ニューツーリズムをプロデュースする組織 その2

地域の側でニューツーリズムを創出する組織として、「体験」と「教育」をテーマとした体験学習の教育旅行を受け入れている (株)南信州観光公社は有名です。 今回は、その成功のポイントを紹介したいと思います。

中根 裕

中根 裕 主席研究員

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目次

以前、ここで地域の側でニューツーリズムを創出する組織について書きましたが、今回は具体的な実例をご紹介します。グリーンツーリズムの分野で長野県飯田市を拠点とする(株)南信州観光公社は有名です。平成8年に飯田市が「体験」と「教育」をテーマとして体験学習の教育旅行を受け入れ始めたのをきっかけとし、周辺市町村にも拡大し、平成13年に第三セクター(株)南信州観光公社を設立しました。現在では約2億円の売上げと3,000万円の粗利を計上しています。(株)南信州観光公社については、これまで様々な場面で紹介されているので、ここではいくつかの成功ポイントだけ紹介したいと思います。

(1)専任の外部人材を登用したこと

設立以来、(株)南信州観光公社の事務局長として尽力してきた高橋充氏は、旅行会社の教育旅行担当として飯田市に子ども達を送る立場でした。本人には失礼ながら「ミイラ取りがミイラ」のまさに典型です。それまで行政の飯田市が事務局を務めていましたが、複数の自治体を横断して展開せねばならないこと、行政には異動が不可欠となること、等から公社の設立と共に、旅行会社の専門家を専任事務局長として招聘したのです。現在でこそ観光プロデューサーとして、地域に旅行会社の人材が入ることは珍しくありませんが、当時としては本人にとって大きな決断だったと思います。しかしそこに地域と外部の人材との”縁”があり、それが現在に繋がったのでしょう。

(2)教育・団体旅行のランドオペレーターに特化すること

(株)南信州観光公社は設立と共に第三種旅行業に登録し、現在は第二種も取得しています。しかし、基本的には発旅行は受託しているものの、マーケットに募集型企画旅行を販売していません。その理由として前出の高橋氏によれば、

  • 教育旅行に関しては、学校への営業、旅行中のコンダクター業務などは、旅行会社に任せ、地域に入ってからのオペレーション業務に徹底しなければ、現在の体制(常勤8名)では対応できない。
  • 個人客を対象とした旅行商品開発と販売事業は、手間暇がかかり、やはり現在体制では限界があり、リスクも高くなる

とのことで、今後はともかく、むやみな事業拡大をせず、マーケットと事業範囲を絞ったことで、現在の地位を確立したとも言えます。教育旅行マーケットであるからこそ可能な事業スキームと言えなくもないですが、2007年改訂された旅行業法により、第三種旅行業でも一定の募集型企画旅行を販売することが可能となり、各地で地域発のニューツーリズム創出の動きが出ています。地域として長い眼で見たときに、マーケットと事業のフレームをどこに据えるかが重要であることを教えてくれています。

(3)「この指とまれ」で行動し、実績が行政を動かす

(株)南信州観光公社は飯田市を中心とした周辺15市町村が出資していますが、設立当初から行政がまとまったわけではありません。自治体にはそれぞれ首長がおり、議会があり予算があります。
概ね複数市町村が協同事業に取り組もうとすると、「総論賛成・各論反対」で頓挫することが少なくありません。しかし(株)南信州観光公社は、まず賛同する自治体だけでも公社を設立し、教育旅行の誘致に踏み出しました。そしてその受け入れ先の農家や民間団体については、市町村の垣根を越えてネットワークを拡げていったのです。その結果年々実績が上がり、公社に出資していなかった市町村も住民の側から「なんでこんな良い取り組みに、うちの町は出資していないのか?」という声が上がり、非参加の自治体も動き出しました。新しいことにチャレンジするのに”全員一致”を待っていては、いつまでも動きません。賛同者だけでも、そして民間・市民の立場から行動することが、地域を変えていく原動力と言えそうです。

<体験観光の受け入れ状況>
体験観光の受け入れ状況

体験観光の受け入れ状況2