「みやぎ観光復興支援センター」の取組みの成果と今後に向けて

東日本大震災から丸3年が経ったが、みやぎ観光復興支援センターでは、宮城県内沿岸部への旅行者の実態を把握するため、現地の宿泊施設や商店街、ツアー事業者の協力を得て、アンケート調査を実施していた。その調査内容・レポートとともに、結果ポイントと今後の課題について考察する。

守屋 邦彦

守屋 邦彦

波潟 郁代

波潟 郁代 執行役員 企画調査部長

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目次

1. はじめに

東日本大震災から丸3年が経過した。被災地が広域で、交通路線の細い東北沿岸部であったため、従来の災害とは異なり、早い段階から復旧にボランティアツアーを活用する動きがみられた。同時に、地域経済の回復のため、被災各県の自治体からは自粛ムードの払拭や早期の観光復興を目指す表明がなされたこともあり、生活者の間で、積極的に被災地の商品を購入し、お酒を飲むという「買って応援」という動きが見られた(生活者の震災後の変化については、当研究所の2011年4月以降計7回の自主調査を参照)。その後、復旧が進むにつれ、「買って応援」やボランティアツアーから、応援ツアーや視察、被災体験を語ってもらう「学びのツアー」などが広がっていった。

応援ツアーや視察の設定には、被災された方々の心情をくみ取ったうえでの詳細な現地情報が不可欠であるとともに、早期の観光復興を意識し、訪問者の希望にも応えられる橋渡し役が必要である。しかしながら現実には、震災で沿岸地区の各自治体の観光協会も被災したため、対応が不可能となってしまった。

このような状況下で、宮城県のボランティアツーリズム推進事業として「みやぎ観光復興支援センター(拠点:仙台市)」が設立された。同センターでは、宮城県の沿岸部を中心とした復興に関する地域の情報や、ボランティア、ツアーガイドなど観光に関わる情報を収集し、県内外の自治体、教育機関、企業・組織団体、旅行会社などに情報を提供している。同センターのマッチング実績はツアーの内容は変化しながらも増え続けている。彼らの2年半の活動をレポートする。

2. みやぎ観光復興支援センターの活動について

みやぎ観光復興支援センターの事業は図1のとおりである。渉外担当が、(1)気仙沼市、(2)南三陸町・女川町、(3)石巻市、(4)東松島市・塩釜市・多賀城市・仙台市、(5)名取市・岩沼市・亘理町・山元町の宮城県円沿岸部の5エリアに出向き、自治体、観光協会、商工会、NPO団体などにヒアリングを行い、観光に関わる情報を収集、整理している。このデータをもとに、センターで、電話、メールにより主に団体向けボランティア、学習プログラムの問い合わせ対応の他、ブログおよびメルマガで情報発信をしている(図2)。

(図1)みやぎ観光復興支援センター 事業案内(資料:経済商工観光部観光課HPより)

3. 利用状況の推移について

みやぎ観光復興支援センターは、2011年10月から業務を開始している。旅行会社等の「被災地へ行きたい」人と、ボランティアやガイドなど「被災地で対応できる」人のマッチング実績は、2011年度(10月からの半年間)46件/3,026名、2012年度372件、13,206名、2013年度546件/18,683名※と着実に増加している。
※2013年度は2014年3月6日受付時点までの実績。実績は全て受付日基準

また、利用者の出発地や目的地について、年間での実績である2012年度との比較でみてみると以下の通りである。

[利用者の分類]

  • 2013年度は「組織団体(組織団体からの依頼により旅行会社が各種手配を行うものを含む)」が64%と最も多く、以下、「企業」(20%)、「学校」(10%)、「募集団体(旅行会社が一般参加者を募集するツアー)」(6%)と続く。
  • 12年度に比べると、組織団体が5ポイント増加。募集団体は4ポイント減少。

[利用者の出発地]

  • 関東が約4割、次いで中部が2割。東北は1割強。
  • 2013年度は東北、関東、中部の割合がやや増加。

[利用者の目的地]

    • 2013年度、12年度とも石巻、名取、東松島の順で訪問割合が高い。
    • 13年度の名取の訪問割合は、12年度に比べ8ポイント増加。

    • 出発地別にみると、中部は「名取」(20%)、近畿は「石巻」(37%)、中四国は「東松島」、九州・沖縄は「石巻」(55%)がそれぞれ他の目的地に比べ訪問割合が高い。

[目的地での活動]

