フランスのワインツーリズムに見る新しい認定制度 ~Label Vignobles & Découvertes~

観光大国フランスは、同時にワイン大国でもあり、昔からワインを観光のコンテンツとして活かし取り組みを進めているが、今回新しい認定制度「Label Vignobles & Découvertes(「ワイン産地と発見」認定制度と標記)」が誕生した。酒を国レベルで観光のコンテンツとして活用しているフランスのワインツーリズムの事例を紹介する。

浪川 桂一郎

浪川 桂一郎 主任研究員

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目次

2013年に「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録された。日本の食文化に注目が集まる中、日本酒をはじめとする日本産の酒類やその背景にある文化を日本の魅力の一つとして、訪日外国人旅行者の誘致や地域活性化につなげようとする動きが注目されている。

一方、世界一の観光大国フランスは、同時にワイン大国でもあり、昔からワインを観光のコンテンツとして活かし、国内外からの観光客を集める取り組みを進めている。フランスワインそのものはA.O.C.( Appellation d’Origine Controlee:原産地統制名称)によって、厳しい品質管理が行われており、世界中の信頼と賞賛を集めているが、2009年に、ワイン文化を通じた観光振興の取り組み強化の一環として「ワインツーリズム評議会」が設立された。当該評議会の働きかけで、新しい認定制度「Label Vignobles & Découvertes(以下「ワイン産地と発見」認定制度と標記)が誕生した。
本コラムでは、日本のデスティネーション・マーケティングの一つの方向性の示唆として、酒を国レベルで観光のコンテンツとして活用しているフランスのワインツーリズムの事例を紹介する。

1.フランスにおけるワインツーリズム

フランスでは、ボルドー、アルザス、シャンパーニュー、ブルゴーニュー地方など、国内の全域でワインの生産が行われている。第二次世界大戦以降、ワインの生産地で、ワインセラーを訪問し、テイスティングを行い、購入するというワインツーリズムが観光スタイルの一つとして定着してきたと言われているが、現在のワインツーリズムは、テイスティングから購入だけでなく、ワインセラー(カーヴ)に訪問し、ワインのテイスティング、ブドウ畑の散策、ワインに関するイベント(ぶどう狩り)、ワイン生産者の自宅やシャトーなどに宿泊、ワインに関するセミナーなどを楽しむという、ワインの生産地域の自然や文化全体を楽しむという広義なものに変化している。

Château de Jallanges(CHINON)

Château de Jallanges(CHINON)

 

2.ワインツーリズム評議会の設立とその活動

第二次世界大戦以降に徐々に広がりを見せていたと言わるワインツーリズムは、当初はワインの生産者と観光関係事業者が連携して取り組んでいるものではなかった。そのため、観光客がワイン生産地域に訪問する際の食事や宿泊施設などの観光客向けの情報は、地域の意識や取り組みによってバラつきがあった。
そこで、宿泊事業を展開する民間企業の代表者が、観光省と農林漁業省に対して「ワインツーリズム:ワイン製品とワイン関連遺産の価値向上に向けたレポート」を提出した。その内容とは、ワインツーリズムの分野で、フランスにおける旅行の提案力強化を図り、フランス訪問者の期待に沿うことを目的に、ワイン業界と旅行業界の連携をしていくことが必要であるというものであった。これを受けて2008年5月に農林漁業省から発表された「フランスワイン業界の近代化への5カ年計画」に、「ぶどう農園の個人事業主および共同組合による直接販売の機会を創出するという視点で、ワインツーリズムを発展させ、地域活動を強化する」ことが盛り込まれた。
2009年3月には、観光省と農林漁業省が、フランスのワインツーリズムを開発・発展させるための団体として「ワインツーリズム評議会」を設立。ワインツーリズム評議会は、ワイン生産者と観光業者の橋渡しを担う組織で、ワイン生産者・流通業者の業界団体、宿泊施設の業界団体、観光関係団体で構成され、フランス観光開発機構(ATOUT FRANCE)が事務局を担っている。国からは観光省、農林漁業省、文化省がオブザーバー的な役割を担っている。
ワインツーリズム評議会の主要な活動は、国と連携してワインツーリズムに関する各種検討を行うと同時に、「ワイン産地と発見」認定制度の運用とワインツーリズム大賞の運営を行うことである。

ワインツーリズム評議会組織図(現地ヒアリングをもとにJTB総合研究所が作成)

