JTB総合研究所の「考えるプロジェクト」 

2015 火山砂防フォーラム 熊本県阿蘇市で開催(10月29日)

2015.11.05 河野まゆ子  JTB総合研究所 主席研究員

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10月29日、2015 火山砂防フォーラムが阿蘇市で開催されました。本フォーラムは、毎年1回、全国の活火山周辺で「火山を知り、火山と共に生きる」をテーマに、本年で25回を数えます。本年9月14日に発生した阿蘇山中岳の噴火をきっかけに、噴火警戒レベルが2(火口周辺規制)から3(入山規制)に引き上げられるなど、全国的にも注目が高まっている地域での開催となりました。

フォーラムは、地域の中学校、高等学校の生徒による研究発表、阿蘇グローバルジオパークの認定や活火山法の改正などを受けて展開する、専門家によるパネルディスカッション等で構成されました。阿蘇市立一の宮中学校は、将来的に隣接地区に小学校が建設されることを受けて、小学生の安全な避難のために一の宮中学校として協力・連携してできること、というテーマで、通学路周辺の危険箇所マップの作成に取り組んでいます。熊本県立阿蘇中央高校は、地域がジオパークに認定されたことを契機として、市民や来訪者に地域の特性への理解を深めてもらうためのツアープランや地域ならではの食事メニューの検討などを行いました。

trend_20151105_002パネルディスカッションは、近年の火山活動状況や、安全迅速な避難誘導体制を構築するために社会や地域に何ができるか、と言う観点で議論が行われました。
日本全国に数多くある「常時観測火山」の活動状況を踏まえると、近年は「大きな噴火」は起こっていないということが言えます。大きな噴火はこれから先に発生する可能性がある、という認識のもと、活火山法の改正を受けた取組を地域が推進していかなくてはなりません。法改正の主なポイントは、

  1. 国が火山災害警戒地域を指定
  2. 火山防災協議会設置の義務付け(観光関連団体・事業者も任意で構成員に含む)
  3. 避難確保計画作成義務付け(観光関連団体・事業者も)

の3点です。火山噴火のほかにも、地震や津波、土砂災害等、日本には多くの災害の危険性がありますが、これまで、観光に携わる民間事業者が、大規模災害時の避難計画やマニュアルを策定することはありませんでした。その意味で、今回の法改正は意義の大きいものであると言えます。観光関連事業者の計画づくりを支援する役割として、火山防災協議会の役割は極めて重要です。

阿蘇地域のジオパーク認定は、地域の特性を地域内外に周知するひとつの契機になり得ます。しかしながら、『世界遺産観光』と比べると、『ジオツーリズム』や『産業観光』は所謂「国内旅行マス層」にとって訴求力の高い旅行テーマではないのが現状です。阿蘇の本来の価値は、阿蘇山の広大なカルデラをはじめとした、草千里や山焼きに代表される独特な自然景観、温泉、地形の特性に密接した農畜産物などにあり、観光客はこれらを求めて当地を訪れます。それらの恵みが、地域の地理的な特性と密接していることをより深く理解するための仕組みとして、ジオパークであることを活用することが可能です。阿蘇にとどまらず、日本という国土に散在する(観光魅力としての)恵みと、地理的な特性やリスクを関連づけて理解するよすがとしてジオパークが機能することにより、地域住民並びに来訪者が地域への理解を深める契機を創出し、自然災害とそれから身を守る方法について実体験や肌感覚として学べる機会にもなることが期待されます。

火山砂防フォーラム委員会

http://www.sabopc.or.jp/vsf-committee/index.html

2015.11.05河野まゆ子 JTB総合研究所 主席研究員

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