  • 2013年度、12年度とも「ガイド」のマッチング依頼が8割を超える。
  • 関東からの訪問者は2013年度、12年度とも「作業」の割合が10%を超えている。
  • 2013年度の「作業」の割合は、12年度に比べ3ポイント減少。
  • 2013年度は「講話・視察」の割合が増加。
    ※目的地での活動区分が2013年度と2012年度で多少異なるため厳密な比較ではない。

4. 沿岸部旅行者へのアンケート

みやぎ観光復興支援センターでは、宮城県内沿岸部への旅行者の実態を把握するため、現地の宿泊施設や商店街、ツアー事業者の協力を得て、アンケート調査を実施している(2013年3月~4月実施。JTB総合研究所が調査設計、集計・分析に協力)。

アンケート結果を見ると、若者層(20代あるいはそれ以下)はボランティア活動を目的に学校や会社の人と、年配層(60代あるいはそれ以上)は訪問することでの復興支援を目的に、友人などのグループで旅行会社のツアーを利用して訪問している人が多かった。訪問の目的として、「被災地を実際に見たかった」「被災に関する話を聞きたかった」も高い割合であった。

また、現地での平均購入(消費)額は、お土産等が約5,700円、飲食は約4,300円、その他(現地ツアー代等)が約5,000円であり、お土産、飲食はそれぞれ6~7割が購入(消費)している。

今後の県内沿岸部への訪問意向は、全ての年代で7割前後が「復興を支援するためにもまた来たい」と回答しており、実際に現地に来る機会や直接現地の人の話を聞く機会を得ることで、また来たい、また来ることで復興を支援したい、という思いが強くなるものと思われる。
実施概要および結果の詳細は次ページ以降の通りである。

■実施概要

    • 実施方法:県内(気仙沼市、南三陸町、石巻市、女川町、東松島市、名取市)の宿泊施設や商店街等での留め置き、およびツアー参加者への配布・回収
    • 実施時期:2013年3月~4月
    • 回収数:920票(一部未回答の場合も含む)
    • 回答者の年齢構成:60代が18.2%で最も多い。

    • 回答者の居住地:東北(県内および隣接県)と関東で約65%

■結果ポイント

    1. 全体では「個人」での訪問者が多いが、60代、70歳以上は「旅行会社のツアー」が多い。
      訪問形態は、全体では「個人」での来訪者が41.3%と最も多く、特に30~50代でその比率が高い。一方、20代以下は「その他」の回答が20%以上あり、具体的には学校や会社(あるいは個人)での“ボランティア活動”が多い。60代以上は「旅行会社のツアー」での来訪者が多い。

[訪問時の形態]

    1. 20代以下、60代以上は「友人」との訪問が多い
      同行者は、20代以下では「友人」「職場・学校の同僚」の比率が高い。これは訪問形態にあるように、学校や会社(あるいは個人)でのボランティア活動のために訪れている人が多いためと考えられる。60代以上は、その前の世代である40代、50代で多い「家族・親族」の割合が減少し、「友人」の比率が高い。これは、子育てを終え定年退職となった人などが、友人等といわば新たなグループを形成して訪問しているものと思われる。

[訪問時の同行者]

    1. 訪問者の7割弱が県内で宿泊
      訪問時、県内に宿泊した人は全体で66.3%であった。20代以下は、首都圏や関西圏など遠方からボランティア活動目的で訪問している人も多いことから、他の年代に比べ宿泊比率が高い。一方、70歳以上は宮城県内からの来訪者が多いこともあり、日帰の比率が55.6%と他の年代に比べ高い。

[訪問時の宿泊の有無]

    1. 訪問目的は「被災地を実際に見たかった」が最も多い。若者層では「ボランティア活動をしたい」、年配層では「訪問することで復興支援したい」が多い
      訪問目的は、全体では「被災地を実際に見たかった」が60.4%と最も高く、特に20代以下の若者層、50代以上の中高年層で高くなっている。このほか、年代別で差があるものとしては、「ボランティア活動をしたかった」が20代以下で、「訪問することで支援したかった」が60代以上で、「被災に関する話を聞きたかった」が60代でそれぞれ高い。

[訪問時の目的]

    1. 年配層ほど県内でのお土産等購入比率が高い。お土産等の平均購入額は約5,700円
      訪問時の現地でのお土産や飲食、現地ツアー代等の購入(消費)の有無は、全体では「お土産等を購入した」が74.1%、「飲食した」が65.3%、「その他(現地ツアー代など)に使った」が25.7%であった。お土産等は、60代以上は9割が購入している。飲食は20歳未満、70歳以上でやや割合が低いものの、年代別でそれほど大きな差は見られない。その他(現地ツアー代)は、50代、60代でそれぞれ34.6%、34.1%と他の年代に比べやや高い。また、訪問時の現地でのお土産や飲食、現地ツアー代等の平均購入(消費)額は、「お土産等購入費」約5,700円、「飲食費」約4,300円、「その他(現地ツアー代)費」約5,000円であった。お土産等購入費は年配層ほど平均購入額が高いが、飲食費は30代、40代で高い。この年代は家族で食事をしている比率が高いことが背景にあるものと考えられる。その他(現地ツアー代など)費は50代、60代が他の年代に比べ非常に高い。

