島しょ地域における国際クルーズ客船受入の現状と未来

訪日クルーズ客船の寄港数や旅客数はコロナ禍前の水準に戻りつつあり、今後さらなる拡大が期待されている中、「島しょ地域」が新たな寄港地として注目を浴びています。本稿では、島しょ地域における国際クルーズ客船の受入の現状や価値を高めるためのポイントについて考察します。

橋本 竜暢

橋本 竜暢 上席主任研究員

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目次

1.クルーズ市場の成長と変容

Cruise Lines International Association (CLIA)によると、世界のクルーズ市場は、コロナによる一時的な停滞を経て回復~成長傾向にあり、2028年には世界のクルーズ人口が4,200万人に上ると予測されています。

出所:CLIA「State of the Cruise Industry Report 2025」

クルーズ客船の種類は、おおよその基準として、乗客1人あたりが占める容積の大きさや乗客1人あたりの乗組員の人数によってカテゴリー分けされます。従来の大型船による「カジュアル」や「プレミアム」に加え、近年は「ラグジュアリー」やそのクラスに含まれる「エクスペディション」といった小型船のクルーズが拡大しています。今夏にデビューを飾った日本船籍「飛鳥Ⅲ」は、その規模からプレミアム~ラグジュアリークラスと位置づけられます。
 世界のクルーズ市場では、ラグジュアリークラスの一部である「エクスペディション(乗客数100~200名程度の小型船)」というクラスが飛躍的に市場を拡大しています。特に2019年以降の成長が顕著で、CLIAによると、2024年までに150%(対2019年比)もの成長を遂げています。

図表:筆者作成

クルーズ市場の拡大にともない、訪日クルーズ旅客数についても、2024年が約144万人、寄港回数は2,472回(うち外国船1,914回)と、過去最高水準になっています。
 内訳をみると、プレミアム・ラグジュアリー・エクスペディションクラスが拡大しており、コロナ前後で比較すると、中型~小型船での寄港の割合が顕著に増えていることが分かります。

外国船社が運航するクルーズ船のクラス別寄港回数

出所:国土交通省港湾局産業港湾課「訪日クルーズ旅客数及びクルーズ船の寄港回数(2024年確報値)

また、ラグジュアリー・エクスペディションクラスなど、高価格帯層が利用する小型船の寄港先として小規模な船腹を活かし、大型船では困難な島しょ地域への寄港も増えています。

2.島しょ地域に注目する理由

ラグジュアリー・エクスペディション船が島しょ地域に寄港している理由にはいくつかの背景があります。
 まず、小型船が増えたことで、大型船は寄港できなかった小規模な港や離島にもクルーズ船がアクセスしやすくなったことが挙げられます。
 さらに、旅行者の価値観が「物見遊山の消費型観光」から「地域ならではの文化体験や人々との交流などの体験型観光」へとシフトし、とくに独自の文化を保有している島しょ地域が注目されたことです。

3.日本の島しょ地域における国際クルーズ客船受入の現状

(1)上五島町の事例(漁港の活用)

長崎県上五島町は、五島列島の豊かな漁業資源と歴史的・文化的資産を活かし、クルーズ船の寄港地として独自のモデルを構築しています。2010年に「にっぽん丸」が初寄港して以降、2万トンクラスまでの船は青方港に直接接岸、それ以上の船は沖泊~通船(大型船が港に直接接岸できない場合に、船と陸上を結ぶ小型の船)で上五島漁港(船崎地区)に上陸する形をとっています。
 受入体制は新上五島町役場が中心となり、観光物産協会や漁協、経済団体と連携し、長崎県クルーズ振興協議会とも協働しています。港から効率的にアクセスできる範囲に観光施設や体験プログラムが少ないものの、寄港時には、教会群めぐりなどの観光ルートや、地元ガイドによる案内、バスやタクシーの手配など、島内の限られた資源を最大限に活用しています。歓迎イベントでは、地元の子どもたちや団体によるパフォーマンスや大漁旗での見送り、地元産品の物販、マグロ養殖場のPRやクルーズ船向けの水産物販売など、地域の魅力を活かした活動も行われています。

(2)宇治島の事例(無人島の活用)

