変わる旅行業務取扱管理者資格の取得目的と役割

最近何かと話題に上ることの多い観光産業。観光に関わる国家資格の1つである「旅行業務取扱管理者」はかつては旅行業に従事する人のみが受験していましたが、近年その資格取得の目的に変化が出てきました。それはどんな変化なのでしょうか。

仲田 耕太郎

仲田 耕太郎 観光教育事業部 マネージャー

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目次

はじめに

観光が地方創生の要となる産業として期待が高まる中、観光産業を支える人材の育成は大きな課題の1つです。大学教育でも将来の観光産業を支える人材の育成に力を注ぎ、新たに観光学部や観光に関わる学部、学科を設置する大学が全国的に増えています。また、最近では、経済学部や商学部といった観光に直接関係のない学部でも「旅行業務取扱管理者試験対策講座」を授業に盛り込む大学が出てきています。

「旅行業務取扱管理者」とは「通訳案内士」とともに観光業に関わる国家資格の1つで、旅行事業者に必要な資格として主に大手旅行会社を目指す学生や旅行業に携わる社員が資格取得をめざしています。しかし最近では、鉄道会社や地域の観光協会といったいわゆる従来の旅行会社とは違う組織団体がこの資格に関心をもち、取得に力を入れ始めています。その背景には、着地型旅行の普及を目的とした第3種旅行業者の登録の規制緩和があります。着地型旅行商品の企画や販売を可能にするために旅行業登録を取得する観光協会が増加しています。また、観光客の増加により観光産業が多様な産業と関わりを持つことが認知され、広く“観光の視点”を持つことは少なからず事業にとってプラスになるという考えも広まっているのではないでしょうか。

以下では当社が長年試験対策用のテキスト発行や通信教育を実施する中で得られた、旅行業務取扱管理者試験の受験者の変化や出題傾向を通じて、観光人材として求められる役割とは何か述べたいと思います。

旅行業者の資格から観光を支える人材のための資格へ

1. 旅行業務取扱管理者とは

旅行業務取扱管理者は「旅行業務に関する取引公正の維持」、「旅行の安全の確保」「旅行者の利便の増進」を営業所(=店舗)ごとに管理・監督することが仕事です。営業所(=店舗)に最低一人を配置することが法律=旅行業法で定められています。旅行業務取扱管理者になるには国内旅行業務のみが取扱できる「国内旅行業務取扱管理者(以下国内)」と国内旅行、海外旅行の両方を取り扱うことができる「総合旅行業務取扱管理者(以下総合)」のいずれかの資格取得が必要です。

2. 第3種旅行業者に必要な「国内」試験受験者数は3年前から微増

2016年(平成28年)度の「国内」の全科目受験者数は14,469人で合格率32.1%、「総合」の全科目受験者数は5,437人、合格率12.8%でした。過去7年間の受験者の推移は以下の通りです。「国内」の全科目受験者は2013年から僅かながら増加しています。合格率についても「国内」4年ぶりに30%を超えました。「総合」の全科目受験者数は微減しており、合格率も2011年は10%台に留まっています(図1、2)

旅行業務取扱管理者受験者数の推移

図1 旅行業務取扱管理者受験者数の推移

旅行業務取扱管理者受験者数の推移

図2 旅行業務取扱管理者受験者数の推移

3. 旅行業者の資格から観光を支える人材のための資格へ

「総合」の受験者数の伸び悩みは、いわゆる既存の旅行会社(第1種)での取得者の減少が背景にあります。「総合」試験における旅行業および旅行業関連の受験者の割合は約40%。OTA(Online Travel Agent)の台頭により、旅行会社の店舗数は減少傾向です。

一方「国内」は旅行業の受験者割合が12.2%と比較的少なく、学生が47.6%と約半分を占めています。最近は運輸業(3.7%)、宿泊業(3.2%)、観光業(2.5%)のほか公務員を含む会社員(20.0%)も受験しています。運輸業は自分たちの沿線や路線を中心とした着地型観光を伸ばしていくため、観光協会は前述のとおり、自らの地域に旅行者を呼び込むためにこの資格取得に力を入れています。観光を取り巻く変化が旅行業務取扱管理者の受験者構成にも表れていると言えるでしょう。