[現地での購入(消費)の有無]

[訪問時の平均購入(消費)額]

    1. 約7割は「復興を支援するためにもまた来たい」
      今後の県内沿岸部への訪問意向は、全ての年代で7割前後が「復興を支援するためにもまた来たい」と回答した。また、ボランティア活動目的での訪問者が多い20歳以下、20代では、「ボランティア活動のためにまた来たい」もそれぞれ47.8%、39.3%と高かった。「恐らくもう来ない」という意見はほとんど聞かれず、一度現地を訪れれば、また来たいという思いが強くなることがうかがえる。

5. 県南地区(名取市、岩沼市、亘理町、山本町)の視察レポートから

名取市は、みやぎ観光復興支援センターが観光情報を提供し、ツアーが実際に成立したエリアの中では、石巻に続いて実績件数が多い。もともと名取市はじめ岩沼市、亘理町、山本町という県南地区はいわゆる観光地ではない。ガイドブックに記載もほとんどなく、近隣住民が朝市や神社参拝などに訪れるような場所であるが、2013年度は、2012年度より倍以上マッチング実績数が増えている。仙台市内から30~40分の距離にあり空港からも近いことが訪問者数の多い一因だが、沿岸部に広がる津波が残した荒涼とした風景と、一見震災があった地域とは思えない仙台市街のごく普通の日常風景とのギャップに驚く訪問者も多いのではないかと思われる。

名取市は、津波により沿岸部の閖上地区の港や商店街はほとんど流されてしまい、かつての地区の中心地は、現在、建造物の土台だけが残るか、あるいはさら地になっている。慰霊碑のある閖上の日和山は高さ約6mほどだが、建物の障害物がなく、広く被災地が見渡せる。

筆者等が訪問した2014年3月初旬は真冬並みに気温が下がっていたにも関わらず、次々に貸し切りバスが日和山に訪れ、語り部ガイドの案内を受けていた。約1年前にも訪問したが、あまり風景は変わっておらず、かさ上げ工事の様子も大きな変化はないようだった。ただし港は整備が進み、朝市施設が設置され、隣接してカナダ(政府およびブリティッシュコロンビア州政府など)の支援により「ゆりあげ港朝市(ゆりあげ朝市協同組合運営)」が2013年12月にグランドオープンした。多くの人が訪れている(写真は時間外訪問のため閉店)。

また、隣接の交流スペース「メープル館」には復興グッズや朝市関連の物産品を販売。館内で映像を見たり、復興への取り組みの話を聞いた入りできる。

(写真1)2012年12月 閖上日和山から

(写真2)2014年3月 閖上日和山から(クレーンが増え、港の整備が進む)

(写真3)ゆりあげ港朝市(2013年12月グランドオープン)

(写真4)メイプル館

(写真5)メイプル館(カナダ政府、各州政府の協力により設立)

(写真6)メイプル館内部

6. 県南地区(名取市、岩沼市、亘理町、山本町)の渉外担当者による2年半のレポート

2011年の秋からみやぎ観光復興支援センターの担当者による情報収集が始まった。以下は名取市を中心とした県南地区での状況の抜粋である。復旧と共に遠方からのボランティアが減少する一方で、継続的で地元の人が中心となった、仮設住宅の居住者に対するボランティアなどは要望があり、人々の生活支援がテーマになっている。語り部ガイドは行政によって支援はまちまちである。南三陸など、先行していた地区に研修に行くなど、一般住民による語り部の活動への関心が高まり、観光地ではない県南地区も、組織化された会の活動が増えていることが伺える。

2011年度末:(ボランティアの状況)県南地区では年度末に向けて、ボランティアの受け入れのピークが過ぎ、山元町ではNPOが行政の立ち入らない区域で、家屋の解体や家具の撤去作業などを実施。名取市では仮説住宅でのボランティアを積極的に受け入れている。

(語り部ガイド)震災の体験を話す語り部ガイドの活動は、これらの基本となる母体がないため、ガイドの養成には時間を要する模様。名取市商工会が閖上被災地ガイドを閖上さいかい市場と連携して実施。語り部ガイドの事務局設置の話は浮上しているが、産業復興優先のため実現までにはいたっていない。

