マイナス60度

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近年、生鮮食品・冷凍食品の物流は、低温(マイナス30~40度)からさらに超低温(マイナス60度)へと技術が進化しており、食品流通分野に変革を起こしています。

近年、生鮮食品・冷凍食品の物流は、低温(マイナス30~40度)からさらに超低温(マイナス60度)へと技術が進化しており、食品流通分野に変革を起こしています。
Source
株式会社ダイレイ「超低温のナゾ」

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現在、国内で流通する生鮮食品・冷凍食品が安全且つ安心な状態で提供されているのは、生産・輸送・消費の過程で途切れることなく低温に保つ物流が構築されているためです。近年は、低温(マイナス30~40度)からさらに温度の低い超低温(マイナス60度)へと技術が進化しており、食品流通分野に変革を起こしています。

私たちがレストランや自宅で食べるおいしい魚や肉は、優れた冷凍技術によって支えられています。家庭用冷凍庫の中には様々な調理済みの冷凍食品がストックされ、食品のおいしさを保ったまま長期間保存することが可能となりました。冷凍技術の発展と普及は私たちのライフスタイルに変化を起こし、製造業、外食チェーン等に広がりをみせ、冷凍技術はなくてはならないインフラになりました。更に冷凍食品の品質やおいしさを追求した結果、腐食を防ぐ「マイナス60度」の超低温物流が実現しました。まさしく“超”長期保存の時代に突入したといえます。

食品が腐食し劣化する要因はいくつかあります。最も身近な現象は、微生物が増殖したことによる作用(腐敗・発酵)と、食品中の酵素による分解などの作用です。これらは、鼻を刺すようなアンモニア臭と黒ずみ等の原因となります。その他、食品自体の酸化などの化学作用や乾燥などの物理作用があり、これらは劣化にあたります。

家庭用冷凍庫はマイナス18度程度で、この環境では時間の経過とともに酵素や微生物によって食品成分は分解・腐敗し、品質は劣化します。5~6年前の規格の業務用冷凍庫はマイナス40度程度ですが、これでも肉や魚は黒ずみ、野菜や果物は酸化・乾燥して食べられなくなります。このように、家庭用冷蔵庫や一世代前の業務用冷凍庫では食品保存に限界があり、取り扱う量が比較的少ない家庭や店舗ではそれほど大きな影響はないものの、大量の食品を扱う事業者にとっては看過できない問題です。最新の業務用冷蔵庫で扱われる「マイナス60度」であれば、タンパク質の酵素分解も脂肪の酸化も起こりにくく、肉や魚は変色せず、微生物の活動もストップし、高品質な状態のまま超長期にわたり保存することが可能となります。

この革新的な技術が事業者の間で認知されるようになり、大型冷凍倉庫用から小型小売店舗用まで製品のバリエーションが広がったことで、販売価格は低下し、小・中規模事業者にも普及するようになりました。その結果、小売事業者や製造業、流通業、旅館等、幅広い分野で事業内容や事業形態に変化が起こっています。
 
(1)食品スーパー及び小売り事業者:利益率の確保
 従来のマイナス40度では、多くの食品で品質劣化を防げますが、マグロやカツオ、エビ、脂質を含む加工品(ケーキ等)といった製品は変色を起こします。
消費者はなるべく鮮度のよいものを購買したいので、変色した肉や魚は手に取りません。鮮度が落ちた商品は売れにくいため、お店側は割引して利益率を下げます。「マイナス60度」の冷凍保存技術の登場で品質が維持されるようになり、事業者は値下げをすることなく利益率を確保することが可能となりました。
 
(2)製造業及び食品流通業:戦略転換・労務改善
 製造業にとって、タンパク質の変化に伴う変色や雑菌繁殖を防ぐことは時間との戦いです。「マイナス60度」の活用で、従来の大量製造販売モデル(売れないとムダになる)から受注生産型モデルへシフトすることが可能となりました。特に、12月のクリスマスシーズンのケーキや年越しのおせちなど期間限定で大量に製造・販売される商品は、「マイナス60度」の超低温冷凍庫でストックされ、繁忙期にて一気に流通させる形となっています。品質を劣化させずにこれまでよりも長時間保存することが可能になったことで、年末までフル稼働だった製造現場が効率化し、人材不足・労働環境の改善に繋がるとともに、計画的な労務配置によりプロモーションや営業の強化が可能となり、利益率を高める経営スタイルへと変化しています。
 
(3)コース料理の提供を伴う宿泊業:オペレーション改善
一部の旅館(特に複数の旅館を経営する企業など)では、食材加工や下調理を水産加工会社等でまとめて行う「セントラルキッチン方式」を採用しています。セントラルキッチンで調理された食材が「マイナス60度」で冷凍保存されることで鮮度が保たれ、日ごとに必要な量が旅館に配送されることで食材のムダがなくなります。旅館では最後の仕上げや盛り付けのみ行われるため、調理時間が短く食材の劣化を最小限に抑えることができ、さらには料理人の労働負担の削減にもつながります。このように、「マイナス60度」の上手な利活用により、旅館は料理の質向上と経営効率化の両面でメリットを享受することができます。

「マイナス60度」技術の発展・普及により、地域の農水産物は変色や腐食といった「マイナス要因」から解放されます。廃棄処分にかかる費用や、変色等による割引を行う必要がなくなることで、販売店や製造業等は高い利益率を確保することができます。そして利益分を設備投資や人材不足対策等への投資にまわすことで、収益と投資の好循環が生まれます。
 この技術を活用し、地域の食文化を世界に流通させることで、おいしい日本の食材を外国人に届けることが可能となります。また、日本を訪れる外国人がおいしい食材を求め、各地を巡るようになれば、地域ひいては国全体の活性化に繋がることが期待されます。(しん)

<参考資料>
有限会社ユウキ 「科学的に証明! 低温保存の効果」
https://www.dryice-shop.com/product/memo/longterm/