「北海道観光の魅力と課題~21世紀型情報戦~」

外国人観光客に人気の北海道。ニセコを中心に北海道各地でアウトドアプログラムを提供している(株)NACの年間約25,000人の顧客の約1割は外国人観光客で、その半分近くをアジアからの観光客で占めている。その魅力と今後の課題に迫ってみた。

篠崎 宏

篠崎 宏 客員研究員

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外国人観光客がレンタカーから大きな荷物を降ろすとどの顔からも充実感があふれている。新千歳空港のレンタカーオフィスではごく普通の光景となった外国人観光客によるレンタカー利用が右肩上がりで伸びている。2009年の訪日外国人観光客が前年比81.3%と減少する中で北海道での外国人レンタカー利用は前年比125.1%と好調に推移している。その大部分が香港、台湾、韓国、シンガポールのアジア人観光客である。彼らは日本人観光客より大きなサイズのレンタカーに乗り、平均6.92日間の北海道ドライブを楽しむ。滞在中は、自国にはない北海道での大自然を堪能し、帰国後には友人・知人へその素晴らしかった経験を伝えている。

大自然の中のアウトドアニーズも高まっている。外国人観光客のニセコへの訪問はスキーシーズンが中心となっているが、夏季の来訪促進に各事業者も力を入れ始めている。コンドミニアム建設はひと段落したが、アジアの大手資本が進出する大きな開発が今後進む予定であり、本格的な国際リゾート地としてインバウンドマーケットを取り込むハードやソフトが徐々に整いつつある。

ニセコを中心に北海道各地でアウトドアプログラムを提供している株式会社NACの年間約25,000人の顧客の約1割が外国人観光客で、その半分近くをアジアからの観光客で占めている。NACでは、外国語対応可能なインストラクターの確保とともにアクティビティ部門の強化を図り、ニセコの宿泊事業者への営業や、顧客サービスを徹底することで他社との差別化を実現しリピーター獲得につなげている。

外国人観光客への取り組み強化を行いながらも、かつてのスキーブーム衰退の経験から、NACゼネラルマネージャーの木下裕三氏は「流行だけでインバウンドマーケットを追うのではなく、しっかりとした国内マーケットの下支えを意識したプロモーションやサービスの充実も同時に図らなければ、結果的に国際競争力をつけることは出来ないと考えている。」と言っている。

北海道観光振興機構が2009年度に行った東アジア地域マーケティング調査では、日本人マーケットと大きく異なり、韓国人と香港人の東京の食に関する評価が高いことが分かった。 北海道への訪問経験率が高い香港人でさえ北海道の食は東京とほぼ同じ評価である。 香港で行った一般消費者へのインタビューである北海道旅行経験者は、北海道のお土産にタラバガニを買って帰った経験を話しつつも「東京に行ったら、各地を代表するグルメを楽しめる。この便利さはメリットになる」と日本人観光客と異なる食への認識を語った。

海外旅行をする時にその国や地域に行きたいと思うきっかけとなった情報チャネルは、韓国では「テレビ」「インターネット」であり、台湾・香港・中国では「口コミ」が突出している。情報建築家リチャード・ワーマンが自著「Information Anxiety(情報選択の時代)」で「毎週発行される1冊のニューヨーク・タイムズの情報量は、17世紀の平均的なイギリス人が一生かかって得る情報量よりも多い」と述べている。21世紀になり世界の人とモノ流れがアジアにシフトしつつある。それは同時に人類が過去に経験したことがないほどの情報量がアジアを中心に渦巻くことを意味している。

北海道がインバウンド観光で絶対的なポジションを築くことが出来るかどうかは、口コミとインターネットが混在した21世紀型の情報戦に生き残れるかどうかにかかっている。


出典:日経MJ 2010年5月24日掲載のコラムを加筆したものです。