1. コラム
  2. SDGs達成に貢献する観光-サステナブル・ツーリズムについて

研究員コラム

SDGs達成に貢献する観光-サステナブル・ツーリズムについて

熊田 順一

主席研究員

公開日

観光におけるSDGsの達成には5つの視点、①包括的・持続的な経済発展に貢献する観光 ②社会的な関わり、雇用拡大や貧困の撲滅 ③資源の有効活用、環境保護や気候変動 ④文化的価値・多様性・遺産保全に貢献する観光の役割 ⑤相互理解・平和構築・安全/安心に貢献する観光の役割、が必要です。本文では、視点ごとにどのような観光を実践するべきなのか事例を紹介します。

次世代にこの美しい地球を引き渡していくために、地球全体で決めた17の目標と169のターゲットであるSDGs―持続可能な開発目標。少しずつ確実に観光業界においても、持続可能性の議論が進んでいます。また今回のコロナ禍において、地球上に住む人々の健康を、みなで守るという価値観が生まれていることも留意しなければなりません。

日本の観光セクターでは、2019年の大阪開催のG20サミットや北海道・倶知安で行われたG20観光大臣会合での議題に取り上げられ*1、内閣府や観光庁でも、SDGs達成に貢献する「サステナブル・ツーリズム」の枠組みが議論*2されています。またサステナブル・ツーリズムのあり方についての議論や、持続可能な観光ガイドライン/Japan Sustainable Tourism Standard for Destinations (JSTS-D)*3(GSTC(グローバルサステナブルツーリズム指標))の日本版の発行がされるなど、観光地や観光事業者の視点で、観光が社会、経済、自然環境に与えるプラスマイナスの影響について、ステークホルダーの認識が高まっています。

過去のコラム「これから観光産業の変革を促すSDGsの考え方とは?」では、観光におけるSDGsの達成には、5つの視点が必要と述べましたが、本文では、視点ごとに関連する目標を明確にし、どのような観光を実践するべきなのか事例を紹介していきます。

絵1 観光庁 持続可能な観光ガイドライン JSTS表紙

図1 UNWTOが定義づけた5領域とSDGsの相関

出典:UNWTO資料に基づいてJTB総合研究所作成

 

1. SDGsと地方創生に貢献する観光の役割と責任

観光や旅行の意味付けは、日本を含む世界でここ数年変わりつつあります。施設や物資・資源を消費する観光から、情報や対話、つながりを創り・紡ぐことへの付加価値を高め、消費を促す観光へと変容させていくということです。そのために、私たちは何をしていくべきでしょうか。その中心にある価値は「語り継ぎたくなる物語(ストーリー)」、「思いがけない出逢い(Serendipity)」や「正真性(Authenticity)」が求められていると、ここ数年言われています。その中心にあるものは一体何でしょうか。それは過去から未来へと脈々と繋がっていく自然であり、その土地に住む人々であり、その人々が紡いできた歴史であり伝統・文化なのではないでしょうか。

サステナブル・ツーリズムは、「経済成長ができる」、「社会文化的に好ましい」、「環境的に適正である」という3つの条件を満たしていることが重要です。その推進にあたっては、2017年に国連が設定した持続可能な観光国際年で定義された1) 包括的・持続的な経済発展、2) 社会的な関わり、雇用拡大や貧困の撲滅、3) 資源の有効活用、環境保護や気候変動、4) 文化的価値、多様性、遺産、5) 相互理解、平和、安全といった5つの領域に十分に配慮し、観光地の特性やその観光地に来訪する旅行客の特性を踏まえ、各領域での持続可能性が担保される取り組みを支援していくことが重要です。また、このコロナ禍において、地球上に住む人々の健康を、みなで守るという価値観が生まれつつあります。以下に、コロナ禍の課題も含め、その5領域における視点や主要な対応課題・方向性を整理しました。

 図2 UNWTOが定義づけた5領域に関わるSDGsターゲット事例

 

2. SDGs達成に貢献する5つの領域と大切な視点

1) 包括的・持続的な経済発展に貢献する観光

対象となるSDGsは以下の6つ(1:貧困、2:飢餓、8:働きがい、9:イノベーション、10:格差、17:パートナーシップ)です。観光のバリューチェーンで考える場合、目標14の漁業や目標15の林業、持続可能なまちづくりである目標11も、経済活性化の観点で関連付けられるSDGsは目標と言えるでしょう。

