地域から描く旅行ビジネスのイノベーション

訪日客が過去最多となるなど観光市場が変容する中、日本の旅行業界は成長機会を十分に捉えきれていない。本稿は、DMCやツアーオペレーター、ランドオペレーターなど、地域を拠点として旅行ビジネスを行う「地域旅行ビジネス」に焦点を当て、旅行業界の産業構造の変化を読み解きながら、地域課題の解決と価値創出を両立するイノベーションの可能性を論じる。

小林 裕和

小林 裕和 客員研究員

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目次

1.背景

2026年がスタートした。2025年の訪日外客数は4千万人を超え過去最高となり、日本社会はかつて誰も経験したことがない状況に直面している。日本人の出国者数は2025年11月累計で1,344万人、前年比13.6%増となった。また世界を見渡せば、一部地域において地政学的な緊張は続くものの旅行需要は堅調である。世界観光機関(UNツーリズム)の世界観光指標によれば、2025年1月から9月の国際観光客到着数は11億人を超え、2024年期比で約5,000万人の増加となった。

このような状況下で新たな需要や価値創出の可能性に目を向ければ旅行ビジネスは今後も高い成長可能性を保持しているように見える。実際、訪日旅行ではアドベンチャートラベルや高付加価値旅行などは国の観光政策の後押しもあり、新しい分野として育ちつつある。しかし、残念ながら日本の旅行業界はそうした市場の機会を十分に取り込めている状況とはいいがたい。観光庁の統計によれば、2024年度の主要旅行会社の総取扱額は2019年度比で約81%であり、2025年に入り10月累計で前年比5%増である。訪日旅行の取扱額だけを見れば2025年10月累計で前年比115%と伸長しているが、同時期の訪日外客数は同117.7%に比べて見劣りがする。また、訪日旅行が日本の旅行会社の取扱総額に占める割合は6.3%にすぎず、そもそも日本の旅行会社にとって訪日旅行ビジネスは経営に与えるインパクトは大きくない。これまで旅行会社の利益の源泉であった海外旅行を中心としたパッケージツアーの企画販売による旅行流通のシェアは、LCCやOTA、民泊など従来とは異なるビジネスモデルに奪われつつあるのかもしれない。しかし、市場機会はどんなプレイヤーにも平等に訪れている。今、旅行ビジネスに求められるのは、新しい市場に対して、新しい価値を提供するためのイノベーションである。

すでに新しい風は吹いている。2025年6月、東京都港区で、タビナカ(旅行中の体験)に特化した、日本初の観光業界イベントとして、「tabinaka summit 2025」が開催された。初回開催、有料イベントにもかかわらず、参加者は対面・オンライン併せて900名を超えた。ボランティアも含めて若い世代も多く、筆者も主催者の激励のために会場に駆け付けたが、世界各地で開催される旅ナカに特化したイベント「Arival」にも劣らない熱気と興奮に包まれていた。今年も6月12日(金)に開催が予定されている。市場が潮目を迎える中、旅行ビジネスが自らを変革するイノベーションの機会としてとらえ、新しい価値提供を行うための道筋を考えたい。

2.旅行業界の構造変化ー2017年〜2018年を転換期として

日本の旅行ビジネスは旅行業法によりその取り扱える範囲によって区分が定められている。まず大きく旅行業者、旅行業者代理業、旅行サービス手配業者の三種に分類され、さらに旅行業者は、第1種、第2種、第3種、地域限定の4区分に区分される。
 2005年から2024年までの登録旅行業者数の推移を分析すると(図)、JTBやHISなどの大手企業を含み、国内外の旅行を取り扱うことができる第1種旅行業者数は20年前の2005年には781社あったが、2024年には609社となり、約2割にあたる172社減少した。国内旅行のみを取り扱う第2種の登録数は2005年から2014年まで3,000社未満で推移していたが、2019年には3,000社を超え2024年には3,091社となり13%増加した。第3種旅行業および旅行代理業はそれぞれ83.3%、48.5%に減少した。
 2013年に創設された地域限定旅行業は、取り扱える旅行商品の範囲が、実施区域となる出発地や目的地、宿泊地などが営業所のある市町村と隣接する市町村などに限られる。その登録社数は制度導入以降継続的に増加し、2024年には687社となった。制度導入から11年間の増加の仕方を詳細に分析すると、その増加傾向は一様ではなく、2017〜2018年頃を転換点として、以降の増加率が以前に比べて大きくなっていることが分かる。つまり、この時期に日本の旅行業界にとって、構造的な変化が生じたことを示唆する(注1)。

