3年で10隻

印刷する

日本国内において、2020年~2023年の間に新造船10隻の長距離フェリーが就航しました。

日本国内において、2020年~2023年の間に新造船10隻の長距離フェリーが就航しました。
Source
(一社)日本長距離フェリー協会HP及び各社HPより数え上げ

数字を
読み解く

片道300km以上の航路を指す「長距離フェリー」は、北海道から九州まで全国15航路・37隻が運航され、日々多くの人や物を運んでいます*¹。長距離フェリーは、自動車が急速に普及し、高速道路網が整備された高度経済成長期に、陸上輸送のバイパス的な役割として発達しました。その後、トラック輸送の増加などに押される時期が続きましたが、2021年7月には東京九州フェリーが東京~新門司間に22年ぶりとなる新航路を開設しました*²。
 耐用年数が約20年とされているフェリーの置き換えのタイミングが重なったこともあって、2020年から2023年の間に、5航路10隻の新造船が就航しています。近年の新造船の特徴として挙げられるのは、①快適性の向上、②多様なニーズへの対応、③環境への配慮の3点です。
 

  1. 快適性の向上
  2. 長距離フェリーはレストランや大浴場などが設けられ、「海を走るホテル」とも呼ばれています。新造船では、1人あたりのスペースや大浴場が広がり、パブリックスペースが充実するなど、より快適な空間づくりが行われています。名門大洋フェリーの新造船「きょうと」「ふくおか」は、従来船にあった相部屋のエコノミールームを廃止して、2等室を全てプライバシーが守られるカプセルベッドタイプにしました*³。「さんふらわあ くれない」「さんふらわあ むらさき」では、展望大浴場が従来船の2倍の広さになりました*⁴。
     

  3. 多様なニーズへの対応
  4. また公共交通におけるバリアフリー化への取組は、2000年の「交通バリアフリー法(※2006年に「バリアフリー新法(高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律)」に統合)」によって本格化し、以降に造られたフェリーはエレベーターや多目的トイレなどのバリアフリー対応が行われています。さらに、阪九フェリーの「せっつ」「やまと」はペット連れ専用の個室「ウィズペットルーム」や共用のペットルームが設けられているなど、多様なニーズへの対応が進んでいます*⁵。「さんふらわあ くれない」「さんふらわあ むらさき」の就航に合わせて整備された別府港ターミナルは、ユニバーサルデザインに基づいて設計され、ムスリム利用者向けの祈祷室なども整備されています*⁶。
     

  5. 環境への配慮
  6. 海洋汚染防止条約によって、2020年から船の燃料に含まれ大気汚染の原因となる硫黄成分の規制が強化され、排ガスの浄化装置の設置や低硫黄重油への切り替えが進んでいます。硫黄酸化物(SOx)を排出しないLNG(液化天然ガス)で動くフェリーも導入されています。日本では「さんふらわあ くれない」「さんふらわあ むらさき」が初で、SOxと並んで大気汚染の原因となる窒素酸化物(NOx)は従来比80%減、CO2排出量も従来比25%減とされています*⁴。大量輸送を得意とする船は、飛行機や自動車に比べて輸送にかかるCO2排出量を減らせます。環境負荷の削減がさらに進めば、フェリーがより選ばれるようになるかもしれません。

    船旅は飛行機より時間がかかりますが、甲板や大浴場から景色を眺めたりレストランで食事をしたりと、移動中の自由が大きく優雅な時間を過ごせます。筆者は一人旅でフェリーを利用し、海の向こうに見える夜景や山並みを楽しんでいますが、家族や仲間と海の上で過ごす時間も思い出になるでしょう。キッズルームやペットルームなどが整備されたフェリーも増えており、小さな子どもやペットを連れての旅行もしやすくなりそうです。また、温室効果ガスの排出を減らせることも、フェリーのメリットです。快適で環境負荷の少ない船旅を試してみてはいかがでしょうか。

 
<参考文献>
*1:一般社団法人 日本長距離フェリー協会ホームページ
*2:東京九州フェリーホームページ
*3:名門大洋フェリー「船舶紹介(フェリーきょうと・フェリーふくおか)」
*4:フェリーさんふらわあ「お知らせ」(2023年1月16日)
*5:阪九フェリーホームページ
*6:フェリーさんふらわあ「お知らせ」(2021年12月9日)