観光は人々の往来に伴う、経済効果の象徴的な現象です。サステナブル・ツーリズムの観点での経済効果として大切すべき視点は、2つあります。一つは観光によって生み出される経済活動に関わることを、希望する事業者・人々が参加できるよう、市場から着地までのバリューチェーンを通したデザインがなされている枠組みか ‐ 包摂的で誰にでも開かれ健全な観光経済圏の醸成。 二つ目は観光がもたらす経済効果が、観光地に住まれる皆さんに還元され、その実感を得られている状態となっているか - エコノミック・リーケージ(経済利益の地域からの流出)の最少化です。

具体的なアクションとしては「地産地消の考え方」、「閑散期や未利用時間帯に、価値創造による人流を創出」、「リピート客や長期滞在への取り組み」、「地域循環率」などが挙げられます。

2)社会的な関わり、雇用拡大や貧困の撲滅

対象となるSDGsは以下の5つ(1:貧困、3:健康、4:教育、5:ジェンダー、8:働きがい)がUNWTOからは示されています。観光と直接関連する要素としては、重要な社会インフラである給水・トイレ施設の整備と関連する目標6、観光と共生するまちづくりである目標11も、関連する目標と捉えることができます。加えて、今次コロナ禍において、健康格差のない社会の実現(ゴール10)へ観光が担う責任も、検討していく必要があります。

「月日は百代の過客にして行き交う年のまた旅人なり。」 芭蕉は日々の暮らしが、実は旅の暮らしの裏返しでもあることを見事に表現しました。旅人は住民であり、住民は旅人でもあります。生まれた、育った等の愛する場所で人々が集い、学び、暮らす。自分の生まれ育った町を愛するように、訪れる町や土地を愛すること。サステナブル・ツーリズムを通じて、より良い社会づくりに貢献する上で、重要なことは3つあると思います。一つ目は土地の人々の日々の暮らしを支える雇用を、生み出す観光を実践すること。二つ目は、貧困、ジェンダーや障害を持つ方々が抱える課題の解決に、つながる考え方を観光事業推進の中に織り込んでいくこと。そして最後は、地域を暴力や疫病から守り、安全安心と平和を維持するルールやガイドラインといった知的インフラと、道路やトイレ・給水、公共ホールや避難所、病院等の施設インフラを、旅人と住民が共有を推進すること – 旅住包摂のまちづくりです。

「すべての人に健康と福祉を」というSDGs目標3に対し、往来・交流から生まれる価値をコア・バリューとする旅行・観光が担う責任や義務について、旅人と住民が共有できる、新たなルール作りについても取り組むべきでしょう。

具体的なアクションとしては、地域住民や旅行者の地域社会活動への運営・参画の機会の提供や、地域施設等の既存ストックを、地域社会と旅行者・観光事業者が協調しながら利活用すること、生産・働くことと、旅することが共存する産業観光、観光事業者や旅行者の公衆衛生ガイドライン整備・導入などが挙げられます。

3) 資源の有効活用、環境保護や気候変動

対象となるSDGsは以下の7つ(6:水とトイレ、7:エネルギー、11:街づくり、12:つくる責任・つかう責任、13:気候変動への対応、14:海のゆたかさ、15:陸のゆたかさ)です。6、11、14、15は自然や街、そこに住む人間も含めた、動植物が育まれる土地や食に関連する目標であり、7、12、13は気候変動やエネルギー資源とその消費や再生の仕方に関わる目標です。食糧との関連では、持続可能な農業を推進する目標2も関連する目標となります。

自然や環境は、SDGsにおいて一番大切な領域です。持続可能な開発の重要な考え方*5とは、「地球環境の生態系の保全」を踏まえた持続可能な社会の構築にあり、それを進める上、重要な考え方は3つあります。

一つ目は、当たり前のように供給されると考えられているエネルギー、食糧といった地球環境に依存する資源消費に対する考えを変容させる - 地球の資源が有限であることを認識することです。二つ目はその地球に生きる動植物の暮らしを、脅かすようなアクションを止め、危機に瀕している動植物やその生態系の完全な保全を行うこと。