 

3.現地発着型の旅行商品を取り扱う地域旅行ビジネスと着地型旅行

そのような構造変化の背景の一つに、2015年に、観光による地域活性化戦略の一環として導入されたDMO(観光地域づくり法人)登録制度がある。観光庁の定める登録要件を満たした団体は、「登録DMO」として登録され、2025年10月時点で、登録DMOは334、候補DMOは29存在する(候補DMOの制度は2025年9月末で廃止となったが、既存の候補DMOは更新期限の2028年9月末まで存続が可能)。DMOはデスティネーション・マネジメント/マーケティング・オーガニゼーションの略で、従来の観光協会とは一線を画し、効果的な観光地マーケティングや地域の持続可能な発展を促進し、地域経済を強化する組織の確立を目指しているが、その活動の一環で地域発着の旅行が推進されている。すこし古いデータではあるが、自主財源獲得の手段としてDMOの約9割が地域発着の旅行商品を取り扱っているとする調査結果もある(秋山、鈴木, 2021)。
 そのような動向の中で注目を集めているのが、DMC(デスティネーション・マネジメント・カンパニー)やランドオペレーター、ツアーオペレーターなど観光地(着地)側に拠点を置く旅行ビジネスである。それらの業態は旅行業界においては以前から知られてきたが、観光地経営の高度化、高付加価値旅行やアドベンチャートラベルなど新しい市場への取り組みが政策的に推進される中で、その担い手として認識が高まっている。筆者はそれらを総称して「地域旅行ビジネス」と呼んでいるが、以下簡単に業態ごとに紹介する。
 まずDMCについて、米国に拠点を置くDMCの業界団体ADMEIによれば、「旅行目的地に拠点を持ち、地域の専門知識やリソースを活用する専門サービス会社であり、戦略的パートナーとして、イベント運営、ツアー/アクティビティ、交通手段、エンターテイメント、ロジスティクスにおいて、創造的な地域経験を提供する」と定義されている。欧米で1970年代から始まったとされ、現在はMICEだけでなくそのノウハウを生かして取り扱いを広げ、SITやアドベンチャートラベルなど、専門性の高い旅行手配を得意とする企業も多い。
 次に、ランドオペレーターは、基本的に発地側の旅行会社の依頼を受けて観光地側の各種旅行手配を行う。海外ではツアーオペレーター、グランドハンドラーなどと呼ばれている。日本では2018年の旅行業法改正により、「旅行サービス手配業」として都道府県知事登録が義務付けられるようになった。
 3つ目のツアーオペレーターは、主に自らが主体的に旅行商品を企画する点において先の2業態とは異なっている。日本の〈旅行会社〉に近いが、観光地側に拠点を置くので、インカミング(インバウンド)・ツアーオペレーターと呼ばれることもある。自主的に企画した旅行商品を直接消費者に販売することを志向するが、流通戦略的に他の旅行会社と取引を行うことも多い。
 ただしこれらの区分は、ビジネスの現場では厳密に使い分けられてはおらず、相互に同じ意味で使用されることもある。たとえば、アドベンチャートラベル・トレードアソシエーション(ATTA)の会員一覧のカテゴリーには、「Tour operator」はあるが「DMC」はなく、一方で「Tour operator」のカテゴリーの中にDMCを名乗る企業も多くみられる。

