連載
FRE~EDO~M ~3つの大陸で育まれた自由な視点から’今’をみる~
2025年大阪万博における「気候多様性」をコンセプトにしたクロアチアの挑戦
夢洲で開催された2025年大阪万博は、この10年間で最も意欲的な世界規模の博覧会だと感じました。万博は、人類の未来に向けたビジョンを提示するために各国が集まる場です。建築の傑作である大屋根(Grand Ring)は統一と循環型持続可能性を象徴し、公式マスコットであるミャクミャク(細胞、水、そして継続的な変容を象徴するキャラクター)は、瞬く間に世界中でイベントの象徴となりました。6ヶ月間にわたり、2025年万博は、大統領、首相、国王など各国の首長や世界中の高官を含む2900万人を超える来場者を迎えました。
2025年万博におけるクロアチア:テーマ解釈部門で銀賞を獲得
私はこの歴史的なイベントで、共有パビリオン(いのち輝く未来社会ゾーン)内のクロアチア館のディレクターとして、クロアチア共和国を代表する栄誉にあずかりました。
そしてクロアチアパビリオンは、私たちのコンセプトである「気候多様性(Climadiversity)」の独創性と一貫性が認められ、博覧会国際事務局(Bureau International des Expositions:BIE)による公式参加者褒賞の「テーマ解釈部門」において銀賞を受賞しました。クロアチアの受賞は史上初めてのことで、個人的にも筆舌に尽くし難い誇りを感じました。世界中の国々と競い合う中で、私たちのパビリオンはリアリティと体験性を兼ね備えたコンセプトに根差しつつ国のアイデンティティに深く結びついていたため際立っていたことが証明されたのです。
気候多様性:万博のために作られたコンセプト
2025年大阪万博のために、私たちは「気候多様性(Climadiversity)」という新しい言葉を導入しました。これは、何世紀にもわたってクロアチアの生態系、建築、伝統、そして人々のアイデンティティを形成してきた気候の多様性を表しています。クロアチアは、小さな地理的領域内に、地中海性、大陸性、山岳性、そして微気候帯を持っています。パビリオンは、この多様性を生き生きとした感覚的な体験として伝える場であったのです。
45の気象観測所からのリアルタイムの気温の表示、触れることができる500本の水で満たされたチューブ、訪問者が自分自身の体温を見ることができるライブサーマルカメラ画像などを通じ、訪れた人々は、その時の気分や快適さに応じて、好みの「気候ポジション」を選択でき、パビリオンを単に「見学する」だけでなく、「身体的な感覚」を得られたことが特に人気を博しました。


愛知から大阪へ:私自身の20年にわたる万博の旅
私自身の万博との関係は2004年に始まりました。2005年愛知万博のクロアチア共和国代表としてクロアチア館の開発を担当し、開会後は広報部長として、日本に集まった世界中の来場者にクロアチアの文化やアイデンティティ、観光の可能性を伝えることに努めました。その成果もあってか、翌年、クロアチアを訪れる日本人観光客数は約2倍となりました。その後、クロアチア政府観光局の日本事務所の所長を経て、2020年ドバイ万博では、日本の公式代表事務所の代表として、万博を単なる展示会としてだけでなく、戦略的な外交的・経済的プラットフォームとして機能させることに挑戦しました。私にとって、2025年大阪万博は、20年間の経験が歴史的な一大イベントに集約された、まさに円熟の時であると感じました。
万博を原動力とした観光への効果:
2025年大阪万博は、開催国にとって素晴らしい観光成長の機会であり、国際旅行と国内旅行の両方に利益をもたらし得ることを証明しました。
具体的には、国際的な大規模イベントとして機能することによるインバウンド観光の成長(国際的な知名度を高める高レベルの外交訪問も含む)、国内長距離旅行の増加、万博と京都、奈良、広島、東京を組み合わせた滞在期間の延長、関西の宿泊施設の稼働率の向上、鉄道および航空旅客数の増加、将来の開催地への示唆などの効果がありました。
また、万博は、期間限定であるがゆえに、通常の観光キャンペーンでは達成できない、旅行への独特の心理的緊急性や特別感が、より体験を心に残るものにしていると考えられます。
3つの万博での経験に基づいて、私が観光ROIを最大化するために重要だと考える要素は次のとおりです。
- 地域と連携したプロモーション戦略:開催都市の孤立を避ける
- 体験主導のパビリオンデザイン:ユニークな体験を提供し、ソーシャルメディアでの拡散を増やす
- 顧客データの収集と活用:万博訪問者をリピーター客へと転換する
- 持続可能性との連携:長期的、かつ、グローバルな視点の中に目標を位置づける
クロアチアの気候多様性コンセプトの受賞は、小国であっても万博への参加を活用し、永続的なブランド差別化を図れることを示しています。
まとめ
2025年大阪万博は、クロアチアにとって、環境アイデンティティに根ざしたコンセプト主導の国家ブランド戦略の可能性を裏付けるものでした。
また、日本も、技術的に進んだ社会であることや、持続可能なイノベーションのリーダーであること、文化的に没入できるデスティネーションであるというイメージを確立できたものと考えます。
観光研究の観点からみても、万博が短期間での訪問者増、地域経済への相乗効果、長期的なデスティネーションブランディングを同時に促進できる数少ないグローバルプラットフォームの1つであることが示されました。
今後も、このような機会を通じ、世界の様々な国や地域が、戦略的な観光振興を進められることを期待します。