2012年度末:(ボランティアの状況)各市町の社会福祉協議会とも緊急支援活動は一段落し、主に登録ボランティア制度を採用、地元からのリピーターが中心。主な活動が仮設住宅を対象にした内容で長期的な生活支援ボランティアが求められる。名取市は仮設住宅が積極的に新規ボランティアを受け付けている。県南地区は地元大学性が中心に仮設住宅の子供たちの遊び相手、教室の実施。他企業や団体が継続したボランティア活動もあり支援内容は多岐にわたる。

(語り部ガイド)2011年度に名取市が事務局を立ち上げる予定だったが人員不足などで進んではいないが、語り部に対する市民の関心は高い。市内の語り部ガイドは「閖上震災を語る会」、被災した工場が閖上にある水産加工会社「株式会社 佐々直」が中心であるが、
名取市の地球のステージが震災直後から地域のケアを実施するなか、閖上中学校の寄合所「閖上の記憶」の運営、寄合所に震災資料を展示、被災者の心のケアの一環で語り部を不定期に実施。

2013年度:(ボランティアの状況)各市町とも災害復旧支援は一段落。登録ボランティア制度を利用した、地元住民による住民の生活支援に移行している。

(語り部ガイド)各市町で組織化された会の活動が増える。亘理町/震災語り部の会ワッタリ(観光協会が申込受付) 山元町/山元民話の会(公共施設やイベントで震災体験を交えた昔話を語る)/山元語り部の会(ガイド・体験など12種類のコース設定) 名取市/閖上震災を語る会(500円の写真集を発行販売)/地球のステージ(案内人の活動も「心のケア」の一環)/㈱佐々直(被災した閖上本社工場を保存)/ゆりあげ港協同朝市組合メイプル館

7. 今後に向けて

震災瓦礫の集積、処理がほぼ終了し、また、震災遺構も一部撤去が進んだことで、宮城県沿岸部一部地域では被災地への訪問者数に影響が出ている地域もあるようだ。震災後、現在も残されたままになっているいわゆる震災遺構の解体をめぐっては、解体か保存か議論が続いているものもある。住民のそれぞれの思いや意見に配慮しながらも、震災の記憶と教訓を風化させずに次世代、および広く世界に伝えるにはどうしたらいいのか、という問題は、被災地の問題だけではなく、日本全体で考えなければならない問題である。

被災地への訪問者対象に行ったアンケートでは、全体の7割が復興を応援するためにまた来たいと考えていることからも、数多くの「被災地へ行きたい」人と、「被災地を見せ、語ってくれる」人とをつなぎ、被災地訪問の道を開いたみやぎ観光復興支援センターの功績は大きい。今後、同センターは復興の進度にあわせて、物見遊山にならない、意味のある被災地への訪問の機会や動機づけをつくることができれば更に観光面での復興支援を推進できるのではないだろうか。ポイントとしては、(1)教育旅行のプログラムの充実および(2)先進国なりの復興の姿をみせて世界に発信するため、他産業との連携を図ることだろうか。

2013年度の学校関係の同センター利用者は2012年度より増加し、シェアを伸ばしている。
現在も各地域とも教育旅行の問い合わせが増えているようだ。要望としては、生徒全員で何かのボランティアを実施したいといったこともあるが、一度に多数の人数を受け入れられる体制や作業もないことから、「学びのプログラム」の強化が急務と思われる。学校側の意向は、農業、漁業体験が多く、震災学習はあまり多くなかったことから、体験の充実は急務といえよう。

2013年は前年より同センターを利用した訪問者は増えている一方で、外国人の訪問件数、シェアは減少している。外国人に対して震災の体験や教訓を語ることは非常に有意義なことだが、復興が進む姿を見せながら震災体験を伝えるのは伝わり方に限界があると考えられる。ある報道番組にもコメントがあったが、多くの外国人は日本の東北復興に非常に注目している。それは日本が「先進国」だからという。先進国の日本が、どのように最先端の技術やシステム、経営手法などを取り入れ、イノベーションを生み出し、復興から飛躍するのか高い関心を持っているという。すでにいくつか新しいビジネスもスタートしているようだ。海外、特に新興国からの学生に、農林水産業、工業の分野での事例見て、体験してもらい、光の部分を見てもらうことも必要だ。

引き続き2014年度も、みやぎ観光復興支援センターの活動をみていきたい。

執筆者:客員研究員 守屋邦彦・執行役員企画調査部長 波潟郁代