アジア・太平洋各国で進むMICE施設整備と日本の今後

2013年8月2日、観光庁よりMICE国際競争力委員会最終とりまとめ報告書として「我が国のMICE国際競争力の強化に向けて~アジアNo.1の国際会議開催国として不動の地位を築く~」が公表された。MICEを誘致・創出していくためには拠点となる会議場、展示場が必要となる。本コラムではMICE推進のための施設整備の必要性について考えてみたい。

守屋 邦彦

守屋 邦彦

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目次

アジア・太平洋地域各国のMICE増加率は日本を上回る

アジア・太平洋地域の国際会議の開催件数をみると、直近の2012年では1位が日本で341件、以下2位中国(311件)、3位オーストラリア(253件)と続く。しかし、2002年を1とした時の増加率をみると、日本が1.56であるのに対し、シンガポールは2.38、中国は2.32であり、オーストラリア(1.47)を除く主要国全てで日本を上回る伸びをみせている。展示会・見本市の出展面積(企業等に出展スペースとして販売された面積)をみると、2011年では1位は中国で8,734千平方メートル、日本は2位で1,873千平方メートルとなっている。しかし2007年を1とした時の増加率をみると、日本は0.85とアジア・太平洋地域主要国で唯一マイナスとなっている。これは、展示会・見本市の規模が縮小している、あるいは件数が減っていることを示している。一方、経済成長著しい中国や、2015年の経済共同体実現に向けたASEAN諸国の勢いがうかがえる。このように、MICEのC(コンベンション)、E(エキシビション)の分野においては、アジア・太平洋地域各国が日本を上回る勢いで活性化していることがわかる。

大規模MICE施設の整備がアジア・太平洋地域各国で進む

こうした諸国のコンベンション、エキシビションの活性化には、もちろんアジアの経済成長が背景にはあるものの、政府や行政を中心に積極的な施設整備が行われていることもポイントである。MICE施設の整備といっても国や都市、あるいは目的や理由により整備の仕方が異なり、中国では主に大規模展示場の新設、韓国では既存施設の規模拡張、オーストラリア等では都市再開発におけるMICEエリア開発といった大規模化や機能拡張を行っている。中国における大規模展示場の新設ラッシュは特異なものとしても、韓国、シンガポールで日本を上回る大きさの展示場が整備されていること、また、オーストラリアでは、日本よりも大きい会議場と展示場がセットとなった施設があり、更に展示場を拡張しようとする動きがあることは、注目すべき動きと考えられる。

また、シンガポールでは、IR(Integrated Resort)としてもMICE施設が整備されており、その代表格としてMarina Bay Sandsがある。IRとは日本語では「統合型リゾート」と呼ばれる。MICE施設はもとより、ホテルやショッピング・エンターテインメント、スポーツ施設やスパ施設、そしてカジノ施設が一体となったもので、ビジネス客や観光客、ファミリー層やシニア層など幅広い客層が滞在して楽しめる施設となっている。

マリナベイサンズ(ホテル)

マリナベイサンズ(ショッピング棟内)

国内各地でもMICE施設整備の検討・実施の動き

こうした競合各国の動向や、MICE推進による地域活性化への期待の高まりをうけ、日本においても各地において会議場、展示場等のMICE施設整備の検討・実施が進んでいる。具体的には、東京ビッグサイトやパシフィコ横浜、国立京都国際会館でそれぞれ拡張が検討されている(パシフィコ横浜は展示場を2万平方メートルから3万平方メートルへ、国立京都国際会館は大会議場を2千名収容から5千名収容へ)。また、神戸国際展示場、名古屋のポートメッセでは建替えを、仙台市や熊本市、岡山市では地区整備とともに新たなコンベンション施設の整備を進めることとしている。

また、国内でのIR整備への動きも活発となっている。超党派による国際観光産業振興議員連盟が年内にも議員立法で法案を提出するといった話もあり、日本でのカジノ解禁、IRの整備が現実味を帯びてきている。

MICE施設整備の今後とは

MICEを誘致・創出していくためには拠点となる「場」が必要となる。しかし、MICE施設整備に対しては、どうしても公的資金というコストを投じる箱物をつくるというマイナスイメージが強い。また、施設が整備された後は稼働率ばかりが注目され、国内外、大小を問わずとにかく何らかの行事を入れていかねばならず、本来、施設運営側としては、国際的な会議や展示会を戦略的に誘致・創出し、都市としてブランドを向上させていくことにも注力すべきであるが、そこまで到達しないのが現実である。

しかし、筆者が現地でヒアリングをする機会を得た国外のMICE施設では、その多くは稼働率をさほど重要視してはいなかった。これは、MICE施設は都市を活性化させるための、ある意味「公共財」であり、大規模な国際会議や国際展示会を誘致・創出していくためには、ある程度施設の稼働状況にもゆとりがなければならない、という考え方、また、設備単体の収支もさることながら、周辺産業や都市全体への波及効果や重視する考え方が背景にあるためである。

日本のMICE国際競争力をこれから真剣に強化していくためには、一定規模以上のMICE施設を国内でいくつか整備していくことは必要不可欠であると考える。一方で、既に会議場や展示場が立地していたり、これからMICEを推進していこうと思う全ての都市がMICE施設を増床や新築していく必要があるかというとそうではない。例えば、主催者の立場として国際的な展示会をビジネスとして成立させるには、関係者の話を総合すると20,000平方メートル程度(通路やその他スペースを含めた会場の面積)は必要と考えられる。現状においてここまでの施設を整備できる都市は限られるだろう。国際会議については、国際会議統計に表れているのは、(1)参加者数50人以上(2)参加国3カ国以上(3)開催日数1日以上(4)主催団体として国際機関・団体などが関与していること-が条件であり、これに満たない国際的な会議も、現実には国内で多く開催されている。各都市においては、誘致可能なMICEのボリュームなどを勘案しながら、自らの都市の将来像とあわせてMICE施設整備の必要性と規模を検討していくことが重要ではないだろうか。