」は信仰をファッションで包んだもの

木や紙の護符だったものが一般にお守りとして用いられるようになったのは平安時代頃のことである。護符を肌身離さず着けたいというニーズもあったが、紙や木札のままでは携行できない。最もオーソドックスな方法として、「容器(入れ物)に入れて携行する」という方法が定着した。とりわけファッションに気を遣った貴族階級の女性はこの「容器」にも大変に凝った。着物の上からネックレスのように首に懸けてもオシャレに見えるように美しくつくられたオートクチュールの「懸守」だ。 
いかにオシャレにお守りを身に着けるかという問題は以降の時代も真剣に考えられ、江戸時代の町民(庶民)の間では、今日の守り袋の原型ともいうべき布袋にお守りを入れて首から下げる「胸守」が流行したと言われる。

「絵馬」がポータブルになったのは昭和の後半

絵馬は、生きた神馬を神社に奉納していたのが由来である。次に奉納絵馬額へと変化していったが、大きな絵馬額を奉納する習慣は昭和初期で廃れた。昭和48年に湯島天神が「合格祈願」を目的とした現在の形の絵馬を開発し、大ヒットして全国の社寺に波及していった。

3. 消費者のお守りに対するニーズ

生活者の「お守り」に対するニーズや距離感を把握するため、インターネットアンケート調査を実施し、お守り購入経験や期待すること、重視することなどについて調査した。社寺でお金を支払って入手したことのあるものは、「お守り」が83.6%で突出しており、以下、「お札」34.2%、「絵馬」27.6%、「携帯ストラップ」13.7%の順となっており、圧倒的にお守りに対するニーズが高い結果となった。性年齢層別にみると、20~30代男性は絵馬の購入比率が低く、50~60代女性で御朱印帖が10%超を占めている。

社寺で入手したことがあるものインターネット調査

(図1)社寺で入手したことがあるもの

自分のために購入したお守りのご利益は、「病気平癒/無病息災」が41.1%で最多であった。以下、「交通安全」36.7%、「家内安全」33.4%、「厄除け・方位除け・旅行安全」26.7%の順となっている。20~40代男性では、「金運上昇/商売繁盛/出世・昇進」の比率が高く、特に、40代では44.9%で「交通安全」と並びトップとなった。その他、20代男女の「恋愛成就/縁結び」、「合格祈願/学業成就」、20~30代女性の「子授け/安産祈願」等も比較的多く見られる。「無病息災」「家内安全」など、日々の安全と平穏を願う『目的特化型でないお守り』のニーズは60代の高年層で比較的高く、一方で商売やビジネスの好調を祈願する目的特化型のお守りは、男性、特に働き盛りの40代でニーズがぐんと高まる。また、「恋愛成就」というと女性をイメージしがちだが、20代男性の四分の一に購入経験があり、20代男性の方が30代女性よりも比率が高いことは興味深い。

自分のために入手したお守りのご利益インターネット調査

(図2)自分のために入手したお守りのご利益

お守りの束

30代男性会社員の鞄から出てきたお守りの束

さまざまなパーツを組み合わせたり、名前を入れるなど、一つしかないお守りを作ることのできるサービスについては、全体の59.4%が利用意向を示している。性年齢層別にみると、20代女性と30代男性での意向者が7割を上回っているほか、積極的意向者も30%を超えて高い。個別のものを守るお守りへの意識が高いことに加え、「自分(だけ)の悩み・祈願に対応するお守り」へのニーズも30代以下で圧倒的に高く、それ以上の世代との意識の差が顕著に見られる。

オリジナルお守り作成サービスの利用意向

(図3)オリジナルお守り作成サービスの利用意向
(出所:「お守りに関する消費者意向調査」JTB総合研究所 2016年8月)

4. 近年の社寺における具体的な取組

近年、市場の流れの変化やICT技術の発展等による社会の変化を受けて、消費者と社寺との距離を縮めたり、社寺、ひいては周辺地域の活性化に寄与することを目的とした多様な取り組みが展開されている。注目すべきは、社寺が積極的に民間企業と連携・協力し、あるいは民間企業からの働きかけのもとで実現した取り組みが少なくないことだ。

例1 デジタル技術の活用

福岡県福岡市の紅葉八幡宮が、御朱印にスマホのカメラをかざすと神様が飛び出すアプリ「御朱印AR」を制作し、Twitterで「ワクワクするやつ!」「存在するけど実在しないものを見るために、ARはとてもわかりやすい」「俄然行きたい&ほしい御朱印」などと話題になった。公式サイトからダウンロード可能で、どうしても訪れることができない人のためにAR用の御朱印画像も配布されている。