そして三つ目は将来世代へも、個々の地球環境の恵みを受け渡していくことです。

具体的なアクションとしては、自然・地球環境保全(気候変動、生物多様性の損失)への取り組み、地域的環境問題の削減(騒音、ゴミ問題)、景観保全(里山景観、日本の国立公園モデル対応)、資源の過剰利用回避、環境汚染の回避、消費・ゴミ(プラスチックや食廃棄)、食(地産地消、農林水産業の多角化、食廃棄)への配慮、再生可能エネルギーの利用促進、循環型経済の考え方導入、ハイブリッド・電気・水素自動車の利用促進などが挙げられます。

4)文化的価値・多様性・遺産保全に貢献する観光の役割

対象となるSDGsは以下の3つ(8:働きがい、11:街づくり、12:つくる責任・つかう責任)がUNWTOでは示されています。さらに加えるのであれば、目標4の教育関連では、フィールド・トリップ(修学旅行含む)を通じた教育への貢献や、多様性を認め合う社会形成の観点から、目標5のジェンダーや目標10の格差解消では、社会的弱者を包摂した、社会形成への貢献も検討できる領域です。

観光はサステナビリティの3つの基本要素である、経済・社会・自然に加え、人が創り出した文化を軸とした貢献も、重要な視点として考えられています。推進にあたって以下3つの視点が重要です。一つ目は、地域に根差したかけがえのない伝統・文化を継承し、現在の人々が持つ文化創造への取り組みを支援していくこと。二つ目は多様性(次世代の人々、マイノリティ等)を尊重し、様々な価値の存在を認め合う、多様性社会を醸成していくこと。三つ目は、現在の生活の基礎となる、有形無形の歴史・文化遺産に、観光は大いに依存する一方で、それらを支える大切な役割を果たしているということです。

具体的なアクションとしては、包摂性をもって観光業で働く人々を採用していくことや、地域の人たちが未来に残したい、地域の有形無形の自然・文化のストーリーを見つけ、観光の中に語り継いでいくことや、地域の有形・無形の文化・自然観光資源の保全、修復の実施すること、地域の有識者や住民によるインタープレテーション(解釈)を織り込んでいくことなどが挙げられます。

5)相互理解・平和構築・安全/安心に貢献する観光の役割

対象となるSDGsは以下の2つ(4:教育、16:平和と公正)がUNWTOでは示されています。さらに加えるのであれば、パートナーシップ構築の観点で、目標17も貢献できるSDGsと言えるでしょう。

観光は人と人、人と文化、人と土地、人とモノといった交流・出逢いを通じて、パートナーシップを促進し、心を動かし、対話を促す遺伝子を生来から持っています。文化の多様性を認め合い、相互に理解を深め合うことで、安心安全な社会を構築し、ひいては各地域に平和をもたらすことは、旅をされてきた皆さんが良く知っているところです。

訪問地に住む人々は旅人との対話を通じて、その国の文化に触れることで、他国の人々やその文化への敬意を高めていく機会となります。旅人は訪れる地域の人々との対話を通じて、その地域の文化的価値を学び、その土地への愛着を深めていきます。その対話の接点をできるだけ多く作っていくことが、真のサステナブル・ツーリズムであるとも言えます。デジタル化が進む昨今、旅人と住民の対話が少なくなる場合と、それを活用して対話が促進される場合があると思います。「人が担うべき真の対話は何か?」を考えながら、旅の一番大切な要素である「対話」の時間を大切に、育んでもらいたいと思います。

具体的なアクションとしては、地域住民と旅行者の交流(MICE誘致・開催なども含む)、治安の安定、犯罪防止への取り組み、災害対応への準備・BCPへの対応、地域外の次世代とのネットワークづくりを推進(修学旅行やインバウンド)、観光地を旅行者が訪れる参加型、地域住民との交流が組み込まれている要素等が挙げられます。

