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FRE~EDO~M ~3つの大陸で育まれた自由な視点から’今’をみる~

Oh, フランスワイン!

世界でゆるぎないブランドを築いているフランスワイン。そのブランド力の秘密はなんでしょうか?

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フランスでは“Bon vivant”(ボン ヴィボン)という言葉をよく使います。これは、生きることや暮らしを楽しむこと、中でも「飲んだり食べたりすること」を大いに楽しむという意味です。フランス人にとって、幸せな人生を送るために「飲食」はとても大切な要素なのです。
また、「酒」はローマのバッカス、インドのラーマ、日本の大物主大神や少彦名神などに代表されるように、古くから様々な国々の神話や昔話にも登場し、それぞれの国の文化に重要な位置を占めてきました。キリスト教では、ワインは神の血とされ、神聖な儀式にも利用されています。

現在、フランスには世界中の10%の面積を占めるぶどう畑があり、そこで全ワインの17%が生産されています。しかしフランスワインを世界に知らしめているのは、その量だけではありません。フランスワインのブランドを支えているのは、法律や規制による保護とたゆまないイノベーションへの努力です。

1935年にロイ男爵によって創設されたI.N.A.O.(Institut National des Appellations d’Origine国立原産地名称研究所)とは、フランスにおいてA.O.C.ワイン(*1)に必要な条件を取り決める公的な機関です。フランスの伝統的なワイン産地には、使っている葡萄品種や栽培方法、醸造方法などにそれぞれ固有のスタイルがあり、そのような産地の個性を守るための法的な規制がAOCです。この法規制はフランスにとどまらず、世界におけるワイン品質の基準を形づくる基礎となりました。

もう一つ、フランスワインの歴史にとって重要なのはワイン学を大学における正式な学問として取り入れたことです。1955年にモンペリエ大学の専門学科となったのを始めとして、1978年には南仏のスーザ地方にワイン専門大学が設立され、そのアカデミックなイメージは「世界屈指のフランスワイン」としてのブランドづくりに寄与しました。

このように世界中に名を馳せているフランスワインですが、その中でもシャンペンはまた特別な存在感を放っています。格別な味や泡立ち、独特の外観が醸し出す優雅さから、世界中に数あるスパークリングワインの中でも、多くのセレブリティたちの乾杯にはシャンパンが選ばれてきました。生涯で4万2千本ものシャンパンを飲んだと言われる、イギリスの元首相ウィンストン・チャーチルは戦時中、「われわれが戦っているのは、単にフランスのためだけではありません。シャンパーニュのためでもあるのです。」という言葉を残しています。
法律によって“シャンペン”という言葉は、もちろん他のどの地方のスパークリングワインにも使用できませんし、香水やソフトドリンク、たばこといったワイン以外の商品にも使えません。一つの商品に特別感をもたらし、価値を上げるためにブランディングが大変重要だということはこの事例からも明らかなのではないでしょうか。

このように産官学がフランスワインを世界一のものにするという共通のビジョンをもち、継続的な取り組みを行ったことが、ほんの数十年の間でフランスワインの価値をゆるぎないものとしたのです。また、フランスワインは輸出産業としての役割だけではなく、旅行者を惹きつける観光資源としての役割も担っています。フランス観光開発機構によれば、2016年には、1000万人もの旅行者がフランスのブドウ畑を訪れ、50億ユーロが消費されたと推計されています。

最近では、和食の世界遺産登録などにも後押しされ、海外マーケットからの日本酒への関心が高まっています。日本酒もいつの日か、フランスワインのような世界的なブランド価値を作ることができるでしょうか。答えはYESです。私は日本酒がアジアのフランスワインとなる日が来ると信じています。そのためには、産官が同じビジョンを共有し、日本酒というブランドを守るための法規制の整備や、長期戦略を共に創る必要があります。訪日旅行者が気軽に酒蔵を訪れ、見学したり試飲したりできるような環境づくりも大切です。

2017年7月6日、安倍総理は日本とEUが経済連携協定及び戦略的パートナーシップ協定の大枠合意に至ったことを発表しました。これは歴史的にみても、最も重要な貿易協定です。日本とEUの間で多くの品目への関税が撤廃されれば、フランスワインが日本へ、日本酒がフランスへ、という動きがさらに活発になります。ぜひ日本酒がこの勝機をとらえ、飛躍することを期待します。
 
(*1)Appellation d’Origine Controlee (アペラシオン・ドリジヌ・コントローレ)の略称

EUと日本との貿易額推移

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