連載 新しい観光の芽 探検隊?~5年先の旅のカタチを探る~

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新しい観光の芽 探検隊?~5年先の旅のカタチを探る~

【第20回】eスポーツキャスター・OooDaさんに聞く、5年先の旅のカタチ

eスポーツキャスターとして活躍するOooDaさんが考える、eスポーツの力と「日常を持ち運ぶ旅」とは?

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本コラムでは、今後の観光や旅行のトレンドの把握と、変化の兆し(=新しい観光の芽)を捉えることを目的に、 旅行分野にとどまらない様々な分野の第一人者への「探検記(=インタビューの様子)」をお届けします。
 今回は、eスポーツキャスターとして様々なゲーム大会やゲームイベントを盛り上げてきたOooDaさんにお話を伺いました。


Profile

OooDa さん

OooDa さん

1987年大阪府生まれ。FPS(一人称視点のシューティングゲーム)を中心に年間200本以上の番組、大会出演をこなすeスポーツキャスター。「初心者にもわかりやすい大会実況」をモットーに、ジャンル問わず幅広く、起伏のあるトークと実況で会場や番組を盛り上げる。

辿り着いた「eスポーツキャスター」という仕事

探検隊

本日はよろしくお願いいたします。最初に、OooDaさんのこれまでのご経歴や現在のお仕事内容などについてお伺いできますでしょうか。

OooDaさん

大阪府出身で20歳くらいまでは地元で働いていました。ただ、色々なことがきっかけで「よし、映画監督になろう!」と思い立ったんです。映画のAD(アシスタントディレクター)をしながら、自主的に映画制作をしていました。でも挫折して、家に引き籠るように。その時に出会ったのがPCのオンラインゲームでした。そのゲームを通じて他のプレイヤーと交流を続けていくうちに、友達ができ、彼女もできたんですよ。彼女と会うためには仕事して稼がなきゃと、その頃から仕事を再開していたのですが、自分を立ち直らせてくれたゲームのコミュニティをもっと盛り上げたいと思い、ボランティアでコミュニティ運営の裏方仕事などをしていました。そこで、トークが面白いから今度実施するライブ配信で喋ってみないか、とお誘いを受け、YouTubeみたいな配信サイトでの活動も始めました。しばらくするとプロのイベント運営スタッフから仕事としてゲーム大会の実況をしてみないかとヘッドハンティングを受けたんです。それが2010年頃だったのですが、これが現在の仕事となります。現在の仕事は99%ゲーム関係のもので、主にゲーム大会、今でいうeスポーツ大会の実況アナウンサーや、ゲームイベントのMC、例えばゲームの新作発表イベントの司会者などをしています。

探検隊

紆余曲折があって現在のお仕事に辿りついているのですね。eスポーツキャスターと聞くと、野球やサッカーなどの他スポーツの実況担当者を思い浮かべる人が多いかなと思います。両者に違いなどはあるのでしょうか?

OooDaさん

野球やサッカーなどのスポーツであれば初めに軽く実況・解説の自己紹介のためにキャスター席を映して、あとはフィールドの選手やお客さんを映していることがほとんどだと思います。一方で、eスポーツの場合はキャスター席を映すことが結構多いんです。eスポーツは基本オンラインで、選手も自宅やゲーミングハウス(チームに所属する選手が集まって練習できる場所)から対戦することになります。なので、試合前の準備時間や試合間の待機時間などは画面に映せるところがなく、言ってしまえば絵が持たない。だからそういう時間はキャスター席を映しておくことが多い。となると、キャスター自身にも場を持たせる力、タレント力のようなものが必要になってくる。これが他スポーツのキャスターとの違いなのかなと思います。僕的にはキャスターはあくまでも裏方だと考えているので、あんまり画面には映りたくないんですけどね(笑)。

 

1つのゲーム画面に様々な想いが集約されるeスポーツ

探検隊

そもそも「eスポーツ」とはどのようなものなのでしょうか?

OooDaさん

「デジタルゲームを使って競いあうこと」が「eスポーツ」です。例えば、パズルゲームを1人で黙々とやる場合は「ゲーム」ですが、スコアを競い合うなど2人以上で対戦する場合は「eスポーツ」に変化します。RPGゲームのような一人用ゲームでゲームシステム的に他者と競い合うことができなくても、プレイヤー側でタイムアタックなどのルールを設けて競い合うことができればeスポーツになるので、どんなゲームでもeスポーツになる可能性があると考えています。

探検隊

ゲームとeスポーツは別物ではなく、延長線上にあるものなのですね。では、OooDaさんが考えるeスポーツの魅力とはなんでしょうか?

