2040年産業構造ビジョン中間整理案が示す観光産業の基幹産業化

2025年4月、経済産業省は「2040年の産業構造ビジョン」第4次中間整理案を発表した。観光産業は2040年には基幹産業化するとされ、大きな期待が寄せられている。 *本コラムは、「不動産経済Focus & Research No1525(不動産経済研究)」に掲載された原稿を、許可を得て再掲するものです。

篠崎 宏

篠崎 宏 客員研究員

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2025年4月22日に経済産業省の経済産業政策新機構部会が開催され、「2040年の産業構造ビジョン」の第4次中間整理案が示された。その中で観光産業は2040年には基幹産業化を実現すると示されており、これまでにない大きな役割を担うこととなる。

8兆円を超えた訪日外国人旅行客消費額

2024年の訪日外国人旅行者数は3686.9万人(2023年比47.1%増、2019年比15.7%増)、消費額は8兆1257億円(2023年比53.1%増、2019年比68.8%増)と、ともに過去最高の数字となった。また1人当たり旅行支出も22万7000円(2023年比6.6%増、2019年比43.1%増)と大きな伸びを示している。2025年に入っても3月累計で1053.7万人と2024年を23.1%上回り好調を維持している。

国際観光は見えざる貿易と言われており、主要商品の輸出との比較においては、1位の自動車18兆3260億円には大きく及ばないものの、2位の半導体等電子部品6兆1543億円を上回り、輸出総額108兆8939億円の7.5%の規模に達している。訪日外国人旅行者による観光消費は、外貨を稼ぐ貴重な存在であり続けるはずである。

2040年の産業構造ビジョン(第4次中間整理案)

経済産業省は2021年11月に経済産業政策新機構部会を立ち上げ、経済産業政策の新機軸に必要性について議論を重ねている。これまで2022年6月、2023年6月、2024年6月に中間整理を行っており、2025年4月22日の経済産業政策新機構部会では第4次中間整理案について議論を行っている。
 部会では、「第3次中間整理で、産業政策の強化という新機軸の政策を続けていくことで得られる姿について、定性的なシナリオとして方向性を提示、第4次中間整理は、ここ1年の関連政策(GX2040ビジョンや第7次エネ基等)も踏まえて、シナリオを精緻化し、さらに定量化することで予見可能性を高め、将来見通しの実現に向けたものとして、必要な追加策を示す」こととしている。

シナリオ集案では主要ミッションごとのシナリオとして、GX、DX、グローバル・経済安保、健康・地域の包括的成長を抽出している。あわせて既存の個別産業の変化として、半導体・計算資源、自動車・モビリティ、蓄電池、産業機械・ロボット、航空機・次世代空モビリティ、宇宙、素形材、化学、鉄、医療機器、医薬品、ヘルスケア、介護、物流・流通(卸・小売)、コンテンツ・観光について将来の見通しを示している。

基幹産業へと期待が高まる観光産業

2040年の産業構造ビジョンでの観光産業のシナリオ案を見てみよう。
 「世界の観光需要は、グローバルサウス諸国等の新興国の経済成長や、産業のサービス化・デジタル化の進展による、世界全体の経済的余力や余暇的時間の増加に応じて、拡大していく」と書かれており、富裕層の獲得競争が企業間で激化しつつも、「生産年齢人口が減少する国における最重要な外貨獲得産業、かつ非東京圏の多様な文化芸術資源(工芸・ファッション・デザイン等を含む)を核に、経済社会水準(賃金水準やインフラの持続性等)に最大の正の波及効果をもたらす産業として、国の基幹産業としての地位を獲得する」としている。

また「日本の観光関連産業・企業の市場競争力は、デザイン、アート等の文化芸術資源やスポーツを活用すること等により、顧客とサービスの多様化・ユニーク化・高付加価値化を軸として成長する」としており、「他国と差別化された日本の独特な特徴(良好な治安、公共交通の時間の正確さを含めたインフラの確実性、米欧先進国と新興国の双方の信頼性を獲得できる地政学的位置、宗教的ではないがスピリチュアル(SBNR:Spiritual But Not Religious)な価値を持つ建造物や地域伝統芸能等による体験、世界的に著名なコンテンツの題材となった実世界のものや体験への憧れ、日本独自の応援文化や母国選手の活躍に触れるスポーツ観戦等)を競争力の源泉として、多様な地域・プレーヤーが、ユニークな継続的顧客層と強固な関係を構築し、高単価の観光・宿泊体験を提供し続ける産業へと成長を遂げる」と書かれている。

一般社団法人自動車工業会が発表した資料では、2022年の自動車製造業の製造品出荷額等は62兆7942億円、全製造業の製造品出荷額等に占める自動車製造業の割合は17.4%、機械工業全体に占める割合は39.3%となっており、2023年の自動車関連産業の就業人口は558万人にのぼっているとしている。このように自動車産業はその経済活動規模の大きさから、他の産業への波及効果は枚挙にいとまがない。基幹産業とは、自動車産業のように一国の経済活動の基盤となる重要な産業と言われており、他の産業の発展に大きな役割を果たす必要がある。

今後の15年間で観光産業は高付加価値等による収益力の飛躍的な向上を果たし、それに伴い賃金を上昇させ、産業間で競争が激化している優秀な人材獲得を実現する必要がある。2026年度にスタートする第5次観光立国推進基本計画は、基幹産業へのロードマップとなる。
 
出典:株式会社不動産経済研究「不動産経済Focus & Research No1525」
https://www.fudousankeizai.co.jp/
*本コラムは、「不動産経済Focus & Research No1525」に掲載された原稿を、許可を得て再掲するものです。