試験科目から考える、観光人材に必要な能力とは

観光を支える人材に求められる能力としては、(1)法律などの正確な知識、(2)お客様と契約を結ぶ際の実践的な知識、(3)国内、海外の観光地と話題のスポットの知識、(4)出入国法令、海外実務などの実務に必要な知識が求められ、具体的な試験科目は以下の4つがあります。

1. 旅行業法

旅行業者として守るべき法律と罰則(刑事罰や行政処分)の知識。試験では正解をすべて選ばせる問題が出題され、管理監督をする立場として正確な法務知識を問う。

2. 旅行業約款

いわゆる「旅行者と交わす約束事」。契約内容をお客様に正確に説明する力が求められ、試験では「募集型企画旅行(=パッケージ旅行)」を契約する際に交付する契約書面や契約を取り消した際に支払われる金額などが出題されている。

3. 国内実務

国内実務では、観光地など「国内観光資源」についてとJR、国内航空、貸切バスなどの運賃、料金、規則についての問題の大きく2種類が出題される。どちらも最新の情報や時事についての知識が必要。また昨年1月の軽井沢でのバス事故を受けて貸切バスに関する問題が多く出題された。

【2016年度に出題された例】
・三島スカイウォーク(2015年12月開通)
・国立西洋美術館(2016年7月世界遺産登録)
・北海道新幹線の運賃計算、グランクラスの料金(2016年3月北海道新幹線開通)

4. 海外実務

海外実務は「総合」試験のみが対象。内容は「海外観光資源」のほか国際航空運賃、出入国法令、旅行英語、海外実務の5分野。国内同様、最新の情報が出題され、旅行会社で働く人を意識した実務問題が多い。

【2016年度に出題された例】
・ANAエコノミークラス割引運賃(往路運賃と復路運賃の設定がある2016年度の新設運賃)
・LOTポーランド航空の航空会社コード(2016年1月より就航)

なお、下表は、当社の分析による科目別の難易度です。

当社の分析による2016年度の科目別の難易度

表:当社の分析による2016年度の科目別の難易度
(注)3段階評価(A:易しい B:やや難しい C:難しい)

最近の受験者の動き ~増えるスマートフォンでの学習~

当社は1982年より試験対策用のテキストを発刊し、翌年に通信教育を開始しました。2015年ではデジタル化に対応し、試験対策用の問題集アプリを作成し、販売しています。

最近の学生の学習スタイルは、テキストで学習した内容を、スマートフォンで楽しみながら復習する方法が適しているようで、2016年には1,000名以上が利用しています。アプリは(1)通学中の電車の中、アルバイトの休憩時間などすきま時間をうまく活用できる、(2)クリップ機能で自分の弱点が把握でき、苦手分野克服のため繰り返し学習できる、というメリットがあり、効果が分かっています。学校によっては、朝の10分間をアプリの時間として勉強するなど工夫を凝らした学習スタイルが生まれているようです。

試験対策用の問題集アプリ

観光を支える人材育成に向けての課題と展望

実際にこの資格を取得して観光協会に入社した職員の方から以下のコメントを頂戴しました。「旅行業務取扱管理者の資格を取得したことにより自分の仕事に自信を持って取り組むことができました。それとともに自分の地域だけでなく、他の地域の観光地を知ることができましたので、他と比べた自分の地域の良さや他の地域から学ぶべきことが見えてきました。また、海外についても学んだことで、自分の地域に来ていただける外国の方にも親しみを持てるようになりました」。

観光庁は今後に向けてランドオペレーター登録制や宿泊施設の着地型旅行販売を検討しています。このような新しい社会の動きを受けて、観光を支える人材が必要される機会や場も変わることを前提に、「旅行業務取扱管理者」も活躍の場が常に同じではないと考える必要があるでしょう。また社会におけるICTの進化とともに既存の旅行会社で人がどのような価値を提供できるか、そのあり方を問うためにも、総合旅行業取扱管理者はこれからどういう意味を持つのか考えることが必要なのではないでしょうか。