観光のユニバーサルデザイン化

誰でも高齢になっていけば、何らかの障害を持つ可能性が高まります。それだけに"障害を持つ人の旅行"は決して特別なことではなく、誰もが身近な事柄としてとらえることが必要でしょう。しかし、受け入れの観光地の側、送客する旅行会社や交通事業者の立場双方で見て観光のバリアフリー化は、現状として充分とは言い難いのが実態です。

中根 裕

中根 裕 主席研究員

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週刊トラベルジャーナル誌 ・執筆 2008年11月10日号

誰でも高齢になっていけば、何らかの障害を持つ可能性が高まります。それだけに”障害を持つ人の旅行”は決して特別なことではなく、誰もが身近な事柄としてとらえることが必要でしょう。しかし、受け入れの観光地の側、送客する旅行会社や交通事業者の立場双方で見て観光のバリアフリー化は、現状として充分とは言い難いのが実態です。

観光地や宿泊施設等の受け入れ側の課題として、まずネックとなっているのが『トラブルの種になっては困る』という意識の壁の問題があげられます。ハードの施設面では従来の「交通バリアフリー法」と「ハートビル法」を統合し、平成18年12月にバリアフリー新法が施行され、私たちの身の回りの公共交通機関や公共性の高い建築物が着実にバリアフリーへの整備が進展しています。

しかし、全国で見ればまだ都市部が中心であり、地域や観光地ではバリアが多く残されていることは否めません。さらに民間の宿泊施設や観光施設となれば施設や設備のバリアフリー化までは、なかなか手が回らないのが実態でしょう。「ハードが整備できてないから受け入れは無理」と地域は思いこみがちです。勿論、トイレ等の最低限のハード整備は必要ですが、隅々まで完璧に整わなければ無理かといえばそれは違います。人的なサポートや連携があれば充分楽しんでいただくことも可能なのです。

一方で積極的にバリアフリーに取り組んでいる観光地も現れています。行政主導としては高山市が長年「バリアフリーのまちづくり」に取り組み、観光面でもハード、ソフト両面の整備に取り組んでいます。

また、民間主導としてのバリアフリー観光の受け入れ体制ではNPO法人伊勢志摩バリアフリーツアーセンターが、地域の観光事業者と連携し、障害者のコンシェルジェ的役割として活動しています。
伊勢志摩バリアフリーツアーセンター

そしてどちらも共通して言えるのは、「旅行マーケットとしてもバリアフリーは可能性が高い」という視点で、事業的にも成果が現れていることです。

一方、観光客として送る側の旅行商品やシステムとしてはどうでしょうか?航空会社や
鉄道事業者は、公共機関として障害を持った方への対応は、従来から各社一定の整備や体制を整えています。しかし旅行商品として見た場合、一部に障害者旅行の専門商品は造られていますが、いわゆる一般の募集型企画旅行に対する障害を抱えた方の参加は難しいのが現状です。そこには一口に障害と言っても多様であることや、一人一人の障害の程度もまちまちであること、さらには同行参加する一般の旅行者の反応に対する危惧、などといった難しい問題があるからでしょう。

しかし白か黒かの極論でなく、一定の制約はあってもハンデを持った人も参加して楽しめる旅行商品が、もっと現れても良いのでないでしょうか?それによって例えば「三世代で楽しめる旅」とか新しい旅行マーケット開拓に繋がることも期待できるはずです。

こうしてみた時に、観光地と旅行会社がユニバーサルデザイン化に取り組む上で、まず必要なのは、観光地や旅行内容に対する『バリアとバリアフリーの情報を共有化すること』ではないでしょうか?すべての人に、すべての観光と旅行サービスを100%平等に提供することは無理な話です。だからこそ利用者の視点から見て「どこまでなら可能で、どこまでは難しい」というバリアとバリアフリーの情報を、観光地と旅行会社が共有し、利用者が判断できる仕組みづくりが第一歩だと思うのです。