何もない観光地だからこそニューツーリズムがある

観光面では後進県と言われる埼玉県ですが、最近その観光で元気な動きが出てきています。観光資源に乏しいと言われてきた埼玉ならではの取組みが、いま行われています。

中根 裕

中根 裕 主席研究員

印刷する

地域に係わる方々には失礼だが、埼玉県は観光面でいうと後進県と言われています。長瀞や秩父そして町並み観光の川越などあるのですが、県全体でみると農業県であり東京のベッドタウンとして認識されています。しかし最近その埼玉県の観光で元気な動きが出てきています。「らき☆すた」という人気アニメ??の舞台であったことから、ファンが「聖地巡礼」と称して訪れている鷺宮町とか、「鉄腕アトム」や「仮面ライダー」との縁を題材とし、そのキャラクターで活性化を図ろうとしている地域、さらには盆栽の街大宮には外国人来訪客が目立ってきているとか。また埼玉県全体では「B級グルメ選手権」なるイベントを開催し、エントリー数、来場者共に増加している等々、従来の狭い定義の観光資源ではないテーマ・素材で「注目を浴び」「人が交流している」動きが活発化しているのです。またこうした動きを受けて埼玉県は県庁内に「産業労働部観光振興室でぃーぷ担当」という部署を設け、県の観光協会に「ちょ~でぃーぷな観光協会」なるホームページを立ち上げています。

ご覧になった方は「公共が少し悪のりではないか?」と思われるかも知れません。しかしこの時代、公共機関であっても、従来のような”広く・浅く・平等に”だけでなく、
“こだわり(ディープ)”を持った取り組みを図って良い時代だと思います。ただしそこにはいくつかの条件が当然あります。第一には、地域に根ざしていない借り物のテーマや素材ではないこと、第二には行政や外部主導でなく地域主体であること、さらには中心となって取り組んでいる人々自身が楽しむこと等です。結果や数字をまず求めようとすると、このようなディープな資源や取り組みは動き出せません。取り組んでいる人達自身が楽しんでいて、その周囲に人が集まり、評判となってわざわざ訪れる人も増えてくる、というステップも一つのニューツーリズムだと私は思います。

「これは観光・旅行ではない」という意見もあるでしょう。しかし定義の問題以前に、人を呼ぶ資源など何も無いと思われていた地域が、こうして数千人、数万人の人を集め、地域の活性化への糸口となっているのは事実で、地域になにも無いからと諦めるのでなく、今一度地域を、足下を見つめ直し、こだわってみることが大切だと思うのです。

一方このような人の動きがあるからといって、即旅行商品となるのか、ビジネス化できるのかについては別の問題です。例にあげた埼玉県は宿泊施設が乏しい地域ですが、大マーケットの東京との交通利便性が故に、日帰りで帰れてしまう立地条件が大きな問題です。地域が宿泊化を目指すことは大切ですが、すべての観光地が宿泊施設を持つべきとも言えません。すくなくとも滞在化、宿泊化を目指すのならば、一つヒットした資源だけに依存するのでなく、他にも滞在してみたいと思わせる資源や・体験・環境、もてなし、そして何よりも「是非泊まりたい宿泊施設」がなければ、帰れてしまう立地条件を乗り越えることにはならないからです。
埼玉B級ご当地グルメ王決定戦

【参考】
埼玉県では、継続的にこのイベントを行っております。

●第3回埼玉B級ご当地グルメ王決定戦

開催日:
平成20年11月24日
場所:
川口市
参加団体:
21グルメ
来場者:
35,000人
優勝:
キューポラ定食

 ●第4回埼玉B級ご当地グルメ王決定戦

開催日:
平成21年5月3日~4日
場所:
さいたま市
参加団体:
22グルメ
来場者:
80,000人
優勝:
豆腐ラーメン(さいたま市)

埼玉B級ご当地グルメ王決定戦 開催概要