<特別レポート>2009年1年間で約110万減少した有効旅券数

前回のコラムで、有効な旅券の数が2009年末には、2005年末に比較して400万ほど減ると指摘した。今回はその続編である。減少傾向が続く我が国の有効旅券数だが、その一方で地域間格差も顕著になってきている。今回は、ここにスポットを当ててみたい。

磯貝 政弘

磯貝 政弘

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2009年1年間で約110万減少した有効旅券数

2009年の日本人海外旅行者数が速報値で1,545万人と発表された。これは前年を3.4%下回る数値だが、新型インフルエンザの影に群集心理が凍えた5月6月の2ヶ月があったにもかかわらず、この程度の低下におさまったといえなくもない。ただし、2007年と比べれば、10.7%減であることをどのように評価するべきかという課題は残る。

前回のコラムで、有効な旅券の数が2009年末には、2005年末に比較して400万ほど減ると指摘した。今回はその続編である。また、先に述べた課題への私なりの回答を提示したいと考えている。

さて、つい先頃、外務省から12月の新規旅券発給数が発表された。2009年を通して発給された数は400万強。前年に比べて20万ほど増加している。

が、問題は2009年に失効した旅券の数だ。実は、それが発給された数よりも110万ほど多いのである。ここまではほぼ前回の補足だが、これから先は、有効旅券の数が発給地によって大きく異なることをお伝えしたい。使用するデータは、2005年末と2008年末の外務省「旅券統計」である。

有効旅券数が増えたのは外国発給分だけ

2008年末の有効旅券総数は、2005年末と比較して8.6%少ない31,935,917であった。
これを発給地別にみて驚くのは、この間に数が増加しているのは外務省発給分だけであるということだ。これは国外の領事館などが発給した旅券を指す。その数は約63万5千。2005年末からは5.1%の増加である。

ところで、下図は1990年以降の海外在留邦人数の推移を示したグラフである。
20年近くの短い期間で、海外に3ヶ月以上滞在する日本人は倍近くに数が膨らんでいることがわかるが、21世紀に入ってその勢いは一挙に加速している。その大きな要因が、中国との経済関係の緊密化にあることはいうまでもない。

2008年(10月1日現在)の海外在留邦人数は約111万7千人。2005年に比べて10万人ほどの増加である。外務省発給の有効旅券数の増加と在留邦人数の推移には密接な相関関係を認めないわけにはいかない。

ここで少しだけ脱線するが、2008年の在留邦人数が最も多いのはアメリカ合衆国の386,328人。続いて中華人民共和国の125,928人。以下、オーストラリア(66,371人)、英国(63,017人)と続く。

在留邦人数のうち、永住者を除く3ヶ月以上の長期滞在者に限ってみると、アメリカ合衆国(250、294人)、中華人民共和国(124,480人)、英国(48,598人)、タイ(43,195人)の順に並ぶ。

ここで目につくのは、中華人民共和国に滞在する在留邦人の実に98.9%もが長期滞在者であり、永住者は殆どいないという点である。三分の一近くが永住者のアメリカ合衆国とは大きく異なる構成となっているところが興味深い。

また、中国の長期滞在者のほぼ三分の一に当たる48,065人が、経済の中心である上海に集中している。これはニューヨーク(41,246人)、ロサンゼルス(38,326人)、バンコク(31,643人)を上回る断然の1位である。

資料:外務省「海外在留邦人数調査統計」

年を追って顕著になる地域間格差

外務省「旅券統計」によれば、平成17年末に34,934,463だった有効旅券数は、平成20年( 外務省(=在外の領事館など)を除くすべての発給地(ここでは都道府県単位にまとめた)で有効旅券数は減少している。ただし、その度合は発給地別に大きな格差がみられる。

減少率が全体平均(8.6%減)よりも小さいのは、首都圏の1都3県、東海地区の静岡、愛知、三重、近畿の滋賀、兵庫、それから沖縄だけである。大阪、京都といった大都市を擁するところでも全体平均よりも大きく減少しているが、この一面を切り取っただけでも関西国際空港が置かれた環境の厳しさをうかがい知ることができる。

次に、減少率を高い方から順に並べると、岩手(17.4%減)、青森(17.3%減)、秋田(16.8%減)、山形(16.2%減)と東北の各県が上位を占める。東北では、宮城、福島も減少率は13%を超えている。なお、北関東の茨城、栃木、京都、岡山、福岡の1府4県を除くすべての道県で減少率が10%を超えている。

ここで少し視点をかえて、有効旅券数を日本人人口で割った”旅券保有率”をみると、2008年末で日本人の全体平均は25.4%となる。20~25%とされるアメリカ人の旅券保有率とほぼ同等の数値ということになる。

これを発給地=居住地とみなして都道府県別に旅券保有率を算出すると、平均を超えるのは首都圏の1都3県と東海地区の愛知、岐阜、そして近畿の2府3県(兵庫、滋賀、奈良)に過ぎないことがわかる。

日本人海外旅行マーケットに関心をお持ちの方ならば既にお気付きのことと思うが、出国率の高いところほど旅券保有率が高いという関係がはっきりと認められる。

大都市圏と地方との格差が大きな社会問題として取り上げられるようになって久しいが、海外旅行における地域間格差も年を追うにつれて深まっている。そればかりか、同じ大都市圏といっても、首都圏とそれ以外の大都市圏の間にも格差が生まれつつあることがうかがえる。

そうした状況を傍目に、首都圏2空港の発着枠が拡大されようとしている。これが地方で生活する人々にとって、海外旅行をこれまで以上に身近な存在へと引き寄せるきっかけになるのかどうか。注目の1年はたった今始まったばかりである。