OooDaさん

他のスポーツにも言えることですが、競技性故のワクワク感・高揚感を体験できることですね。単なるゲームプレイでもそのような感覚を得ることはできますが、そこに実況解説がついたり、選手のバックボーンなども加味されるとそのワクワク感や高揚感はより強くなると思います。また、1つのゲーム画面に色んな人の、色んな想いが詰まっているというのも面白いなと感じています。映し出されている選手自身の勝ちたいという想いがあるのは勿論のこと、応援する側の想いも凄まじいです。最近のオフライン大会(リアル会場で行う大会)などでは、お客さんが選手のうちわを持って応援していたりします。もはやアイドルですよね。彼らは選手のバックボーンやドラマに魅了されて、画面の向こうの選手たちを応援しているわけです。笑いや怒り、感動が1つの画面に集約されているというのはエンターテインメントとして本当に素晴らしいなと感じますね。

探検隊

1つのゲーム画面に込める想い。そこにはゲーム制作者やイベント運営者、そしてOooDaさんのようなキャスターさんの想いも注がれているのではないかと思いました。1つの画面に対する想いの密度は様々なスポーツの中でeスポーツが最も高いのではないでしょうか。お話をお伺いしていて、eスポーツ大会のオフライン実施について気になりました。eスポーツはオンラインで全国どこからでもできることが魅力の1つだと思いますが、オフラインで実施することの魅力はどんなところにあるのでしょうか?

OooDaさん

ご自身がお好きなアーティストさんをイメージすると分かりやすいと思います。今だと配信サイトなどでライブ映像を見ることができて、家でも迫力のある映像を楽しめますよね。でも、実際にライブ会場に行って、同じものが好きな数千人と一緒になって盛り上がる時の高揚感は本当に想像を超えてきます。eスポーツのオフライン観戦もそれと同じですね。

探検隊

では、eスポーツは最終的にはオフラインに集約されていくのでしょうか?

OooDaさん

オフライン開催はあくまでも選択肢の1つだと思います。勿論、オフライン会場の盛り上がりなどはオンラインにはないものですが、今ではデジタル上でライブ会場を設けて、ARやVRを用いてそこでみんなで観戦することもできるので、オンライン上でもオフラインに近い体験ができる環境は整いつつあります。また、僕自身ひきこもりだった時代もあるのでそういう方々に無理にリアルに出てこいとは思わないです。オンラインゲーム、オンラインでの交流が心の支えになってくれていればよいなと思っています。eスポーツはあくまでもオンラインが中心で、それ以上の楽しみ方は自由という感じですね。

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地域におけるeスポーツの役割

探検隊

地域密着型で開催するeスポーツ大会やゲームイベントもあるかと思いますが、OooDaさんがご担当されることはあるのでしょうか?

OooDaさん

勿論あります。ありがたいことに全国色々なところに行かせていただきました。首都圏以外で毎年行っている場所としては、岐阜や佐賀、福岡、大阪などですね。

探検隊

その中でOooDaさんが印象的だったことは何かありますでしょうか?

OooDaさん

嬉しかったことは、イベントに来てくれたお客さんから「東京までなかなかイベントを見に行くことができなくて、地元でやってくれるのが凄く嬉しい」と言っていただけたことですね。イベントをやって良かったなと実感する瞬間です。また、地方開催のイベントだとショッピングモールなどで実施することが多いのですが、その場に居合わせたゲームにあまり詳しくない人もふらっとイベントに参加してくれたりとか、見てくれたりとか、そういうところでゲームやeスポーツを知ってもらえるというのもとても嬉しいですね。

探検隊

ショッピングモールでイベントを実施されることもあるのですね。その場合は確かに様々な人が参加される可能性がありますね。

OooDaさん

そうなんですよ!以前、「太鼓の達人」を用いてイベントを行った時に幼稚園くらいの男の子が参加してくれたのですが、彼はスコア対決で負けてしまったんですね。そしたら悔しくて地面に倒れてバーって泣き出しちゃって(笑)。また、60代の半身不随の方も体験に来ていただいたのですが、片手でバチを握って楽しそうに演奏されてて、周りの方々も一緒に盛り上がっていました。それを見て、どんな人でも楽しめる、盛り上がることができるゲーム、eスポーツの力って凄いなと改めて思いましたね。

探検隊

本当に色々な方が参加されるのですね!老若男女、幅広い方々が一緒に楽しめるというのは地域でゲームやeスポーツを活用する1つのメリットなのだと感じました。その他、eスポーツ大会やゲームイベントを地域で開催する意義は何かあるのでしょうか?

