海・ビーチで何して遊ぶ? ~今後のトレンドは「日暮れ後」と「子供の教育」~

JTBが毎年発表している夏の旅行動向によると、今年は東日本大震災以来減少傾向だった海水浴目的の旅行への意向が回復している。夏になったら必ず行きたくなるという人も多いだろう「海」。国内市場において海はどのような場と認識され、人々はそこでどのような過ごし方をしているのだろうか。近年の傾向を読み説く。

河野 まゆ子

河野 まゆ子 執行役員 地域交流共創部長

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目次

1.過去5年以内に海・ビーチへ行った人の77.6%が1年に1回以上行く。最も頻度の高い世代は30~40代

過去5年以内に海・ビーチに行った人に限って、どの程度の頻度で海の近くへ行くかを聞いてみたところ、「1年に1回以上」訪問する人が四分の三を超える(図1)。これを世代別にみると、30~40代の訪問頻度が高く、子供を海に連れて行くシチュエーションが多いためと想定される。最も少ない60代も70.5%が年に1回以上海・ビーチを訪れている(図2)。

(図1)

(図2)

最も頻度の多い同行者については、「夫婦・カップル」が約34%と最も高い。「子供連れ家族」20.4%、「三世代」6.8%の子連れセグメント合計よりも、カップル比率のほうが高いということになる(図3)。これを年齢層別にみると、50歳以上で「夫婦・カップル」が40%を超えて高く、20代は「同性の友人」(23.5%)が「夫婦・カップル」(30.0%)に続く。「三世代家族」は60代で11.0%と他の世代より高い。幼い子供を持つ30~40代は、「子供連れ家族(子供は未成年)」が「夫婦・カップル」を10ポイント以上上回る(図4)。幼い子供にとって、海はメジャーな遊びスポットとして機能していることがわかる。

(図3)

(図4)

2.海・ビーチは「自然を眺めて楽しむ」存在

海・ビーチに対するイメージについて、全体的には「アクティブ」よりも「眺めて楽しむもの」という印象が強い。子供にとっては、よい遊び場であると感じている人が80%を超えると同時に、事故や怪我などの危険が伴う場所であるという認識も強い(図5群)。年代別にみる特徴としては、「なんとなく怖い」「治安がよくない」というネガティブイメージについて、30代未満の若年層において強く感じており、自然と親しんだ経験の薄さによる恐怖や、近年の治安や安全に対する意識の高まりなどを反映しているものと考えられる。

(図5(群))

3.海・ビーチでの体験は「海水浴」が70%以上。子供に体験させたいことは、「クルージング」、「自然・環境教育」

海・ビーチでの体験については、「海水浴」が最も高く、70%を超える人が経験している(図6)。次いで、「潮干狩り」57.2%、「バーベキューなどのビーチパーティー」56.4%が続き、いずれも半数以上であった。また、学習・教育系の活動の中では、自然体験が30%、教育・環境活動も10%程度の経験率がある。

(図6)

なお、海で子供に体験させてみたいものについては、「クルージング」(22.9%)が最も高かったものの、これに次いで「自然・環境教育」21.0%、「環境保全活動」19.9%が上位となり、子供の教育関連コンテンツに対して非常に高いニーズが認められる(図7)。都会に限らず、子供が日常的に自然に触れる機会は徐々に減少しており、結果として、子供を自然に触れさせるためには特別な機会をセッティングする必要が生じる。言い換えれば、親世代の強い意識として、子供が自然と触れ合うための特別な機会設定を求めているということでもある。

(図7)

