デジタルアートに75億円

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「1点もの」という考え方はデジタル分野においても導入されており、21年3月にはデジタルアート作品が75億円で売買されました。

「1点もの」という考え方はデジタル分野においても導入されており、21年3月にはデジタルアート作品が75億円で売買されました。
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美術手帖「注目を集めるNFTアート。新たなマーケットに求められるルールの明確化」(2021.5.3)

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旅先で見つけた1点ものの手作りの茶器。同じ職人が同じコンセプトでつくる作品はあったとしても、その茶器は世界に1点しかない非代替なモノです。この「1点もの」という考え方はデジタル分野においても導入されており、21年3月にはデジタルアート作品が75億円で売買されました。

これを実現させたのは「NFT(Non-Fungible Token)」という技術です。ブロックチェーンと呼ばれる仕組みによって非代替性の価値を付与し、「唯一無二の本物」であることを証明するデジタル資産になります。例えば、とある個人が描いた絵のデジタルデータがあったとします。そのデータに作成者や所有者の情報を紐づけ、改ざんや複製が不可能なブロックチェーンの中で管理します。それにより、その絵を勝手にコピーされたとしても紐づけられた情報は複製ができず、コピーと本物が分かる仕組みになります。つまりデジタルデータがNFTの技術により「1点もの」として高い価値を持つ資産になるのです。

一方でやはり手で直接触れられるものが好きな方も多いと思います。そんな価値観が試されるプロジェクトも生まれました。アーティスト、ダミアン・ハーストが紙に描いた作品をNFTデータ化し購入者に一旦データ提供するのですが、1年後に「NFTのままにする?それとも紙にする?」と二者択一を迫るものです(NFT持ち続けることを選んだ場合、紙の作品は破棄されます)。これまでの価値観では、迷わず「紙」を選ぶ方が多そうですが、形ある現物の焼失や汚損のリスクと、NFTにより非代替性が保障されたデジタルデータの半永久性とを天秤にかけたとき「NFT!」となる人も少なくないはずです。

すでにNFTが活用されているジャンルは多岐にわたり、絵だけでなく写真や、動画、そして単純な文字列までもが対象になっています。更にビジネスシーンでの活用も進み、シヤチハタ株式会社では、いつ誰がどんな文書に押印したのかという証拠をデータとして残せる「NFT電子印鑑」の開発を進めています。紙の押印よりも信頼性が高いサービスが生まれてくる予感がします。

コロナ禍で生活様式が変わり、人々の価値観がさまざまな場面で揺さぶられていることが、このような新しい概念の浸透を加速させているように感じます。NFTと同じくブロックチェーンの技術を活用した仮想通貨が、エルサルバトルで法定通貨に認定されるや否や、人口の30%が利用し始めたと聞きます。 NFTもメルカリやLINE、Yahoo!などが流通サービスへの参入を予定しており、今後あっという間に市民権を得ていくのではないでしょうか。観光分野でも地域キャラクターのデジタルアートをNFTデータ化し、販売する動きが始まるなど目が離せません。まずはお気に入りの「1点もの」を探しにNFTデータの流通サイトを覗いてみるのはいかがでしょうか。思わぬ出合いがあるかもしれません。(いり)

<参考>
美術手帖「注目を集めるNFTアート。新たなマーケットに求められるルールの明確化」(2021.5.3)
https://bijutsutecho.com/magazine/insight/23978
日経クロステック 2021年7月14日掲載「3分でわかる必修ワード NFT」
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/keyword/18/00002/060100170/
シヤチハタ株式会社「日本初!NFTを活用した電子印鑑を共同開発」(2021.8)
https://www.shachihata.co.jp/pressrelease/2021/nft_stamp.php
Speedy「ダミアン・ハーストが突きつけるNFTアートとリアルアートとの究極の選択」(2021.7.19)
http://spdy.jp/news/s11413/