国際会議”WIT” (Web In Travel)にみる世界のデジタルトレンド

スマートフォンの普及とソーシャルメディアの浸透はますます進展している。これを背景として旅行とインターネットの濃密な関係はさらに加速しているが、新たな局面に突入しつつあるようだ。世界の動きを同じ時間軸で把握しておくことが不可欠であり、トレンドを共有するための、国境を超えたカンファレンスも増えてきた。国際会議「WIT」もそのひとつである。

鶴本 浩司

鶴本 浩司 客員研究員

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10月15日から2日間にわたりシンガポールで開催されたWITは旅行産業界のオンライン分野に特化した国際会議として2005年に始まり、今年で8年目を迎えた。アジア太平洋地域ではこの分野として最大規模。アジアや太平洋地域の国々はもちろん、アメリカやアフリカなど幅広い地域からデジタルマーケティングに携わる人々が集まる。
登壇者も多彩な顔ぶれで、エアアジアXや米国プライスライン、トリップアドバイザー、エアアジア・エクスペディア社(エア・アジアとエクスペディアのジョイントベンチャー企業)など世界の著名企業に加え、日本からも楽天トラベルの山田善久代表取締役副会長やベンチャーリパブリックの柴田啓代表取締役社長などがスピーカーとなり、新しいテクノロジーやマーケティング、旅行流通などをテーマに活発な討論や講演がおこなわれた。

「価値の非同等化」が流通のトレンド

流通に関する議論では、「プライス・パリティ(料金の同等化)の進行が話題となった。
レートパリティ、プライシングパリティなどとも呼ばれ、「世界中、どこでもいつでも同じ料金で購入できる」動きである。商品の提供側としては、価格での差別化がさらに難しくなると言えよう。
そのため、これからは「価値の非同等化」(Value Disparity)、つまり料金以外にどのような付加価値をつけられるかが競争力のポイントとなるのだ。
実際にインドでは、既にネット購買で消費者が重要視しているポイントはブランドの信用度が48%、自身の経験が44%で、料金は21%にとどまり、価格の重要性は低下してきている。

「コストを最小限に抑えた付加価値づくり」がLCCの目指すべき方向性

航空に関するセッションではエアアジアXのアズラン・オスマンラニCEOをはじめ、マレーシア航空、インドのジェットエアウェイズ、シンガポールの長距離LCCスクート航空、そして日本航空が登壇して議論をおこなった。海外の航空会社の国際線ウェブ販売が軒並み5割を超える中、日本航空(JL)は「2~3年後には国際線のウェブ販売4割を目指したい」としており、海外と日本のウェブ販売割合には、まだ乖離がみられるようだ。
また、LCCへの注目度はやはり大きく、複数のセッションでテーマとして取り上げられていた。
その中の議論として、「最上の満足を余すところなく提供するものではないとはいえ、コストを最小に抑えつつ、付加価値としての満足を提供すること」が今後のLCCのあり方である、という見方が示された。

「PCよりモバイル」の動きが急伸

モバイルのセッションでは、スマートフォンをはじめとしたモバイルによる検索が急増していることが明らかとなった。グーグル社は、一例としてアジア太平洋地域でのホテル検索のうちモバイルの占める割合が既に23%になっていることを挙げ、旅行分野のモバイルによる検索は2014年までは30~43%増となると予想した。
中でも日本の旅行分野でのモバイル検索は2011年中盤から大きく伸び、前年度比76%増と驚異的な伸びを示している。アジア太平洋地域の中で占める割合も37%とダントツであるという。
またPCと比較した場合の、スマートフォン(スマホ)アプリの効果の高さも注目を集めるところとなった。
ベンチャーリパブリックの柴田社長は自社サイトでの日本のクリック率の事例を紹介。PCのクリック率が72.3%、スマートフォンサイトが52.8%なのに対し、スマホアプリは205.3%と、圧倒的に高いクリック率で、その効果は絶大だという。
柴田社長は、特に旅行産業においては、「モバイルファースト」で考えていく重要性を訴えた。
全体を通して印象的だったことは、多くの会議セッションで必ず「モバイル」と「ソーシャル」という2つのキーワードが挙げられたことだ。この傾向は一過性のものではなく、今後さらに加速していくものと思われる。

WIT会議は、次回は2013年3月にインドネシアのジャカルタ、そして5月には東京でおこなわれる予定。