<連載>「JTM海外旅行実態調査」から海外旅行とデスティネーションの魅力を探る 第1回 日独就航150周年を迎えるドイツと旅行者数がヨーロッパ3位に躍り出たベルリン

海外旅行の魅力とは、何だろう。また、国や地域による魅力の質的な相違は、客観的にみるとどうなるのか。「海外旅行実態調査」にもとづく調査結果から、興味深いところを少しずつJTMレポートで発表していきたい。

磯貝 政弘

磯貝 政弘

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目次

●日本人にとって海外旅行とは何か

海外旅行の魅力とは、何だろう。
そんな素朴な疑問に答えを見出そうと、日本人海外旅行マーケットの動向をまとめた年次報告書「JTBレポート」の基幹資料である「海外旅行実態調査」(毎年2月に実施。調査対象は、前年に海外旅行経験を有する15歳以上の東京都、大阪府、愛知県居住者4,000人。有効回答数は毎年2千数百人)で、2006年から毎年、「あなたにとって海外旅行とは何ですか」という質問をしている。その結果から得られたキーワードをここでご披露すると、第一に「リフレッシュ」、続いて「日本」、「楽しみ」となる。(図1)

自分にとっての海外旅行とは「リフレッシュ」である、とする人が特に目立つのは30代、40代である。ここでちょっと面白いのは、「リフレッシュ」に続くキーワードが男性で「仕事」であるのに対して、女性では「ストレス解消」、「ほうび」となるところだ。

一方、「日本」は30代までの若い女性に特徴的なキーワードである。「日本とは違う」、「日本では味わうことができない」体験や「日本の日常を離れた」場所での解放感、あるいは「現実逃避」といったニュアンスがそこには含まれているようだ。現代社会においてもっとも強くストレスを感じているのが若い女性たちなのかもしれない。

海外旅行とは「楽しみ」であり「生きがい」であると断言する人、”海外旅行フリーク”ともいうべき人が多いのは、50代の女性と60歳以上の人たちである。そして、この人たちの海外旅行経験回数は当然ながら非常に多い。

●旅行者が評価するデスティネーションの魅力とは

「海外旅行とは何か」とは別に、「海外旅行実態調査」では回答者が前年に行った旅行先について、それぞれの「良かったところ」(あわせて「良くなかったところ」も)を自由記述方式で訊いている。こちらは2007年から調査を始めており、4年分のデータが貯まった。日本人訪問者数が50万人程度を超える国や地域については、それぞれの”魅力の特徴”を客観的に俯瞰するに足るだけのサンプルが揃ってきた。

そこで、徐々にデータ分析を始めたところ、国や地域による魅力の質的な相違がかなり鮮明に浮かび上がってきた。本格的な分析レポートは、2011年の調査結果を加えてから行い秋口あたりに公にするつもりだが、その間は2010年までの調査結果から興味深いところを少しずつJTMレポートで発表していくつもりだ。

●日独交流150周年を迎えたドイツといまもっともエキサイティングな都市ベルリン

第1回目に取り上げるのは「ドイツ」。
2011年が日独交流150周年(徳川幕府とプロイセンの間で修好通商条約が調印されたのが1861年のこと)に当たり、在日ドイツ観光局が「日独友好フォトコンテスト」や「ドイツツアー企画グランプリ」などのイベントを実施するほか、女子サッカーのワールドカップドイツ大会開催(なでしこジャパンも出場!)などイベントも多く、ドイツから目を離せない一年になりそうだ。

そうしたなかで、先頃、ベルリン観光局のワークショップが都内などで開催された。
その中で2010年のベルリン市の外国人旅行者延べ宿泊者数が、ヨーロッパの都市のなかではローマを抜いてロンドン、パリに続く第3位となったと発表された。

1989年のベルリンの壁崩壊から20有余年を経る過程で、ベルリンの姿は変化をし続けている。訪問するたびに新しい物や事との出会いが期待される。さらに、毎日1200以上のイベントがどこかしこで昼夜を分かたず催されている。ある種の祝祭空間となり、ヨーロッパでもっともエキサイティングな都市となったのが現在のベルリンのようである。それが近隣諸国の人たちの心を強く惹きつけているとみられているが、おそらく間違いではないだろう。

日本人にとっては、直行便が就航しているフランクフルト、ミュンヘンやロマンチック街道、メルヘン街道への馴染みのほうが強いと思われる。しかし、「海外旅行実態調査」の結果をみると、日本人旅行者がドイツへ行って良かったこととして挙げたもののなかで、「街並み」、「街」、「建築物」そして「歴史」というキーワードが上位を占めている。つまり、ドイツの魅力の特徴は、都市の景観と歴史的な建造物にあるといえる。(図2)

プロイセン時代からの荘重な建築物とベルリンフィルハーモニーに代表されるクラシックな芸術・文化、そして水と緑の美しい古典的な都市景観に壁崩壊後の新しい相貌が加わることで、新しいドイツの魅力が日本人の心を捉えることが出来るのではないだろうか。ライン川下りからロマンチック街道、ノイシュバンシュタイン城、昨今ではクリスマス・マーケットがコンテンツに加わることで日本人の需要が切り拓かれてきたが、ここにベルリンがキラーコンテンツとして大きな光を放つことになれば、日本人海外旅行マーケットに再び大きな動きが生まれるのではないだろうか。

そんなことを思いつつ、1987年に公開されたヴィム・ヴェンダース監督の映画「ベルリン・天使の詩」の冒頭のシーン(私の記憶の中にあるシーンだが)、黄金の双頭の鷲の彫像の上に天使が座ってベルリンの街を眺めているシーンを思い出していた。

図1:あなたにとって海外旅行とは何ですか

図2:ドイツへ旅行して「良かったこと」