宇治島は、広島県福山市鞆の浦沖に位置する無人島で、通常は定期船がなく、ボートをチャーターしなければ上陸することができない島ですが、国際クルーズ船による特別な寄港実績があります。
 宇治島には観光施設はありませんが、砂浜が広がり、海は透明度も高く、海水浴などのマリンアクティビティを楽しむことができます。福山市や地域事業者が連携し、マリンアクティビティ(SUP)や島内散策、清掃活動など無人島の自然を活かして非日常的な体験型プログラムを提供した実績があります。
 港は無いため、クルーズ船は宇治島沖に停泊し、テンダーボート(大型船が岸壁に接岸できない場合に、乗客や物資を船と港の間で輸送するために使われる小型ボート)や小型船で乗客を上陸させますが、この上陸方法もひとつの特別な体験として高評価を得ています。
 また、無人島のため、仮設トイレや休憩所の設置、安全管理が課題となりますが、簡易休憩所(タープ・ブルーシート・チェアの設営)、飲料水・手洗水の用意、仮設組立トイレの設置などで対応しています。

(3)沖永良部島の事例(国際交流の導入)

鹿児島県の沖永良部島は、クルーズ寄港時に国際交流を積極的に取り入れた事例です。下船した乗客は徒歩やタクシーで島内散策をし、美しいビーチや島内のお土産店などに立ち寄り、島民との触れ合いを楽しみます。その一方で、クルーズ船寄港時には、地元住民と外国人乗客が直接交流できるおもてなしとして、地域住民による歓迎セレモニーや岸壁での特産品の販売なども実施し、単なる観光消費にとどまらない「人と人とのつながり」を重視した受入体制を構築しています。
 特徴的な取り組みとして、島内在住者を対象にした船内見学会を実施していることが挙げられます。この活動は、島の子どもたちや住民にとっても異文化理解やグローバルな視野を育む貴重な機会となっており、観光による経済効果だけでなく、地域社会の活性化や住民意識の変化にも繋がっていくものです。

4.国際クルーズ客船受入れのためのステップ―寄港前から寄港後まで

島しょ地域が持つ独自の魅力を最大限に活かし、訪れる人々にとっても、迎える地域にとっても実りある寄港を実現するためには、いくつかの工夫が考えられます。ここでは、クルーズ船の寄港を「寄港前」「寄港中」「寄港後」の3つのステップに分け、それぞれの段階で価値を高めるためのポイントを見ていきます。

(1)寄港前:期待感を高める準備のポイント

寄港前から周到な準備を行うことが、成功の第一歩です。

  • 限られた資源の最適化と活用
    港湾設備や二次交通(バス・タクシー)、飲食施設などのキャパシティは、大都市とは異なります。だからこそ、寄港日程や時間帯を考慮した効率的な活用や、WEB予約システムの導入といった工夫が、スムーズな受入の鍵となります。限られた資源を逆手に取り、小規模だからこそできるパーソナルな体験を設計するチャンスと捉えることができます。
  • 体験価値の深化と多様化
    地域資源を活かした体験プログラムは、まさに島しょ地域の強みです。天候に左右されない屋内プログラムや、アクティブに動きたい方向け・ゆったり過ごしたい方向けなど、活動量に応じた複数の選択肢を用意することで、さらに多様な旅行者の満足度を高めることができるでしょう。悪天候時ですら「特別な体験ができた」と感じてもらえるような代替プランの準備も、おもてなしの質を向上させます。
  • コミュニケーションの工夫と情報発信
    多言語対応は重要なテーマです。英語対応ガイドの育成や多言語案内表示の充実に加え、翻訳アプリの活用や、身振り手振りを交えた温かいコミュニケーションが、忘れられない思い出を創出します。また、SNSなどを通じて地域の魅力を積極的に発信し、乗船前から「あの島に行くのが楽しみだ」という期待感を醸成することも効果的です。
  • 地域一体となった「おもてなし」の醸成
    クルーズ船の受入を成功させるには、一部の事業者だけでなく、地域全体で歓迎する雰囲気づくりが不可欠です。住民への事前説明会や、子どもたちが参加する歓迎イベントなどを通じて、「島全体でゲストを迎える」という一体感を育むことが、寄港の価値をさらに高めます。
(2)寄港中:満足度を最大化する現場の工夫

