観光経済新聞再掲 ~マーケットを読む・MICE「地域におけるMICE誘致」他

MICEが都市の活性化に重要な役割を担うものとして注目され、福岡市や横浜市では観光事業費の約80%がMICE振興予算にあてられるなど、都市レベルでもMICEに対して活発に取組まれています。こうした国や政令指定都市といった大都市での動きも捉えながら、都市あるいは地域レベルでのMICEの誘致・創出に際して求められる視点等について述べます。

守屋 邦彦

守屋 邦彦

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今、MICEが、交流人口の拡大による都市の活性化にとって重要な役割を担うものとして注目されています。政府が2013年6月に策定した「日本再興戦略」の中でも、地域経済を活性化するための方策の一つとして「MICE誘致体制の構築、強化」が位置づけられていますし、2013年、念願の1,000万人を突破した訪日外国人旅行者(インバウンド)振興の分野でも、MICEが重要な施策に一つとなっています。

また、当社が2013年9月に実施した「都道府県・政令指定都市における観光関連予算調査」によれば、例えば、福岡市や横浜市では観光事業費の80%前後がMICE振興予算にあてられているなど、国レベルだけでなく都市レベルでもMICEに対して活発に取組まれていることがわかります。

調査の詳細はこちらから:平成25年度「都道府県・政令指定都市における観光関連予算調査」

本コラムでは、こうした国や政令指定都市といった大都市での動きも捉えながら、都市あるいは地域レベルでのMICEの誘致・創出に際して求められる視点等について述べています。

地域におけるMICE誘致(観光経済新聞2013年8月3日掲載を一部修正)

MICEとは、企業などの会議(ミーティング)、企業などの報奨・研修旅行(インセンティブ)、各種団体の大会・会議や学会(コンベンション)、展示会・見本市やイベント(エキシビション、イベント)の各分野を総称したものであり、ビジネス性の高い会合、旅行全般と捉えられる。

2012年6月に政府は「成長戦略」として「日本再興戦略」を策定し、その中で地域経済を活性化するための方策の一つとして「MICE誘致体制の構築、強化」が位置付けられた。7、8年前にはMICEが国内でまだほとんど認知されていなかったことを考えれば、期待は急速に高まっていると言える。

MICEという総称で国の重要政策に位置付けられたことで、コンベンション(特に国際会議)だけに多くの注目が集まっていた頃に比べ、観光地へのインセンティブツアーや地方都市でのミーティングなど、誘致に取り組む際の視野は広がった。一方で、MICEの各分野は基本的に異なるものであり、マーケットを正しく捉えるためには、MICEという一括りではなく、分野別に見ていくことが重要となる。

統計整備が進んでいるコンベンション分野(国際会議)の現状をみると、2012年の日本での開催件数は2,337件、都市別では東京(23区)が500件と全体の20%強を占め、以下、福岡市の252件、京都市の196件と続き、開催件数上位には政令指定都市クラスの大都市の名前が並ぶ。

しかし、国際的なコンベンションがそうした大都市でなければ誘致ができないかというとそうではない。国際会議統計に表れているのは、(1)参加者数50人以上 (2)参加国3カ国以上 (3)開催日数1日以上 (4)主催団体として国際機関・団体などが関与していること―が条件であり、これに満たない国際的な会議も、現実には国内で多く開催されている。また、統計として正確に捉えられてこそいないが、海外企業によるミーティングやインセンティブも国内で多く開催されており、アジアの経済発展に伴い今後のさらなる増加も期待される。

こうしたコンベンションなどの誘致に際しては、予定されている参加者数や会議形態に対応できる会議場施設、宿泊施設、飲食施設などが存在することはもちろんであるが、開催地とするにふさわしい理由があることも重要となる。すなわち、コンパクトシティや創造文化都市といった地域が掲げるテーマ、世界遺産や火山、湿地といった地域資源などの存在である。例えば鳥取県米子市で、2011年11月に「第13回国際マンガサミット鳥取大会」が開催された。これは、地域で進めていたマンガやアニメを活用した観光活性化の取り組みが大会開催に結び付いたものである。

地域における観光活性化においては、地域資源を発掘し、それに興味、関心を持つ人々に対してプロモーションをしていくことが重要となるが、コンベンションなどにおいても、自地域が受け入れ可能な規模、開催理由となる地域素材を把握し、それらに見合う会合を見つけ、その主催者に対して誘致活動を展開していくことが重要となる。

MICEでの施設やまちの活用(観光経済新聞2013年8月10日掲載を一部修正)

MICEを誘致する際に、競合する他地域と差別化するための要素の一つとして「ユニークベニュー」がある。ユニークは「珍しい」「独特の」、ベニューは「場所・会場」を意味し、博物館や美術館などの文化的施設、城や重要文化財に指定されるような歴史的建造物、寺社仏閣等の施設や公共空間などを指す。もちろん開催にふさわしい諸条件を満たすことが前提だが、ミーティングやコンベンションの会場として通常利用しない、また、一般的には非公開、利用不可の施設を活用したりすることで、地域特性や特別感を演出することが可能となる。
例えば、長崎で開催された技術系の学会では、発表大会前日の交流会を、歴史的建造物の集まるグラバー園を貸し切りにして開催した。また長野県軽井沢では、2012年3月にオープンしたカーリング場をチームビルディング研修(与えられた課題をチームのメンバーが役割分担しながら解決することを通じて、効果的な組織づくりを学ぶ研修)の実施施設として活用している。