4.海・ビーチでの過ごしかたは、「マリンアクティビティ」は20~30代が中心、50~60代は「海の景観を楽しみのんびり過ごす」

海・ビーチでどのように過ごしてみたいか、ということを自由に記述して貰ったのが図8である。この結果を年代別にみると、20代と30代は、シュノーケルなどのマリンアクティビティやバーベキューなど、友人や恋人とアクティブに楽しんだり、おしゃべりしたりと、親しい仲間内で楽しむという同行者との時間・体験の共有に対して強く意識されている印象がある。なお、30~40代にかけては、子供がいる層とそうでない層が混在しているように見受けられ、子供がいる層は子供が活動の中心になり、「海水浴」や「観察」など、子供の遊び場として海が選択されている。これが50~60代になると、アクティブな印象の単語は激減し、代わりに「温泉」「木陰」「美味しい」「夕陽」など、美しい海の景観を臨みながらのんびりした時間を過ごすことを希望している。
『海』という単語から想起する風景について、若年層にとってはビーチ周辺で“水に入る・そこで遊ぶ”ための海であり、熟年層以上では海岸や温泉などのそばにある、“のんびりした時間を引き立てる美しい舞台装置”としての海を想定していることが興味深い。同行者や年代によって理想の過ごしかたは異なり、それに合わせて行き先も異なってくるものと読みとれる。

(図8)

5.また行きたいと思う海は「色がきれい」67.9%、「砂浜がきれい」が続く

また行きたいと思う海・ビーチのポイントは、「海の色がきれい」(67.9%)「砂浜がきれい」(61.0%)が60%以上と突出して高かった。次いで、「人があまりいなくて静か」(29.0%)、「夕陽が見られる」(15.8%)となる(図9)。マリンスポーツ等のコンテンツやレストランなどの施設が充実していることよりも、自然景観としての美しさが優先される。

(図9)

6.海のそばに暮らす沖縄の人々と、それ以外の地域の人々の海・ビーチの楽しみ方の比較

海での過ごし方について、海の近くに暮らす沖縄県と、それ以外の地域でどのような違いがあるかについて比較をした。図6にみる「海で体験したことがあるもの」を比較すると、「バーベキューなどのビーチパーティー」の経験が、他より大きく差がついた(沖縄県内83.7%/沖縄県以外41.4%)。日中の気温が高く日差しの厳しい沖縄では、“日暮れ前後から海で遊ぶ”ということが一般化している(図10)。また、どこに住んでいても海までの距離が至近なうえ、海自体が綺麗で気になる匂いも少ないため、子供の頃から「海辺で集まる」「海を眺めながらご飯を食べる」という楽しみ方が定着していることが要因であろう。その他県の人々にとってはまだあまりメジャーではないビーチパーティーだが、年々暑さが厳しくなっている沖縄県以外の地域においても、夕暮れ以降に海に集まる機会や、その時間帯での遊び・活動をサポートする施設やプログラムが充実していく可能性がある。
なお、海・ビーチでやってみたい過ごしかたについては、県外在住者は「温泉」「旅館」など『海を背景として贅沢な旅行をする』という印象であった。県内在住者はマリンアクティビティニーズが高いほか、「コテージ」「カフェ」などのカジュアルな活動が目立つ(図11)。親しい仲間や家族と、カフェ、読書などの日常的な行為を海の近くへ持ち運ぶことによって生活にちょっとした潤いを与え、気軽に、そして身近に非日常感を演出する手法として、海が活用されているようだ。

(図10)

(図11)

美しい海を守り、それを活かす役割はそこで活動するすべての人にある。自分が来訪者として「また行きたい」と思う海を大事にすると同時に、海を地元とする人にとっては、「また来てもらえる海」を作っていく担い手として、過度な負担を掛けることなく、且つ楽しく来訪者を巻き込んでいく仕組みを中長期的な目線で整えていくことが望ましい。
子供が自然学習や環境学習をする場としての期待は極めて高かったが、それと同時に子供が怪我をすることに対する懸念は拭いきれない。海を使って、安全に学習・体験をするためのコンテンツを充実させるためには、同時に海をエリアごとに区分けすることが重要だ。どこで、だれが、どのような活動をするかのゾーニング整備を徹底することで、海で遊ぶあらゆる人にとっての安全性や快適性は増す。また、学習機会は決して子供だけのためのものではない。地元の海を深く知り、地元にとっての重要な環境資源としての海を美しく保つための機会提供を通じ、大人の足を近隣の海に向けることで、海を正しく知る人が海に集まり、結果として子供を見守ってくれる安全な海へと育てていくことができるはずだ。

調査対象者:
過去5年以内に国内外の海・ビーチに行ったことがある人 計1,000サンプル
割付:
20歳以上10歳刻み 男女 各セル 100
調査期間:
2013年6月19日(水)~6月24日(月)