年間70万件の問い合わせを分析

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米IBMの認知型コンピューター「ワトソン」、日本のコールセンターに寄せられる年間70万件以上の問い合わせを分析し、未来予測までを行う

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このたび、米国生まれのワトソン君は、猛勉強で日本語を習得し、日本の保険会社や銀行で仕事をすることになりました。ところでワトソン君は米国人留学生のことではなく、米IBMの認知型コンピューターのことです。彼は、人間の言葉を理解し、分析をもとに仮説を生成し、経験から学習していきます。今、世界に存在するデータの約80%は非構造化*データだといわれています。データ読み込みにコンピューター言語を使う必要がなく、人間の言語で理解するワトソンの能力は重要です。

ワトソンという名前は、IBMの初代社長の名前トーマス・J・ワトソンにちなんで名づけられたものです。彼は、2011年2月に米国の人気クイズ番組「ジェパディ!」にチャレンジして人間に勝利したことで有名になりました。その後、実用化が進み、2012年にはニューヨークのがんセンターと協業、2014年に金融業での利用が始まっています。

ワトソンは、導入を決めた保険会社のコールセンターに寄せられる年間70万件以上の問い合わせの内容を人間の言語のまま読み取って分析し、お客様が「なぜ」問い合わせしたのかを明確にし、そこから将来どんな問い合わせが来るか「未来」を予測します。また、会社側は、ワトソンの分析によって得られる傾向に基づくWeb上での情報発信や要員の適正配置を行い、コールセンターへの問い合わせ件数の削減や応答率の向上を図ります。高度な分析を機械に任せることで、人間は先回りして現在だけでなく将来の顧客へのサービス品質の向上に務めることができるようになるのです。

ワトソンは常に進化を続けています。高度な専門性が必要な法律関連や資産管理の分野などで使いこなせていないデータの有効活用などにも活躍の範囲を広げています。精度の上昇やコストダウンが進めばさらに産業界で利用が広がるでしょう。ワトソンのようなICT技術の進化によって、人間が職を失う心配をする人もいますが、特に、サービス業などの労働集約型産業においては、安易にすべて「人」によるサービスが最上と考えるのではなく、ICTの利活用により、逆に人によるサービスの本質とは何かを見極め、機械ができることは機械に任せ、人がすることに付加価値をつけることが必要なのではないでしょうか。

世界では、現在20代前半の若者はICT技術を駆使し、商品の良し悪しをメーカーからの一方的な情報ではなく、自分の価値観で判断し、逆にその商品の新しい価値を見出すような新しい消費の形を創る”ミレニアル世代”として注目されています。この世代が市場の中心となる頃には、さらなる技術の進展が、これまで解決できなかった問題点を解決するブレークスルーを与えてくれる可能性がますます高まっていることでしょう。新しい世代や時代 の動きに対応するためには、今の技術の進歩がこれからの生活にどのような影響を与えるのか、明るい未来を信じつつ既存の概念を取り払って準備をしていく必要がありそうです。