【対談】地域観光プロデューサーの先達に聞く(3)

地域観光プロデューサーの先達が実際に地域に入っての実感や苦労談、やりがい等、通常は書籍や文献等で得られないような話も収録ー第3回ー

中根 裕

中根 裕 主席研究員

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【JTM企画】地域観光プロデューサーの先達に聞く(3)
地域が動くために、今、何が必要か?

中根 地域それぞれの事情はあるでしょうが、地域が変わるためには何が課題となっているのでしょうか。

浅井 地域住民の方々を如何に巻き込むことができるかというところがポイントではないでしょうか。

中根 観光に直接的に関わってこられなかった一般市民の方々を含めてということですよね。

浅井 そのためにはどのような旗を掲げるかではないですか。

村上 「観光立市」「観光立町」という旗印を掲げている割には、市民の方々は理解されていないことが多いことが問題なのでしょうね。市や町の予算を組む際にも、教育や福祉等を優先してつけて、残った予算が観光に回っているのではないかと思います。本来的には、観光を基軸とした産業を創っていくことが観光立市や観光立町であるべきなのです。このことを理解していないから、観光を中心とする町は苦労しているのではないでしょうか。地域の首長が、何故観光が必要なのかを地域住民に理解してもらえるように語る必要があると思います。

中根 観光プロデューサーとして自分の意思を受け継ぐ後継者の育成、あるいは組織づくりという点で、浅井さんが活動された3年間ではやはりNPOの設立に尽力されたことが大きかったのではないでしょうか。

浅井 館山には、色々なタイプの方々がおられたので、人材の特性に合わせて、歴史文化系、自然体験系、まちづくり系の3つのNPOを組織化することを構想しました。それぞれのNPOが国の表彰を受賞する等、お互いに競う形となり、それらのこともあり事業への取組みがスピードアップすることになりました。メンバーの年齢的にも、向こう10年は活動できる組織づくりを行うことを目指しました。またNPOを設立したお陰で、国や県からの事業を受けるなどの支援をいただくことに繋がりました。

中根 マスコミが取り上げたり、国からの表彰を受けるということで、一皮剥けた活動へとレベルアップしているとみることもできますね。

地域観光プロデューサーの先達に聞く浅井 TVや新聞に活動が報道されても、まちの人々にはなかなか気づいてもらえないところがあります。地域の保守的なものは堅いなと思いますね。段々少なくはなりましたが、NPOというだけでアレルギーをおこす人達も未だいらっしゃるのではないでしょうか?NPOの市民活動に対して正当の評価をしてもらうには時間がかかるなあと感じています。
一般市民との協働作業がもっと加速してもよいと思っているのですがね。ようやく駅前の商店街で動きをみせはじめています。それはエコミュージアムの考え方を地域に導入して、地域全体をみせるという形で動き始めています。しかし実績を着実に残しつづけていかないと加速は望めません。

中根 館山・下田・稲取も半島の突端ですよね。浅井さんの発言にありました、地域をまるごと見せるということは、言い換えれば元々限られた平地に肩寄せて生活している半島の観光は、地域がまるごと見えてしまうとも言えますね。しかし逆にこれが半島らしい文化や生活観を伝える魅力が凝縮していると感じています。

渡邊 6つの温泉郷があるといっても稲取岬に多くの住民が住んでいる。ありのままを受け止めてどう見せていくかを考えるしかない。

村上 無理に変えていく必要はないと思いますね。私は半農半漁に「半観」を加えてみれば良いと提唱しています。民宿に対しても「何故学生さんを受け容れるのか」を徹底的に話しあいました。教育旅行に対する勉強会を開催したところ、4つの集落が手を上げたのです。半島は半分は島なんだから不便なのは仕方のないこと。

渡邊 不便なことを逆に売るしかない。

中根 私の恩師である鈴木忠義(※1)先生からの教えなのですが、平場や街道筋の交通条件の良い所の観光は本で言えば『雑誌・週刊誌』、それに対して半島の観光は『純文学』だと言われました。雑誌・週刊誌は誰でも一定のレベルの同じ理解はできる。純文学は、一人ひとりが読み込んで自分の価値観と照らし合わせてイメージを膨らませるから深みが違うのだ、というのです。(※1 東京工業大学名誉教授)

渡邊 稲取にしかないものも結構あるんですよね。当然地域の方々は気づいてはいない。観光立町だということすら知らない方々もいる。活動のネーミングを「こらっしぇ稲取大作戦!」としたのも、外部からの集客のためだけでなく、地域の方々にも知っていただきたいとの願いもあったのです。地域の資源も、お越しいただく人の志向によって異なることから、リピートして来訪いただける仕組みへと展開したいと思っています。これが着地型旅行のポイントであると思っています。
また一般の住民の方々も着地型旅行の事業に関わることによって、商品がより磨き上げられるのではないかと期待しています。地域の何でもが商品になるのではないかと思っています。

村上 稲取という地名は変換できない地名だったのですが、稲取の知名度が上がって理解いただけるようになった、その効果は大きいと思っています。

渡邊 駅名も伊豆稲取ですし。

村上 行政も稲取町ではなく、東伊豆町ですしね。

中根 市民を巻き込んで地域をまるごと見てもらうということと、2~3年で観光プロデューサーとして結果を出さないといけないという二つを考えると難しい点は多いですね。市民を巻き込もうとすることは、地域の風土や歴史とも関わってくるので、本来ならば10年間位かけてじっくりと取組むべき課題ですね。それを2~3年で結果を出さないといけないと思うと、その間のジレンマがあるのではないでしょうか。

浅井 最初は観光に近い方々を意識していましたが、なかなか浸透しないということは、地元の主要産業である農業・漁業・商業の分野への力の入れ方が弱かったかな、と今は感じていますね。地元の主要産業が動きをみせないと地元はなかなか認知してくれないんですよ。観光は結果的にまちづくりになるとは思っていましたが、取組みにあたっての働きかけは戦略的にやるべきであったと思っています。稲取も農業や漁業が産業のベースですよね。

渡邊 その問題を積極的に考えようとする人を育てるということであれば対応はできるでしょうね。地域の中での調整役を買って出て、人材を見つけ出すということは可能であると思います。そういう人材がいれば意識の後継はできると思います。

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