紅葉八幡宮

画像提供:紅葉八幡宮(公式サイトより)

例2 地域の産業との関連性強化

宮崎県日南市の霧島神社が、当地の代表的な産業である「かつお一本釣り」の周知との相乗効果を狙い、これにちなんだ絵馬を開発した。かつお一本釣りに使う針(安全性担保)を使用し、“狙った獲物を釣り上げる”というゲン担ぎで、受験や恋愛など「狙った獲物を釣り上げる」願いに対応したお守りで、南郷町商工会の協力により、2017年1月に開発が実現した。

宮崎県日南市の霧島神社の絵馬

例3 地域を超え、ストーリーの結びつきで活性化

織姫が祀られたとされる栃木県足利市の足利織姫神社には、世界中のANAの就航地から集めた短冊が毎年奉納されている。これはANAグループで2008年から始まった七夕短冊奉納行事で、集まる短冊の数は3万を超える。

例4 外国人への「お守り」の価値訴求

諸外国でも、「不思議のメダイ(カトリック)」や「ファティマの手(イスラム教)」、「ナザール・ボンジュ(トルコ)」など、お守り(厄除け/ラッキーチャーム)の文化は存在する。外国人にとっては、日本のおみくじやお守りも、こうした機能を理解されたうえで、日本文化を感じられるアイテムの一端としての“人気のお土産”という位置づけとなっている。東京、芝の増上寺では英文のおみくじが提供されているほか、浅草神社ではお守り一覧の写真に英文で説明を記載したパネルを授与窓口に設置している。

例5 日々の消費が社寺への寄付に繋がる仕組み

茨城県鹿嶋市の鹿島神宮は、三越伊勢丹グループのクレジットカード会社エムアイカードと提携し、「鹿島神宮カード」を発行、神社初のクレジットカードが誕生した。カード年会費やカード利用で貯まったポイントが、式年大祭御船祭の斎行および文化財の保護継承のために寄付される仕組みだ。利用額に応じて毎年返礼品が贈られるほか、参拝時には神職による案内、宝物館の無料入場などの特典がある。

5. 今後の社寺ツーリズムの可能性

訪日外国人の増加や来訪箇所・体験ニーズの多様化、「歴史文化マニア」ではない若年層がご朱印やお守りに求めるデザイン性や目的特化型の志向性、ICTの発達等による市場の変化を背景に、時代の最先端を目指すことに躊躇いなくチャレンジしていく活動のひとつとして、観光が位置づけられるものと考える。社寺は、常に最先端の教義、建築、教育などを吸収し発展してきた。市場の趨勢や時代のニーズに合わせる柔軟さを持ち、最新技術の積極的活用を通じて、「ほんものの文化」である伝統や信仰を伝達していくことが重要である。社寺の意義や価値を来訪者に視覚的・感覚的に伝える手法は、社寺で行われる座禅や写経等の体験のみならず、場のちからを活かしたイベントやコンサート、お守り等の授与品など多岐に渡るが、それが最先端の技術やデザイン、芸術を取り込んだ精神性の高いもの・ことであれば、国を超えて、現代の市場に受け入れられるだけでなく、後世にまで残っていくということは歴史に明らかだと言ってもよい。

若年層が目的特化型のお守りを欲しがる背景には、社寺への期待や敬意があり、自身の生活の個別具体的な悩みに合わせてそのパワーを借りたいという思いの現れであると理解することができる。若年層と社寺との距離は決して遠いものではなく、従来にない新たな視点でご朱印の美しさやお守りに親しみ、『パワースポット』という名称を借りて場の力を体感しにいこうとする積極性を有している。ハレの象徴でもある祝祭空間としての社寺の役割は、旅行という行為に対して期待される非日常性と共通する。社寺ツーリズムのかたちのひとつとして、消費して思い出に変わる旅ではなく、手に収まるお守りなどのツールを通じていつでも非日常空間の扉を開けることができるという精神性を伝達することが重要だ。そしてそのツールは、一方では「モノ」として、又はファッションとして、消費者の現代のニーズやセンスに合致する形状、機能を有していなくてはならない。現代の感覚でデザインされたモノの深部に、形のないなにか大切なものが宿るという古来変わらないお守りの性質自体が既にファンタジーであり、このファンタジーこそが、社寺の意義や信仰を伝えるために最もわかりやすい入口になるのではないだろうか。