NHK「大河ドラマ」による観光誘客効果について

かつて日本で放映された「冬のソナタ」をはじめとした韓流ドラマのヒットにより、韓国内のロケ地やゆかりの地を巡る日本人観光客が増加した。このように、テレビドラマは有望な旅行動機となるが、この代表格ともいえるNHK「大河ドラマ」の誘客効果について考察したい。

酒井 健太郎

酒井 健太郎

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目次

旅行動機となる代表的なテレビドラマ・・NHK大河ドラマとは

NHKで毎週日曜夜に放映されている「大河ドラマ」は、昭和38年に第1作が放映された。毎年違う歴史テーマで制作・放映されており、長きにわたり、日本人の観光旅行に大きな影響を及ぼしてきた。

大河ドラマは、日本の歴史上の人物をテーマとしていることから、国内各地がその舞台となる。1つの番組をほぼ1年間かけて放送する間に、ドラマの舞台になった地域が登場人物や歴史的な背景とともに繰り返し画面に映し出されるため、視聴者がその地域に関心をもつようになる。番組を通して、ドラマの舞台になった地域に関心をもった多くの視聴者が当地に赴き、歴史の軌跡をたどる旅を楽しんでいる。

そのため、大河ドラマに登場する主人公ゆかりの地域では、番組が観光客誘致の絶好の機会ととらえ、放映が開始される1年以上も前から大河ドラマと連携をした観光PRを大々的に行っている。

過去5年間に放映された「大河ドラマ」とそのゆかりの地は以下の通りである。

出典:Wikipediaより参照

大河ドラマの誘客効果について、平成18年から平成20年までの大河ドラマの舞台となった、高知・山梨・鹿児島各県の観光客入込数推移を通してみてみよう。

「大河ドラマ効果」の検証

~ドラマの舞台となった地域における観光客入込数の年次推移

高知・山梨・鹿児島各県における観光客入込数の年次推移は、下表の通りである。

出典:高知県:高知県 観光振興部 観光政策課「高知県県外観光客入込調査」(平成20年は推計値)
山梨県:山梨県観光部観光企画課「山梨県観光客動態調査」
鹿児島県:鹿児島県観光交流局観光課「鹿児島県観光統計」


出典:高知県:高知県 観光振興部 観光政策課「高知県県外観光客入込調査」
(平成20年は推計値)
山梨県:山梨県観光部観光企画課「山梨県観光客動態調査」
鹿児島県:鹿児島県観光交流局観光課「鹿児島県観光統計」

黄色で塗られた年が、各県を舞台にした「大河ドラマ」が放映された年であり、各県とも、放映された年の観光客入込数が前年に比べ伸びている。

次に、平成16年の観光客入込数を100としたときの推移から、放映前・放映後の観光客入込数の変化を見てみよう。


「功名が辻」の舞台となった高知県では、放映年の平成18年は105と伸びたが、翌年の平成19年は99と、放映前よりも観光客入込数は少なくなっている。なお、平成21年は、平成22年放映の「龍馬伝」の前年にあたり、高知への関心が徐々に高まってきたために、観光客入込数が再び増加に転じたと考えられる。

「風林火山」の舞台となった山梨県では、放映前年の平成18年に103と観光客入込数の増加が見られ、放映年の平成19年の指数は113と大きく伸びた。その翌年である平成20年は111、平成21年は110と観光客入込数を維持していることから、放映前年から放映後に至るまで、「大河ドラマ」効果が持続していたものと考えられる。

「篤姫」の舞台、鹿児島県では、放映前年の平成19年に102から106と増加し、放映年の平成20年は111とさらに伸びている。しかし、放映翌年の観光客入込数は109と若干減少している。この原因について、鹿児島県観光交流局観光課の話によると、「篤姫」放映の反動及び経済不況などの影響により、前年よりも減少したとのことであった。

「大河ドラマ効果」を持続した山梨県の取り組み

山梨県観光課は、観光プロモーションにおける大河ドラマの効果や、大河ドラマのもつ魅力、これを活かすための取り組みについて以下のようにコメントしている。

  • 「風林火山」の放映前年に、観光課内に「大型観光キャンペーン協議会」を設置し、放映前から観光PR活動を積極的に行った。
  • 放映中はもちろんのこと、放映終了後の翌年1~3月も継続してプロモーション活動を行い、4~6月のJRディスティネーション・キャンペーンにつなげた結果、年間を通して観光客入込数を維持できた。
  • 観光地にとって大河ドラマのもつ魅力は、ドラマの題材が昔からなじみのあるテーマであり、元々地域に根付いていた観光資源が、大河ドラマによって磨きが掛かり、観光地としての魅力を増す。その具体的な事例として、毎年4月に行われる「信玄公まつり」が、大河ドラマ放映以降、注目度が増し、年々見物客が増加していることがあげられる。

さらに、山梨県の担当者によると、2010年放映されている大河ドラマ「龍馬伝」の登場人物の墓が甲府市内に実在するが、にわかにこの墓に注目が集まり、このことがきっかけで甲府市内の町歩きツアーのコースに、この人物の墓が組み入れられた。このように、舞台となる地域以外にも大河ドラマ効果が波及することにも、着目すべきである。