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日本におけるキャッシュレス決済比率は36%、決済額は初の100兆円超え

日本におけるキャッシュレス決済比率は36%、決済額は初の100兆円超え
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経済産業省 2022年のキャッシュレス決済比率を算出しました

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経済産業省の発表によると、2022年の日本におけるキャッシュレス決済比率は36%、同決済金額は111兆円とのことです(図表参照)。キャッシュレス決済とは、物理的な現金を使わずに決済を済ませる方法で、具体的にはクレジットカード、デビットカード、電子マネー、コード決済を指します。

キャッシュレス推進協議会が発表した「キャッシュレス・ロードマップ2023」によると、主要国におけるキャッシュレス決済比率は、韓国の95.3%を筆頭に、中国83.8%、オーストラリア72.8%、英国65.1%などが上位を占めています(*1)。それに比べると日本のキャッシュレス決済比率は30%台と開きがありますが、日本でもキャッシュレス決済額は、2018年度以降は2020年を除いて10%以上の成長率を維持しています(*2)。また、支払件数の推移をみると、電子マネー以外は毎年増加しており、特にコード決済が2019年から急成長していることがわかります(図表参照)。

日本ではまだ現金が主要な決済手段として使われていますが、大阪・関西万博が開催される2025年に40%まで、将来的には世界最高水準の決済比率まで伸ばすのが政府の目標です(*3)。キャッシュレス推進協議会によると、キャッシュレス決済比率80%を達成できれば、キャッシュレス決済のコスト5兆円を上回る7兆円の経済効果と現金コスト削減効果が期待できるとされています(*4)。また、現金とキャッシュレスの二酸化炭素排出量を比較すると、千円あたりでは現金が1.06gであるのに対し、キャッシュレスは0.34gとなり、キャッシュレスの方が二酸化炭素の排出量を抑制できるというデータもあり、環境保全の観点から、サステナブルな行動と言えそうです(*1)。

キャッシュレス決済はツーリズム産業においても注目を集めています。主な理由はインバウンドにあり、訪日外国人観光客の利便性向上と、より効率的な観光地運営への貢献が期待されています。観光庁の2023年4-6月期の訪日外国人消費動向調査によると、一人当たりの旅行支出が高い国から、英国(35万9000円)、中国(33万8000円)、オーストラリア(33万7000円)と続きます(*5)。キャッシュレス決済は、インバウンド旅行者にとって両替の手間や現金管理の煩雑さを取り除き、より安全に、より楽に決済できるようになることで、より消費する可能性があります。観光地側にとっては、決済の速度や取引の総量を上げつつ、現金の管理に伴うコストとリスクを減らす効率的な運営が期待できます。

加えて、ツーリズム産業がキャッシュレス決済に注目するもう一つの理由として、消費データの収集が挙げられます。消費者の購買行動や嗜好がキャッシュレス決済の消費データによって明らかとなり、旅行会社や観光地は、より一人ひとりに合ったサービスを提供するOne to Oneマーケティングが可能になります。こうした情報は、特に消費額が多い外国人観光客に対する「旅マエ」「旅ナカ」の戦略を練る上で非常に価値があります。しかし地方の観光地をみると、多くの商店や施設では現金取引が主体となっている場合が多く、キャッシュレス決済の対応に遅れが見られます。観光庁が訪日外国人観光客に行ったアンケートで、「地方部の旅行中に困ったこと」の第2位が「両替・クレジットカード利用」となっていることから、改善の余地はありそうです(*6)。

キャッシュレス決済を導入していない理由としては、導入コストや決済手数料の負担、キャッシュフローへの一次的な影響、デジタル化への対応が挙げられます。しかし、キャッシュレス決済の導入によるメリットもあり、売上・客単価の増加、現金決済にかかるコストや管理リスクの減少、売上管理のデジタル化による労働生産性の向上などが期待できます。日本クレジットカード協会の調査によると、クレジットカード決済と現金決済の単価を比較した場合、クレジットカード決済では現金に比べて平均1.71倍に消費単価が増加し(*7)、キャッシュレス決済と現金決済の会計での速度比較では、現金の28秒に対してキャッシュレス決済の平均が12秒という調査結果が出ています(*8)。

今後は、政府はもとよりツーリズム産業全体で観光地におけるキャッシュレス決済の導入を促進し、インバウンドを中心とした旅行者がより消費しやすい環境を整えることで、売上単価と取引の総量を上げ、より効率的に観光地を運営し、そこで得た消費データをマーケティングに活用することにより、各観光地のさらなる成長と観光消費額の拡大につなげていくことが可能になるのではないでしょうか。

(KE)

【出典】
*1.キャッシュレス推進協議会「キャッシュレス・ロードマップ2023」
https://paymentsjapan.or.jp/wp-content/uploads/2023/08/roadmap2023.pdf
*2.経済産業省集計・2022年のキャッシュレス決済比率
https://www.meti.go.jp/press/2023/04/20230406002/20230406002.html
*3.経済産業省 キャッシュレス・ビジョン
https://www.hkd.meti.go.jp/hokir/cashless/data/cl_vision.pdf
*4.キャッシュレス推進協議会「キャッシュレス・ロードマップ2022」
https://paymentsjapan.or.jp/wp-content/uploads/2022/08/roadmap2022.pdf
*5.観光庁「訪日外国人消費動向調査2023年4-6月期」
https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001619990.pdf
*6.観光庁「外国人旅行者に対するアンケート調査結果(2022年)」
https://www.mlit.go.jp/common/000190659.pdf
*7.日本クレジットカード協会「民泊とキャッシュレスを両輪とする地域を巻き込んだ観光立国推進に向けて」報告書
https://www.jcca-office.gr.jp/wp-content/uploads/2020/12/2017_01.pdf
*8.JCB「決済速度に関する実証実験結果」
https://www.global.jcb/ja/press/2019/201908280001_others.html