3.「ワイン産地と発見」認定制度の設立と運用

(1)「ワイン産地と発見」認定制度の設立

「ワイン産地と発見」認定制度は、ワイン生産地を観光のデスティネーションとして観光客に提案することを目的として、「ワインツーリズム評議会」の協力を得て、観光省と農林漁業省が共同で設立したものである。本制度は、観光客の受け入れ体制(宿泊施設やレストラン、ワイン・カーヴの訪問や試飲、美術館やイベントなど)が整備され、、観光においてサービスの品質が保証されたワインの産地を、国家レベルで認定するものである。2010年秋に10ヶ所が認定されて以降、フランス全土で36ヶ所(2014年4月現在)が認定されている。
※認定エリアは、ATOUT FRANCE(フランス観光開発機構)のホームページに掲載されている

(2)「ワイン産地と発見」認定への申請要件

≪申請の基準≫
「ワイン産地と発見」申請にはいくつかの満たさなくてはならない要件を定めている。認定エリアは1~3日間の滞在期間を想定し、30km圏内としている。エリア内で宿泊の総ベッド数は100以上(1施設である必要はない。複数の認定施設の合計でよい)、ワインセラーは15ヶ所以上あることが条件となっている。レストラン数は品質の均一化が難しいこともあり、数の条件は設定していない。
申請する組織など主体条件については、同認定制度は特に定めていない。しかしながら、地域のワイン生産者と観光関係事業者のネットワークを構築することが必要であることから、結果的に公的機関(観光局や商工会議所など)が主体となって申請している地域が多くなっている。また、申請書には、地域で協力し合う施設(ワイナリー、宿泊施設、レストランなど)の名称を記載することになっており、記載された施設のみ「ワイン産地と発見」認定承認後に専用のラベルを掲げることができる。
なお、認定の詳細なプロセスなどは公表されていない。

Château de Jallanges(CHINON)

Château de la Grille(CHINON) 

 

≪認定期間・認定後の取組≫
認定期間には有効期限を設けている。一回認定されたら3年間有効で、更新制となっている。認定期間中は地域内で品質の維持を図ることになっており、当事者間のネットワークを維持するためにイベントの開催や地域レベルでのプロモーション活動などをそれぞれの地域で行っているが、認定を受けた地域が必須で取り組む項目は、特に定めていない。

(3)「ワイン産地と発見」認証で得られるメリット

大規模なワイン生産者であれば、流通経路が構築されているだけでなく、直接PRを行い、自分のワイナリーに来訪者を呼び込み、ショールームに見立てたワイナリーでワインを紹介し、購入を促すというシステムを容易につくることができる。一方で、小規模のワイン生産者は、PRや輸出担当者を配置しておらず、販路が確立されていないケースが多いため、直販や近隣での販売が中心となる。ワインツーリズムのプログラムを構築することで、観光客を取り込み、試飲から販売を促すことが可能となる。また、ワイン生産者が、自宅を改修して民宿やレストランを開業することもあり、観光客の受け入れを通じて、ワイン生産以外の収入を得る機会創出の可能性も出てきた。
また、「ワイン産地と発見」認定を受けるために、地域のワイン生産者、観光関係事業者が連携するきっかけとなり、結果として地域全体での経済効果を共通の目標として期待するようになっている。さらに、国として「ワイン産地と発見」認定制度が全国を網羅することによって、ワインツーリズムのPR効果があがることも期待できる。

4.ワインツーリズム大賞

ワインツーリズム大賞は、多くの人々にワインツーリズムが広く理解され、伝わるように優良事例を広く発信する取り組みとして行われている。また同時に、関係者に対してワインツーリズムの目指す方向性を示すことを目的として実施されている。
ワインツーリズム大賞は年1回、2011年より表彰されている。大賞には4部門あり、各部門で一つずつ大賞が選ばれる。4部門とは、1.ワインセラー、2.レストラン、3.イベント内容、4.ワインツーリズム旅行商品となっている。最も申請が多い部門は、ワインセラーで、2012年は申請件数全体の半分ぐらいを占めていた。

5.まとめ

フランスにおけるワインツーリズムの取り組みは、今後の展開や波及効果に注目したいところである。日本では「観光」に関する取り組みというと、特定の地域や特定の観光資源が個々に語られることが多い。訪日外国人旅行者が1000万人を越え、更なる拡大を目指すためには、日本国内のそれぞれの地域の特色を売り出すだけでなく、全国共通の観光のコンテンツを基にした観光スタイルを提案していくという方向性も重要になるのではないかと考える。その意味でもフランスのワインツーリズムの取り組みは、日本の観光政策にも示唆を与えてくれる事例である。

【謝辞】
本調査は、現地ヒアリング調査の準備段階から、ATOUT FRANCE(フランス観光開発機構)の多大なるご支援をいただいて実現できたものであります。また、現地ヒアリング調査では、Cote d’Or Tourisme、PAIN VIN & COMPANY、VIN&SOCIETEのご担当者様にご対応をいただき、詳しい取り組みを伺うことができました。ここに改めて御礼を申し上げます。