「3%」の壁

印刷する
フィットネスクラブの利用率、人口の「3%」の壁

数字を
読み解く

サントリーホールディングスが年内を目途にグループ会社であるフィットネスクラブ大手の「ティップネス」を日本テレビホールディングスに売却することで合意したのは記憶に新しいことと思います。日本テレビホールディングスは、2020年の東京五輪に向けてスポーツへの関心の高まりが見込まれることや高齢化が進むことを背景に、健康関連事業への多角化を図るものとみられます。

ここ10年ほどのフィットネス業界の動向を見てみると、中高年女性をターゲットに30分で運動ができることをうたった「カーブス」や「エニタイムフィットネス」などマシン利用を中心とした低価格な簡易型ジムの広がりで、2002年から2010年にかけて民間フィットネスクラブの施設数は1,708件から3,574件と倍増しました(*1)。一方で、利用率は人口の3%を頭打ちに伸び悩み、施設当たりの売り上げは減少。フィットネスクラブ業界全体では2006年をピークとして市場規模の縮小が続いていました。

しかしながら、2013年は東京五輪の開催決定によるスポーツへの関心の高まりや景気の回復傾向なども後押しし、「レジャー白書2014」によれば、フィットネスクラブ市場は4,240億円と2006年の4,270億円に次ぐ規模まで回復しています。このような追い風の中、「3%」の壁は取り払っていけるのでしょうか。

実際に、フィットネス市場のすそ野を広げる取り組みは既に始まっています。たとえば、(株)ルネサンスでは、高齢者に向けたリハビリとフィットネスの融合を目指した「元気ジム」の展開を始め、(株)コナミでは、医療機関と連携して退院後の患者がフィットネスクラブを利用し、リハビリを行う新事業に取り組んでいます。これは、今までフィットネスクラブを利用していなかった高齢者層へのアプローチとともに、健康でいられる期間そのものを伸ばすことを目指すものです。「健康寿命(他の人の援助なく日常生活を送れる期間)の延伸」は政府の新成長戦略の一つとしても位置付けられましたが、現在、日本人の平均寿命と健康寿命の差は男性で約9年、女性では約12年と、決して短い期間ではありません。

JTB総合研究所が実施した調査結果では、団塊世代の72.5%は週一回以上「健康増進のためのこと」(*2)をしており、今後5年間の間にお金を使いたいこととしても、「健康維持」は「旅行」に次いで2位となりました。50代、60代がスポーツを実施する目的としては、8割以上の回答者が「体力や健康維持、回復」をあげています(*3)。団塊世代を含む熟年世代にとって、いかに運動を通じて健康を維持することが重要な関心事であるかがわかります。また、調査の中では、「健康」は旅行を楽しむためのベースとしてなくてはならないものである、という意識も強く見られました。健康寿命を伸ばす取り組みは、旅行業界としても重要だと言えるでしょう。

さらにマーケットを広げる取り組みとしては、女性専用ジムや「フィットネスではなくファッション」をコンセプトにするインドアサイクル専門スタジオなど、新たな業態も出てきています。
今後、訪日旅行者が増加をすることを考えると、訪日旅行者へ向けた医療・美容ツーリズムとフィットネスの融合などにも期待できるかもしれません。比較的短時間で効果を実感できる女性向け美脚トレーニングと温泉などを組み合わせ、日本の文化とともに「健康」や「美容」を提供するような試みは、リピーターの確保にもつながるのではないでしょうか。