Garbage can model ~意思決定のごみ箱モデルと、ごみ箱が担う最近の役割~

MICE施設が各国の街並みとどのような関わりを持つのか。街を歩くと街中で遭遇する「ゴミ箱」にも多種多様であることに気付く。J.G.マーチ先生らが提唱した「意思決定のゴミ箱モデル」から、「議論」の場である国際会議場や公共空間に設置された単なるゴミ捨て場としてのゴミ箱にまつわる話をしよう。

太田 正隆

太田 正隆 主席研究員

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仕事柄、世界中の国際会議場や展示場等に行く機会がある。そしてこれらのMICE施設が各国の街並みとどのような関わりを持っているのか、街のあちこちに目を凝らすことも多い。そんな中、ふと、これら街中で遭遇する「ゴミ箱」にも多種多様な顔があることに気が付いた。

J.G.マーチ先生(※1)らが提唱した「意思決定のゴミ箱モデル」(※2)から、「議論」の場である国際会議場や公共空間に設置された単なるゴミ捨て場としてのゴミ箱にまつわる話をしよう。

G8サミット等のような超VIPが来日したり、又はテロなど可能性があったり世の中が不穏になってくると、駅や空港等の多くの人々が往来する人流の交差点では、最初にロッカーやゴミ箱の使用が制限される。また、見たくないものや見せたくないもの、転じて話題にしたくない状態を「臭いものに蓋をする」等、「ごみ箱」が悪者の代表のような扱われ方である。

近年では、3R(Recycle, Reuse, Reduce)に象徴されるように、分別が周知され、「捨てればごみ、活かせば資源」の考え方と共に、いまや世界語になった「Mottainai」同様ゴミも大切に扱われるようになった。1994年、国連大学では人間の経済活動による自然界への排出をゼロにする仕組みを構築することを基本的な考え方として「ゼロ・エミッション(zero emission)構想」提唱した。キリンビールでは、すでに1970年代から副産物・廃棄物処理委員会」を設立し、廃棄物一〇〇%再資源化の取組により1994年に日本のビール工場で初めてゼロ・エミッションを達成している。

閑話休題、各国のMICE施設や公共施設等で見かける「ゴミ箱」には、デザイン性、視認性、機能性等の、人々への理解と利用促進のための努力と先進性が見受けられる。従前の、単純にゴミを入れて一時保管する機能から、一歩進んだ「ゴミ」に対する考え方や類型等が見て取れる。

主な分け方は、「燃えるか燃えないか」からスタートし、缶や瓶などの「燃えないもの」へ行きつく。それから「燃える・燃えない」から「もやすゴミ」「もやさないゴミ」「もえるゴミ」等へ、素材では「紙・新聞・雑誌」、「ビン・カン・ペットボトル」等が主流となってきた。海外では、「Burnable, Non Burnable」から、素材では「Paper, Plastic, Bottle, Trash」、更には、3R(Recycle, Reuse, Reduce)が意識され、「Recycle」の標記が増加してくる。もっと言えば、日本における多言語表記(日本語、英語、中国語、韓国語等)の標記と共に、リサイクル記号等でよく目にするピクトサイン形式へと発展する。素材、燃える・燃えない等の記号も国により多様性があり、見ていても楽しくなる。

行きつく先は、視認性と共にデザイン性であろう。円筒形、四角系、組合せ、一体化型、大小の組合せ等とカラーとの組み合わせが最終形であろうか。古くは、2005年の愛知万博で見かけたゴミステーションから、モーターショー等の会場特設ゴミステーション等、ゴミであるが資源でもあり、デザイン性、視認性、機能性や資源でもあるというゴミやゴミ箱に対する啓発であろう。

様々な物や素材が投げ込まれるゴミ箱であるが、製品や利便性等の膨大なエネルギーが費やされ、日常生活の中で消費され、利用しつくした結果としてゴミ箱が存在する。ゴミはここから再スタートをしてそれぞれ資源やエネルギーへと拡大再生産を続けていくことは、いまの世の中では大変に重要なことである。交流人口が爆発的に拡大する現代では、ゴミのリサイクルや機能性や美観や視認性だけではなく、捨て方側や回収する側の利便性や機能性からも、ゴミ箱が叫ぶ交流都市に対する警告にも見えてくる。
(「意思決定のゴミ箱モデル」とコラム内容とは必ずしも一致する訳ではありません)

ゴミ箱の類型

  1. オーソドックス型(燃えるか燃えないか)
  2. 素材別分類型(紙、ビン、缶等の素材別分類)
  3. ピクトサイン型(記号や図画による標記あり)
  4. 機能一体型(各種機能等の一体型)
  5. デザイン重視型(デザイン、カラー等重視)
  6. ゴミステーション型

(※1) J.G.マーチ
米国の社会学者・政治学者・政治学、意思決定論、行動経済学等幅広く活躍、スタンフォード大学名誉教授。詳しくは、「超企業・組織論(2000年;有斐閣)」高橋伸夫教授編纂(東大)を参照されたい。

(※2)「意思決定のゴミ箱モデル」
意思決定を行う場面では、まるでゴミ箱のようにたえず色々なモノ(意見)が出たり入ったり(スクラップアンドビルド)して、最終的には時間切れ又は期限がきた段階で意思決定がなされることが多い。物事を決めるプロセスで結論を出すことに時間をかけることよりも、仮説-検証を繰り返していくことが大事だと、ジェームズ・マーチスタン・フォード大学名誉教授は「意思決定のゴミ箱モデル」で指摘している。