日本では、利用に際しての制約の多さなどからユニークベニューの活用はそれほど進んでいない。しかし、政府が2012年6月に取りまとめた「観光立国実現に向けたアクション・プログラム」では、ユニークベニューの利用円滑化に向け、施設関係者、利用事業者、自治体、関係省庁などによる協議会を年内早期に設置する、とあり、今後国内各地でユニークベニューを活用したMICEの増加が期待される。

ユニークベニューという施設単体でなく、まち全体で特別感を演出することもできる。例えば福岡市で2011年秋に開催された国際学会では、商店街全体を使ったストリートパーティーを会議後に開催した。商店街には出店が並び、伝統芸能のステージも行われた。近くの神社ではボランティアスタッフが参拝の仕方を教えるなど、海外からの参加者1,700人は、日本の祭りの雰囲気や博多らしさを満喫した。規模の違いはあるが、こうしたまち全体を活用した取り組みは他の地域でも実施可能であろう。

ユニークベニューやまち全体を活用して差別化を図ることで、施設単体では誘致できないものを誘致することが可能となる。そのためには、会議施設や宿泊施設だけでなく、地域内での幅広い連携が必要となる。また、ミーティングやコンベンションには、大きく企業系と協会系があるが、企業系には景気動向や企業業績による増減の大きさが、協会系には一度開催するとしばらくは順番が回ってこないというリスクがそれぞれ存在する。今後、各地域がMICEをある程度安定的に開催していくには、地域内での連携をサポートし、バランス良くMICE誘致を行っていく推進体制づくりがますます重要となる。

軽井沢アイスパーク・カーリングホールでのチームビルディング研修体験の様子
(筆者撮影)

展示会、見本市開催による効果(観光経済新聞2013年8月24日掲載を一部修正)

MICEの中でも、「会議、学会(コンベンション)」と「展示会、見本市(エキシビジョン)」とでは状況や取り組み方が違ってくる。
展示会、見本市は、商品や技術、サービスを紹介する場であり、海外では来場するビジネスマンと出展者が商談する場としての意味合いが大きい。一方、日本では、例えば、国内外自動車メーカー各社の最新技術やデザインの車が一堂に集まる東京モーターショーなど、多くの消費者が集まり、企業のPRの場というイメージが強い。しかし近年では、展示会、見本市に来場あるいは出展する価値をより高めるため、商談の場としての機能も重視されてきている。

展示会、見本市が商談の場となることで、来場者や出展者だけでなく、開催地にとっても価値が高まる。これは、参加者(展示会、見本市の場合、出展者や来場者)の訪問で生じる経済効果だけではなく、商談が行われ売買や受発注が成立すれば、産業への経済効果、さらには展示会、見本市後のミーティングなど、交流の機会の増加による効果も期待できるからである。

一般的に主催者が展示会、見本市の開催地を検討する場合、商品や技術、サービスを買ってくれる企業や消費者、あるいは、買いたいと思う商品・技術・サービスを提供できる企業がどの程度その地域に存在するかが重要となる。このため、企業や消費者の数が多い東京をはじめとする大都市での開催が多い。しかし、大都市ではない地域でも展示会、見本市の開催は可能である。

長野県諏訪地域では工業専門展示会「諏訪圏工業メッセ」が02年から毎年開催されている。諏訪地域は精密機械を中心としたものづくり企業が集積していること、すなわち商品や技術、サービスを提供できる企業があることから展示会が立ちあがった。12回目となった2012年10月のメッセでは、県内外から300社以上が出展し、約2万6千人の来場者が見込まれている。

愛媛県今治市では、2012年5月に09年、11年に続き第3回目となる海事産業の国際展示会「バリシップ」が開催された。2012年はおよそ240社の出展、1万6千人の来場と、年々規模が拡大している。今治市は海事関連企業が集積する地域であることからマーケット自体の存在とともに、市が「海事都市構想」を掲げていることから、開催地とするにふさわしい理由もある。また、会期中に一般公開日を設け、工場ツアーやクイズラリーなどの特別イベントも開催されており、展示会、見本市が市民に自分たちの地域と産業を理解してもらう機会にもつながっている。

展示会、見本市を開催することで重要なのは、他のMICEと異なり、基本的に同じ地域で毎年あるいは隔年で継続するということである。開催実績を重ねる中で、出展者、来場者とも「あの展示会、見本市に参加することはメリットが大きい」と認識されれば、開催地はいわばその分野の聖地となり、毎回安定的な集客が見込めることとなる。
MICEは誘致するばかりではない。特に展示会、見本市は、地域が自らの強みを生かして「創出」し、地域が一体となって「育成」していくことも重要なのである。