ピザは12時、サラダは3時

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どこに何があるのかを時計の短針に例えて知らせる手段をご存じでしょうか

どこに何があるのかを時計の短針に例えて知らせる手段をご存じでしょうか
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内閣府 令和元年版高齢者白書より

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コロナ禍では感染を防ぐために「ニューノーマル」という新しい生活様式の取組が進められています。今や、「三つの密」を防ぐこと、マスクを着用すること、物にはあまり触れないことなど「ソーシャルディスタンス」を取ることが当たり前という世の中になりました。しかしながら、「ソーシャルディスタンス」を確保することは、身体に障がいを抱えている人にとって、今まで以上に社会で生活しにくい世の中になってしまう一面もあります。日本における障害者手帳などを持っている人の割合は7.4%ですが、それ以外にも一時的にケガや病気、妊産婦さんなど困りごとを抱えている人はたくさんいます。身体の機能に様々な衰えが生じてくる75歳以上の後期高齢者は14.1% にと決して少ない数字ではありません。

最近、全盲の女性が発信したツイートが話題になりました。「先日、4ヶ月ぶりにサイゼリアに行った。嬉しくてお料理たくさん注文しちゃったんだけど、料理を運んできてくれた大学生くらいの男の店員さんが、[ピザは12じ、サラダは 3じ、チョリソーは10じ方向に置きますね]って説明してくれて、もう、感動しすぎて涙出そうでした(原文)」。全盲の人は黙って食事が置かれたのではどこに何が置かれたのか、どのような器なのか、熱いのかといった情報が取れません。この店員さんの的確なコミュニケーションでより楽しい外出、食事になったことでしょう。

危機的状況の中では多数が優先され、社会的弱者などの少数の声は忘れ去られがちです。ニューノーマルにおいては、例えば買物の際、レジに飛沫防止のパネル越しにマスクを着けた店員が対応するというのが当たり前になりました。ところがその結果マスクによって声がこもりがちになり、更にパーテーションもあるため、私たちも聞き返したり言い直したりすることがあります。マスクをしていることで、聴覚に障がいがある人は、口の動きや表情で情報を読み取ることが難しくなり、マスクをしない時より情報が取りにくくなってしまいます。また視覚に障がいのある人は、これまでは物に触れることで情報を得ていたのですが、物に触りにくい状況になってしまい、商品の情報が取れなくなるという事態が起きています。車いすの利用者は移動の際に困ったことがあっても助けてくれる人が減った、肌の感覚が過敏な人にとってはマスクをすること自体が大きな苦痛なのに、マスクを取っていると注意されたという声が上がっています。身体に障がいのある人にとって今まで以上に社会にある障壁が多くなっている状況です。

2020年5月にJTBとJTB総合研究所でまとめた「新型コロナウィルス感染拡大による、暮らしや心の変化および旅行再開に向けての意識調査(2020)」の調査において、外出自粛で考え方が変化したと感じた1位は「対面や直接のコミュニケーションは大切だ」という結果がありました。先ほどのサイゼリヤの話に戻りますが、サイゼリヤ広報室によると、同社では数年前に視覚障がいの来店者への「接客ガイド」を制作し、全店に配布したそうです。その中に禁止事項や注意事項とともに、クロックポジションについても触れられているといいます。障がいのある人に対する接遇マニュアルの類はいろいろと出ていますが、渡されただけでは実践に繋げられる人はそう多くいません。そのような中、大学生くらいの店員さんが全盲の女性に自然な対応をしたことで女性は驚き、喜んだのです。この店員さんのように、障がいのある人に対する適切な配慮やコミュニケーションが当たり前になるニューノーマルは、共生社会の実現に繋がるのではないでしょうか。