ごみゼロを目指す、環境に配慮したフェス

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日本のフジロックをはじめ、環境への配慮に取り組むフェスティバルが世界各地で増えています。オランダで始まったDGTLは2022年にごみ排出量ゼロを達成しました。

日本のフジロックをはじめ、環境への配慮に取り組むフェスティバルが世界各地で増えています。オランダで始まったDGTLは2022年にごみ排出量ゼロを達成しました。

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新型コロナの感染拡大で開催が見送られてきた音楽フェスティバルが、2022年から復活しつつあります。特に地方で開催される野外ライブは、会場の広さから多くの人を呼び込むことができ、地域の知名度向上や経済波及効果に期待がかかります。一方で、開催後のゴミ処理問題を始めとする環境負荷は以前から問題視されていました。コロナ禍を経験し、改めて持続可能な観光のあり方が問われる中、最近はどのような取り組みがされているのでしょうか。

日本のフェスの先駆けといわれている「フジロック」は、新潟県湯沢町・苗場スキー場で毎年7月に3日間開催されます。2019年には世界200組以上のミュージシャンが出演し前夜祭を含め13万人を動員しており、その経済効果は開催地域だけで約127億円(全国では約232億円)と試算されています。

一方で、「フジロック」は、開催当初から「自然と音楽の共生」を目指しさまざまな取組みを進めています。具体的には、ごみゼロナビゲーションやマナー向上を目的とした動画「osaho」の配信、会場の地域と環境を活かした自然体験プログラムなどの環境教育など、参加者がサステナブルな活動に自然と参画できるような工夫が施されています。この取組みにより、世界のフェスを格付けした「Festival250」(2016)では世界3位にランク付けされ、「世界一クリーンなフェス」として海外メディアにも取りあげられました。
 このほかにも、森の植物を保護することを目的とする「ボードウオーク(会場の森を回遊する木道)」の整備も行っています。2002年に始まった活動で、重機を使わず参加者の手で木道の板を一枚一枚つなぎ合わせており、その長さは現在2キロ近くになっています。2011年からは、開催地である新潟県、湯沢町と連携して環境保全を推進する「フジロックの森プロジェクト」に発展し、周辺の森林整備により発生した間伐材でつくられた割り箸は会場内の食堂で使用され、加工された紙はフライヤーなどに、そしてティッシュペーパーは湯沢町のふるさと納税返礼品になっています。
 このような取り組みを行い、「世界一クリーンなフェス」として取り上げられてきた「フジロック」では、回を追うごとに環境に配慮した改善が続けられています。

環境に配慮したフェスティバルは近年、ヨーロッパを中心に世界各地で増えてきています。特に、オランダで誕生し、世界各地で開催されている「DGTL(デジタル)」は、エレクトロニック音楽フェスティバルであるにも関わらず、「家で寝て過ごすよりサステナブル」と称され、『「ごみ」は存在しない』という考え方に基づいて運営されています。
 例えば、提供される食材はプラントベースとして可能な限りオーガニックで地元食材を利用する、再利用可能な食器の運用開始、そしてフードコートに24時間コンポストマシーンを導入したことですべての廃棄物フローを現場で堆肥処理できるようになり、2022年にごみ排出量ゼロを達成しました。これにより、廃棄物を価値ある資源に変換して循環させる「サーキュラーフェスティバル」として世界中から注目されています。
 サーキュラーフェスティバルを推進するために、DGTLではまず「資源と廃棄物の流れの測定と可視化」を行うことで、注力すべき分野と優先順位を明確にしたうえで改善に対応しています。その過程においては、サプライヤーとの協力、そしてパートナー企業とのストーリーと価値共創、参加者を楽しませつつ巻き込む仕組みづくり、そして行政との連携によって、都市全体で完全循環型イベントとして実現しています。この取組みにより、世界中のイベントやフェスティバルの持続可能性、環境負荷低減に取り組む「A Greener future」(非営利企業)から「グリーン輸送賞(2019年)」を受賞しました。

近年のサステナブルに対する気運の高まりにより、日本においても環境負荷の評価・対策に取り組むフェスティバルが増えてきています。また今後は、訪日外国人旅行者数の回復や、新型コロナの感染症法上の位置づけが第5類に引き下げが正式決定されたことなどから、観光地におけるオーバーツーリズムによる環境負荷への対応も求められると考えられます。多くの人が訪れることにより、環境への負荷がある点は否めませんが、主催者や企業だけではなく、参加者にも負荷データや改善方法などが共有されることで、その後の環境保護の意識を醸成する可能性を秘めているのではないでしょうか(S)。
 
<参考>
フジロックフェスティバル 公式サイト
https://www.fujirockfestival.com/
フジロックの森プロジェクト実行委員会 「フジロックの森プロジェクトについて」
https://www.fujirockersforest.com/outline/