OooDaさん

少し観点が異なりますが、近年ではeスポーツチームが地域と密着した形での運営をしていたりもします。そういった方向に進んでいるのには色々と理由があると思いますが、1つは地元の声援を力に変えたいという想いもあるのではないかなと感じています。例えば、福岡に密着したeスポーツチームだとすると、応援する人の中には「関西や関東のチームに負けるんじゃないぞ!」という応援をする人も出てくると思います。そうなってきたら試合にかける想いや熱気が1つ増えることになるので、より試合が面白くなるんじゃないかなと期待をしています。

探検隊

eスポーツチームの応援を通じて地域への想いが増していく可能性もあるのではないかとお伺いして感じました。それはつまり、eスポーツが地域への愛着を創出するきっかけになりうるのではないかなと。今後もeスポーツ・ゲームイベントを地域密着型で開催してほしいと思いますが、運営時に障壁になってくると感じる点はありますか?

OooDaさん

地方での開催に限らず、小規模イベントという観点で言いますと、出演者の出演料が上がっていることですね。日本のeスポーツの現状として、コンテンツとしての力がまだ弱いこともあって、YouTubeなどでのライブ配信者・動画投稿者といったインフルエンサーさんに頼る場面がかなり多いです。なので、イベントでもお呼びすることが多いのですが、業界内での出演料の水準が大規模イベントに引っ張られている現状があります。出演料が増加していくことは業界として成熟していくためには良いことかなと思いつつ、やはり地方開催、小規模なイベントだと予算も少なく、そういった方々をお呼びすることが難しくなっています。単純に出演料を下げろということではないですが、個人的には「イベントや地域を盛り上げる」という目標のために、お互いに歩み寄っていく必要があるのではないかなと思います。

 

「日常」を持ち運ぶ旅

探検隊

OooDaさんが考える旅についてお伺いできればと思います。
ご自身が旅をする際に求めるもの・ことは何かあるのでしょうか?

OooDaさん

プライベートでも仕事でも、現地に着いた時に深呼吸をして、現地の空気を吸います。やっぱり土地によって空気が違うんですよ。岐阜や長野あたりの空気は自然を感じられて凄く好きですね。他には、ありきたりですが必ずその土地のご飯を食べたり、滝が好きなので見に行ったりします。少しでも道に迷ったら調べるよりも先に現地の人に話しかけることも多いです。話しかけると大抵びっくりされますけど(笑)。

探検隊

現地の人に話しかけるというのは、結構珍しいですね!インターネットは知りたい情報だけをピンポイントで入手するには良いですが、人とのコミュニケーションであれば意図していない情報も入手できたりすると思いますので、地域のことを知りたいのであれば確かに有効的だと感じました。最後の質問になりますが、「5年先の旅」はどうなっていると思いますか?

OooDaさん

5年先は少し難しいかもしれませんが、僕自身、自分の車が好きなので、自宅から自家用車で楽にどこでも行けるようになっていてほしいと思いますね。勿論、今でも高速道路を使って遠出することはできますけど、新幹線や飛行機よりもかなり長い時間がかかって大変じゃないですか。また、現地まで新幹線などで行って現地でレンタカーを借りるという場合もありますが、僕は自分の車を運転したいんですよ。なので、例えば車用の新幹線などが開発されて、それに車ごと乗って素早く目的地に行く。そして旅先を自分の車で見て回れるというのが理想ですね。

探検隊

最近では、1つのキャビン(部屋)を、車や電車、船、飛行機に乗せてキャビンごと自動で移動するという次世代交通システムが考案され、色々と研究が進められているのですが、イメージはそのようなものでしょうか?

OooDaさん

まさにそんなイメージです!これで旅ができたら良いなと思いますね。

探検隊

自家用車という「日常空間」を旅先という「非日常空間」に持っていくことで、どうしてもストレスがかかってしまう旅先の快適性を向上させたい気持ちが根底にあるのではないかと感じました。これからは、そういった「日常を持ち運ぶ旅」が生まれてくるのかもしれませんね。本日は貴重なお話をいただきありがとうございました!

 


今回の探検で見つけた「芽」

OooDaさんのお話からは、5年先の旅における「空間」に対する捉え方のヒントを得ることができたと思います。eスポーツの現場では、家という日常空間に居ながら、時間になればオンライン上での試合(=非日常)、終われば日常に戻るということが日常茶飯事です。「移動」が無い分、「日常」と「非日常」の境界が密接しているのだと思います。そういったeスポーツの現場で長年ご活躍されてきたOooDaさんの「日常を持ち運ぶ」という考え方は、5年先の旅での「日常」と「非日常」、そしてその間の「移動」に対する主流な考え方になっているのかもしれません。(TOY)