3. サステナブル・ツーリズムを進めるフレームワークとアクション

サステナブル・ツーリズムを推進し、SDGs達成に貢献する観光政策や事業の実現にあたっては、関連するステークホルダー(地域事業者、地方公共団体、アカデミア、市民・NPO、地域DMO、国内大手ランドオペレーター、海外ツアーオペレーター)が、①学ぶ(情報収集・理解促進・啓発)、②守る・育てる、③つなぐ・支えるというフレームワークで整理し、短期・中期・長期の視点を持って、それぞれが連携して取り組みを進めて行くことが有効です。その具体的なアクション事例と共に紹介をしておきたいと思います。

1) 「学ぶ(情報を集め、理解し、日本に広める)」取り組み

  1. SDGsと観光との関係やサステナブル・ツーリズム指標の理解の促進
  2.  国際会議や調査を通じた国内外のサステナブル・ツーリズム事例の収集と共有
  3.  教育機関の活動を通じたSDGsを学ぶ観光プログラムの開発・展開
  4.  旅行者の消費行動を変容させる消費者への啓発

2) 「守る・育てる」取り組み

  1. グローバル課題の解決につながる地域の有形無形の文化・自然・ノウハウの発見・理解
  2. サステナブル・ツーリズムのプログラム、ガイドや施設サービスの開発・策定・啓発
  3. 地域における観光危機管理への理解推進
  4. 地域のSDGs取り組み組織や訪問地のSDGs視点における評価

3) 「つなぐ・支える」取り組み

  1. 日本サステナブル・ツーリズム推進協議会(仮称)の組成・運営を通じた賛同者の拡大
  2. 観光コンテンツ(自然・文化)や観光地事業管理のデジタル化の推進
  3. サステナブル・ツーリズムのバリューチェーン・ネットワーク構築
  4. コンサルティングやファンディングなどサステナブル・ツーリズム事業構築支援


4. コロナ禍から戻るべき場所 – その先のサステナブル・ツーリズム推進に向けて

サステナビリティは「保護・保全」を象徴する言葉としてよく使われます。しかし実態は、これまでも、そしてこれからも人の心の中に大切にしてきた「真心」に近い価値ではないでしょうか?コロナ禍において新しい価値観が日々、芽生えていると言われています。実はその新しい価値は決して新しいものではなく、先祖代々に地域に紡がれてきた、伝統・文化・自然に寄り添った、私たちの中にある真心なのだと思います。

そして観光を通じて人々は多くのことを学びます。また、観光は一番近くで人々や自然が生み出した有形無形の価値を守り、育てています。観光は次世代の若者たちが新しいことへ取り組もうとする意欲や、未来への夢、そして挑戦する勇気を育む場をエンパワーメントしています。それがサステナブル・ツーリズムの根幹なのではないでしょうか?SDGsがツーリズムに問いかけ、期待するもの。それはより良い明日への新しい一歩だと考えます。新たな日常への変革の過程である現在、再度、感動・対話・交流を創出するツーリズムの実現に、ゼロ・ベースで挑戦する良い機会かもしれません。

本寄稿は、2019年度に内閣府が主催する「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」の分科会「観光を通じた地方創生のSDGs達成貢献に関する勉強会」で報告をされた「地方創生に向けたサステナブル・ツーリズム推進の基本的な考え方」を基本としています。2020年度も同勉強会を継続して開催し、実践的なサステナブル・ツーリズムのモデル事業や、サービス選定などを検証していく予定です。ご興味のある企業体や自治体は、是非ともご参加を頂ければと思います。
 

【出典】
*1:G20北海道倶知安観光大臣会合 倶知安宣言「観光による持続可能な開発目標(SDGs)への貢献の推進」
*2:内閣府 地方創生SDGs官民連携プラットフォーム 分科会〝観光を通じた地方創生の SDGs 達成貢献“に関する勉強会(株式会社JTB、株式会社JTB総合研究所)
*3:観光庁 持続可能な観光ガイドライン
*4:UNWTOは2017年持続可能な観光国際年では自然環境領域に貢献するSDGs目標に、目標2「飢餓をゼロ」は含めていないが、農業から生み出される食糧に関わる目標として筆者は提案している。
*5:藤稿亜矢子 「サステナブルツーリズム 地球の持続可能性の視点から」 晃洋書房

著者

熊田 順一

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