寄港当日は、旅行者の満足度を決定づける重要な時間です。

  • 柔軟な現場対応力
    限られたバスやタクシーを効率的に配車する運行管理や、小規模な飲食店・体験施設を時間差で案内するなど、現場での臨機応変な対応力が満足度を大きく左右します。マニュアル通りの対応だけでなく、その場の状況に応じた柔軟な采配が、旅の質を高めます。
  • 質の高い案内と交流の創出
    プロのガイドだけでなく、地域の歴史や暮らしを自身の言葉で語れる「島民ガイド」の存在は、非常に大きな魅力となります。画一的でない、人との触れ合いを伴う案内が、その地域ならではの付加価値を生み出します。
  • 地域全体で創る一体感
    岸壁での歓迎セレモニーや特産品販売は、旅行者にとって嬉しいサプライズです。こうした「おもてなし」を一過性のイベントで終わらせず、地域全体で関わる仕組みを考えることが、寄港の経済的・文化的メリットを地域に根付かせる第一歩となります。
(3)寄港後:次へと繋げる仕組みづくり

寄港はゴールではなく、次へのスタートとなります。

  • 経験を未来へ活かすPDCAサイクル
    寄港後に事業者や行政、観光協会などが集まり、成果や改善点を共有する「振り返りの場」を設けることが重要です。成功体験も改善点も、地域の貴重な資産として蓄積し、次に活かすPDCAサイクルを回していくことで、受入体制は継続的に強化されます。
  • 寄港の価値を地域全体へ波及させる
    クルーズ寄港がもたらす経済効果や国際交流の機会を、いかに地域全体のものにしていくかが問われます。沖永良部島の事例のように、住民向けの船内見学会などを通じて、住民が寄港を身近に感じる機会を創出することが、シビックプライドの醸成や持続可能な観光への意識を高めます。寄港を「点」のイベントから「線」へ、そして地域全体の「面」へと広げていく視点が求められます。

5.国際クルーズ客船受入のメリットを創出する(まとめ)

島しょ地域における国際クルーズ客船受入は、観光振興や経済効果だけでなく、地域社会の活性化や国際交流、住民意識の変化など、多面的な価値をもたらす取り組みと考えます。
 クルーズ船の寄港は、交通条件が厳しくアクセスが限られる島しょ地域に、海外から多様な人々を呼び込む「交流の窓口」となります。これにより、地元産品の販売や体験プログラムの提供など、観光消費の地域内循環が生まれ、地域経済の活性化に直結します。漁港や無人島、国際交流など、各地域で特性を活かした独自性の高い受入のモデルは、他地域との差別化とリピーター獲得にもつながります。また、クルーズ船受入をきっかけに、地域住民が異文化や多様な価値観に触れる機会が増え、子どもたちや若者のグローバルな視野の醸成、住民の誇りや地域愛の再認識にも寄与します。
 成功の鍵は、官民連携によるハブ機能の構築です。行政、観光協会、民間事業者が一体となり、主体的に受入を推進する体制を築き、その活動がボランティアで終わらないよう、経済的な持続性を担保する仕組みを意識することが不可欠です。
 今後は、デジタル技術の活用による情報発信や多言語対応、環境保全と観光の両立、住民参加型の受入体制の強化など、持続可能性と地域らしさを両立させた「島しょ型クルーズ寄港地モデル」の確立を期待するところであり、その基盤となるのは「島におけるクルーズ船受入のメリット」をしっかりと見据え、島内で共有していくことだと考えています。
 
<参考資料>
・「State of the Cruise Industry Report2025」 CLIA
 https://cruising.org/resources/state-cruise-industry-report-2025
・「訪日クルーズ旅客数及びクルーズ船の寄港回数(2024 年確報値)」国土交通省港湾局産業港湾課
 https://www.mlit.go.jp/kowan/content/001973909.pdf
・「漁業地域・漁港におけるクルーズ船受入れ可能性調査報告書」一般財団法人漁港漁場漁村総合研究所
 https://www.jfa.maff.go.jp/j/gyoko_gyozyo/g_thema/houkokusho/attach/pdf/R2houkokusho-6.pdf