一方で、日本では2000年代に入ってから「着地型観光」「着地型旅行」(注2)が各地で推進されてきた。地域が主導して旅行商品を企画・運営することを意味し、地域旅行ビジネスと似た概念ではあるが、観光政策上はこちらの方が一般的だろう。
 しかしこれらの地域発着のツアー企画造成は利益を生むものではないという理解がされることも多い。これには2つの理由が考えられる。まず、着地型旅行は行政や地域の観光協会が推進役となり補助金などの公的資金を活用して実践されてきたことである。モニターツアーとして、ある一定の日付や期間のみ企画・実行されることも多かった。企画内容自体は、いままで見過ごされがちであったその土地の文化歴史を掘り起こし、第一次産業などの関係者が関わり、通常の旅行商品では実現が難しい体験が価値となっていたが、経済的には、地域に裨益する十分な利益は見込まれなかった。2つ目は、大手旅行会社にとって、〈着地型旅行、現地発着の旅行商品はもうからない〉という認識が根強いことである。海外パッケージ旅行や団体旅行のように、観光地までの移動手段を旅行商品に含む、いわゆる「足つき」の商品で利益を生み出すビジネスモデルとは異なり、また単価も低く設定されてきたためである。以前、欧州で現地発着のオプショナルツアーを企画する責任者はこう話してくれた。〈大手旅行会社の社員のほとんどは発地でのツアー企画の経験しかなく、現地発着ツアービジネスのノウハウを知る人が少なく、非常に説明に苦労する〉。地域発着の旅行ビジネスは従来と異なる事業戦略が必要であることを示唆している。

現地発着の旅行ビジネスが世界中で実施されている現実をみれば、着地型旅行が一様に利益の出ないビジネスであるということではなく、利益を生むビジネスモデルとして実践されていない、とういことであろう。いいかえれば、現地発着の旅行ビジネスが従来の旅行ビジネスとは異なる業態であり新しいビジネスモデルであると認識され、その実践のためのノウハウが広く共有されることにより既存の旅行ビジネスが革新され、また新しいプレイヤーが創出され市場を活性化する可能性がある。その意味では旅行ビジネスにとってイノベーションの余地が十分に残されている。

4.地域旅行ビジネスの2つの価値

地域旅行ビジネスは、地域とともにある観光を進めるうえでのミッシングピースとして、今後欠かせない存在になるだろう。なぜなら、地域旅行ビジネスは、地域に根差してビジネスを行うという特徴から2つの重要な役割を担うからである。まず、流通を通じて市場に地域独自の旅行商品を届ける役割である(流通共創的役割)。二つ目は、地域の観光事業者だけでなく、住民ガイドや農林水産業など、昨今観光を進めるうえで必要な関係者とのネットワークを構築し協業を推進する役割である(地域共創的役割)。
 たとえば、島根県隠岐の島に拠点を置く「隠岐旅工舎」は、インカミング・ツアーオペレーターとして、隠岐諸島(隠岐の島、西ノ島、中ノ島、知夫里島)発着の旅行商品を企画・販売している。後鳥羽上皇の時代から続く島の伝承とされる牛突きの牛と散歩をする「突き牛さんぽ体験ツアー」は、牛飼いと一緒に話をしながら牛とさんぽをする(だけの)内容であるが参加者には好評である。しかし観光事業者でない牛飼いに、観光客を受け入れるノウハウやその意義を理解してもらうことは簡単ではなく、企画実現までには地域における関係性構築が欠かせない。
 地域旅行ビジネスの2つの役割は互いが関係し強化し合うことで持続的なしくみ=エコシステムを形成する。つまり、地域の事業者だけでは簡単ではない、インターネットも含めた旅行商品の流通を行い、それによって、市場動向や消費者ニーズを把握することができる。その知識を地域に還流することで地域の関係者との信頼関係を強化する。そして最新の顧客ニーズを知ることから生まれる新しい発想はさらなる新しい商品価値創出につながり、流通先に新たな商品を提供できる。このような持続可能なしくみは、補助金を活用した単発的な着地型旅行の取り組みとは大きく異なり、地域旅行ビジネスは自らがビジネスの主体として利益を上げつつ、地域における持続的なしくみであるエコシステムを構築する触媒ともなりうる。

