ごあいさつ

JTB総合研究所 代表取締役 社長執行役員の野澤 肇からのごあいさつです。

野澤 肇

2020年度を迎えて

2020年の世界は、2019年には全く想像出来なかった姿になりました。新型コロナウィルス感染症の影響で人々の交流は途絶え、先行きが全く見通せない状況が続いています。

日本のツーリズムは大きな発展を遂げてきました。官民一体の取り組みによりインバウンドは急成長し、地域創生の切り札として各地が揃って観光に注力してきました。DMOの設立や企業の投資も進んでおり、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会が開催される2020年は日本のツーリズムが花開く希望の年になるはずでした。

今回のパンデミックは、ツーリズムを一時的にペースダウンさせるだけでなく、その姿を大きく変える可能性があります。新型コロナウィルス感染症はいったん「収束」しても完全な「終息」はせずにくすぶり続けるかもしれず、制圧しても将来また新たな感染症が流行する可能性があります。人々は今直面している恐怖から完全に解放されないかもしれないものの、旅する欲望が無くなることも想像出来ません。リスクに敏感になった旅行者の行動や訪問先、移動手段等は変化し、旅の形を大きく変える可能性があります。

自宅に留まる私たちの生活をITが支えていることは間違いありません。在宅勤務し、ネットで買物し、外食代わりにデリバリーを利用し、友人とネットで会話しています。不便やストレスを緩和するのみならず、ITの利便性を再発見しているはずです。外に出られるようになってもこの武器を手放すことは無いでしょう。ポストコロナの世界は、全てにわたりデジタル化が進み、それはツーリズムの世界にも大きな影響を与えるはずです。

これまでの日本のツーリズムはブームといって良い盛り上がりを見せ、数を伸ばすことに重点が置かれてきたように思います。急激な旅行者増加がオーバーツーリズム(観光公害)を生み出す一方、地域分散は進まず恩恵が一部地域に偏るという問題も顕在化していました。Flight Shame(飛び恥)に象徴される生活者の環境意識の高まりに変容を迫られる兆しも現れていました。今後の再成長のためには、量より質を重視し、環境や地域との共生を前提とし、SDGs(持続可能な開発目標)の提唱する「誰一人取り残さない」発展を目指していく必要があるでしょう。

今回の危機は、過去に経験した9-11、SARS、リーマンショックや東日本大震災よりも影響が大きいいかもしれませんが、必ず乗り越えることが出来るはずです。今までは観光・ツーリズムは「必ずしも無くても良いもの」とみなされる傾向がありましたが、今回は全く異なります。観光は日本の基幹産業と位置付けられるまでになり、復興に向けての様々な取組が既に計画されています。2030年に向けた持続的な成長を取り戻すことが出来れば、2020年がツーリズム発展の大きな転換点だったと評価されることになるでしょう。

UNWTO(国連世界観光機関)のズラブ・ポロリカシュヴィリ事務局長は、”By staying home today, we can travel tomorrow.”と呼び掛けています。「自由に旅する明日を取り戻すために我慢して家の中に留まる」、今はそういう時なのです。我々も家に留まって、これまでの日本のツーリズムの歴史を振り返り、これからの発展に思いを巡らせています。そして、ツーリズム産業のシンクタンクとして、今後の発展のために何が必要か必死に考え、実現に向けて尽力する準備をしていきたいと考えています。

2020年4月

JTB総合研究所
 代表取締役 社長執行役員 野澤 肇