6分間でも十分
寝台列車「サンライズ瀬戸・出雲」乗車時のシャワー時間
- Source
- 西日本旅客鉄道株式会社
数字を
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旅に出ると、普段は意識しない数字にハッとさせられることがあります。例えば、「湯水の出る時間は約6分間です。」という表示。これは、現在日本で唯一運行している寝台列車「サンライズ瀬戸・出雲」のシャワーの制限時間です。シャワーは専用カード制で、1枚330円。1編成につきわずか20枚限定、しかも先着順での販売です。最大158人が乗車できるこの列車で、その20枚をめぐる“静かな争奪戦”が出発時刻前に繰り広げられます。かくいう私も、その争奪戦に敗れた138名の一人です。
幸運にもシャワーカードを手に入れた乗客に話を聞くと、カードをシャワーブースに通すと6分間お湯が出て、途中でストップボタンを押せば一時停止もでき、残り時間を確認しながら使えるとのこと。多くの人が「え、たった6分しかないの?」と最初は不安に思うそうですが、実際使ってみると、意外と十分な時間なのだそうです。服を脱ぎ、湯を浴び、体を洗い、さっと流す。限られた空間の中で無駄のない動きをすることで、女性でも「むしろ時間が余った」という声があるほどです。
かつて運行していた寝台列車「カシオペア」でも、シャワー時間は同じく6分間に設定されていました。日本は世界の中でも水資源に恵まれた国ですが、列車に積める水の量には限りがあります。限られた設備の中で、いかに快適に過ごすかを考え抜いた結果が、この“6分”なのでしょう。

実際のシャワーボタン(筆者撮影)
また、6分という制限時間が自然と意識されるのは、残り時間がカウントダウン表示される仕組みも理由のひとつです。時間が「見える化」されていることで、利用者は時間配分を無理なくコントロールできます。
一方、英国の寝台列車ではまた異なる体験ができます。ロンドンとスコットランドを結ぶ寝台列車「カレドニアン・スリーパー(Caledonian Sleeper)」には共有シャワーブースはなく、シャワー設備は一部の客室に限られています。「クラブルーム」などのラグジュアリーな客室にのみ専用シャワーがあり、使用時間や水量の制限もありません。「カレドニアン・スリーパー」は、クラシックな雰囲気を保ちながら、価格帯や設備に幅を持たせることで、富裕層から一般の旅行者まで幅広い層に利用されています。
時間に制限のないシャワーと比べると、日本の「サンライズ瀬戸・出雲」の6分間限定の共有シャワーは、一見制限があるように思えます。しかし、短時間に集中して身支度を整え、無駄を削ぎ落としたその行動の中には、旅ならではの集中力とリズム、そして心地よさが生まれるようにも感じます。私たちは、本当に自由を求めているのでしょうか?もしかしたら、少しの制限があることで、より豊かな体験ができるのかもしれません。こうした「制限された自由」もまた、旅の魅力のひとつだと感じています。(WF)