5.おわりに~地域課題に対応する地域旅行ビジネスの可能性

今年4月から第5次観光立国推進基本計画が始まる。これまでの国土交通省交通政策審議会観光分科会での議論では、目指すべき姿の一つに、観光客数増だけを目標とするのではなく、観光地域住民と観光客双方の満足度の向上が掲げられており、観光と住民生活の質とのバランスをとることが観光地経営により求められることになる。SNSの発達や行き過ぎたコンテンツツーリズムなどにより、観光客による特定地域への一時的な集中による混雑が住民生活に悪影響を及ぼしていることが、オーバーツーリズムとして取り上げられることも多い。一方で、日本各地には多くの自然・文化資源があり、それらを持続可能な形で活用し、地域に経済的、社会的に裨益するような観光が求められている。その担い手としてDMCやツアーオペレーターなどの地域旅行ビジネスの役割をうまく活用したい。具体的には、訪日旅行客の人気の観光地への一極集中を避け、広く地方に分散して訪問してもらうために、地域における旅行手配を担うプレイヤーとして、DMCやツアーオペレーターを育てる政策が重要である。
 地域で観光政策を推進するうえでは、地域旅行ビジネスは、DMOのよき協業パートナーとなる。DMOは公的な性格を帯びた、地域をマーケティングし、マネジメントする組織であり、その活動の成果の次には商談の機会が訪れる。海外の旅行会社が具体的に見積もりや手配を依頼する先としてのビジネスパートナーは、ビジネス活動である以上、本質的に公的なDMOの業務ではなく、地域旅行ビジネスの役割である。海外のデスティネーションには、地域を拠点とするDMCがリスト化されており、その業界団体を持つところもある。しかし現在の日本の状況は、DMCが圧倒的に足りないという声が大きい。実際それはアドベンチャートラベル等新しい市場獲得の妨げにもなっている。2023年9月に開催された、アドベンチャートラベル・ワールドサミット北海道・日本(ATWS2023)の報告書においても、AT商品造成の中核を担うDMCの育成が提言されている。ATにおいてはガイドの重要性は言うまでもないが、流通や商品提供などを担うビジネス主体の存在が不可欠である。そして従来の旅行ビジネスとは異なる、新しい旅行ビジネスが必要であるという共通認識が一般の消費者に広がることも重要である。
 地域にとって、今後は地域社会の発展に資する観光の実現はますます重要になる。かつて旅行ビジネスは「旅行商品」を〈発明〉し、誰もが気軽に安価に旅行に行ける時代=マスツーリズムの実現の一端を担い、社会の変革を促した。少子高齢化や地域活性化といった多くの社会課題への対応が求められる今日において、その解決をビジネスチャンスとしてとらえ、地域に寄り添いその発展に貢献することをミッションとして提供価値を再定義し、地域課題を解決する観光を実現するゲームチェンジャーとして存在価値を示したい。
 

(1)2014〜2024年の区間におけるブレークポイント分析では、2017年が最も有力な転換点として特定され、前後の回帰傾きの差は49.70と最大であった。2番目に大きな差(46.39)は2018年に生じていた(Kobayashi, 2025)。
(2)「着地型旅行」「着地型観光」は厳密な意味は異なるが、本稿では同じ意味として扱う。詳しくは、「地域旅行ビジネス論」(小林裕和著)を参照。

<参考文献>
  • Kobayashi, H. (2025) Transformation of the tourism system and the rise of destination-based travel businesses — An exploratory analysis based on travel industry data in Japan (2015–2024)(観光システムの変革と地域旅行ビジネスの台頭 ― 日本の旅行業界データ(2015年~2024年)に基づく探索的分析), 74th AIEST ABSTRACT BOOK, p.19
  • 秋山友志、鈴木伸治(2021)日本の DMO における着地型観光の企画・運営実態に関する一考察 ―観光庁による登録 DMO・候補 DMO への着地型観光に関するアンケート調査より―第36回日本観光研究学会全国大会学術論文集(2021年12月)pp. 77-82
  • 国土交通省観光庁(2024)ATWS2023を契機としたアドベンチャーツーリズムの推進に向けたヒアリング・アンケート調査結果
  • 小林裕和(2022)地域旅行ビジネス論、晃洋書房
  • インバウンドウェブマガジンやまとごころ.jp https://yamatogokoro.jp/editor/kobayashi/