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玲玲細語 ~中国人研究員が見て感じた日本と中国~

データから見た2017年の中国人旅行者の海外旅行動向

2018年3月、中国旅游研究院およびシートリップの「2017年中国人海外旅行ビックデータ報告」の発表があり、2017年における中国人海外旅行者数は1.3億人を超えたことがわかりました。今月はこの報告のデータから、最近の中国人旅行者の海外旅行動向を考えてみたいと思います。

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日本に来た6年目から花粉症に悩まされはじめました。毎年3月~4月の中旬までは春を楽しむことができず、寂しいばかりです。しかし、今年は症状が少し軽くなったような気がします。先日、鎌倉で春の陽気を満喫してきました。リス(写真)と一緒に花見も楽しみました^^

鎌倉の桜とリス

3月1日、中国旅游研究院およびシートリップによる「2017年中国人海外旅行ビックデータ報告(*)」の発表があり、2017年中国人の海外旅行者数は1.3億人を超えたことがわかりました。今月はこの報告にあるデータに注目し、最近の中国人旅行者の海外旅行動向について考えてみたいと思います。

1. 海外旅行形態 (図1)

図1 2017年中国人の海外旅行形態

図1 2017年中国人の海外旅行形態
「2017年中国人海外旅行ビックデータ報告」をもとにJTB総合研究所作成

団体旅行(44%)、個人旅行(42%)、定制游(14%)となります。団体旅行のニーズがまだ高いことがわかります。特に2,3,4級都市の旅行者が依然として団体旅行を選ぶ傾向が強く、団体旅行と個人旅行の比率は5:5となります。この数字を踏まえて、中国人旅行者の旅行形態を絞らず、旅行者の出身地によって柔軟に考え、対応していくことが求められるでしょう。

2. 出発日までの事前準備期間は1か月以内がなんと7割(図2)。

2か月前から準備しはじめる旅行者が全体の30%を占めており、一番高いですが、出発日前日から2週間前までの比率が、合計44%となっており、非常に高いことがわかります。このうち、1週間以内の比率が高く、29%となっています。一方、中国人の訪日旅行において、ビザ申請がおおむね1週間かかりますので、機会損失が発生していると考えられます。

図2 2017年中国人の海外旅行における準備~予約期間

図2 2017年中国人の海外旅行における準備~予約期間
「2017年中国人海外旅行ビックデータ報告」をもとにJTB総合研究所作成

ちなみに、アライバルビザで行きたいと思う時に行けるタイは、中国人にとって最も人気が高い旅行先となり、昨年980万人がタイを訪れました(図3)。

図3 海外旅行先別・中国人海外旅行者数

図3 海外旅行先別・中国人海外旅行者数
「2017年中国人海外旅行ビックデータ報告」をもとにJTB総合研究所作成

3. 安心して旅行できる旅行先は、中国が1位である(図4)

国内旅行および海外旅行で、旅行先の治安を重視する中国人旅行者がますます増えています。この報告では、中国人旅行者にとって最も治安が良い旅行先が、中国(67.1%)であることがわかりました。中国でもまだまだメーターをつけないタクシーはありますが・・・(笑)、まあ身の危険を感じることはないでしょう。一方、言葉の安心を考えれば、華人が多くいるシンガポールは、今後中国人及び親子旅行にとって人気上昇の可能性が高いと言われています。

図4 2017年 中国人旅行者にとって安心して旅行できる旅行先

図4 2017年 中国人旅行者にとって安心して旅行できる旅行先
「2017年中国人海外旅行ビックデータ報告」をもとにJTB総合研究所作成

4. 海外旅行同行者(図5)

子供の割合が3割超となり、最も高いです。社会競争が厳しい中国では、多くの親たちが「不能輸在起跑線上(スタートラインから負けてはいけない)」という考え方に定着していること、さらに一部の幼稚園は夏休みの時期に海外旅行での所感を絵などで表現する宿題までを出しているため、夏休み期間で小学生までの親子旅行海外市場は、プチバブル現象が起きているといってもいいかもしれません。 

図5 2017年 海外旅行同行者

図5 2017年 海外旅行同行者
「2017年中国人海外旅行ビックデータ報告」をもとにJTB総合研究所作成

5. 海外旅行の検索キーワードの上位ランキング

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「深度体験」の一つとして、聖地巡礼も入ると思われます。例えば、鎌倉に行けば、江ノ電に乗り、鎌倉高校前駅で降りて、スラムダンクのオープンニングシーンであった「小さい踏切で江ノ電を通過した写真撮影をすること」が中華系の旅行者の中で大人気です。先週末に行った際に、流行りはじめ当時と違ったのは専門警備員がいたことです。特に江ノ電が通過する時、観光客がこの坂道の真ん中に立っても安全に写真を撮ることができるようになりました。同時にインバウンドが雇用創出につながったと実感させられました(写真2)。

江ノ電の風景

左の写真 小さい踏切(著者撮影)/右の写真 江ノ電が通過する際に警備員(著者撮影)

一方、五輪後にトリプルパンチ(消費税増税、働き方改革、オリンピック特需の終焉)が起きることが心配されている中、2021年以降も持続可能な観光、日本を何度も訪問したいファンづくり、観光の力とは何か?賑わう観光地とスルーされない観光地での店づくりには必要とされるのは何か?・・など多くのことを考えさせられた鎌倉の1日でした。

(*)「2017年中国人海外旅行ビックデータ報告」:2017年中国旅行業データとシートリップ3億人会員のデータ及び業界内大手旅行会社の自由旅行、団体旅行の予約データに基づき、中国旅游研究院&シートリップの専門チームが分析したもの。