観光経済新聞再掲 ~マーケットを読む・「LCCによる旅行と消費の変化」 他

観光経済新聞9月28日掲載の「LCCによる旅行と消費の変化」、10月5日掲載の「LCCに「同調型」が反応」では、LCC(格安航空会社)の旅行者への影響について、10月12日掲載の「観光列車の集客効果を生かす」では、近年各地で運行される観光列車の可能性について考察する。

守屋 邦彦

守屋 邦彦

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LCCによる旅行と消費の変化(観光経済新聞 9月28日掲載)

JTB総合研究所主任研究員・守屋邦彦
*本コラムは2013年9月現在の執筆で加筆訂正は行っておりません

日本の国内線に本格的なLCC(ローコストキャリア)が登場してから約1年半が経った。国内線利用者に占めるLCC利用者の割合をみると、12年ゴールデンウイークの1.3%に対し、13年が5.8%と4.5倍、12年夏のお盆期間の2.7%に対し、13年が6.5%と2.4倍になっている。LCCと既存の航空会社の違いが徐々に認識されたこともあり、LCC利用者は着実に増えていることが分かる。また、同期間の国内線利用者全体もそれぞれ21%、11%増加、また鉄道利用者(JR東日本、JR東海、JR西日本の合計)も増加しており、LCCが限られた旅行者の奪い合いではなく、旅行者そのものの増加にもつながっていることがうかがえる。
この国内線LCCの就航による旅行機会の増加は、若者層でより大きくなっている。当社が2013年7月に実施した「国内線LCC利用者の意識と行動調査」によれば、男女とも20代以下(18~29歳)が他の年代に比べ国内線LCCの利用経験率が最も高かった。また、国内線LCCが就航したことによる旅行の変化として全体で最も多い回答は「国内線LCC就航がきっかけ、理由で国内旅行をした」であったが、若者層ほどこの回答を選択した割合が高くなっている。自由記述での回答を見ても、「旅行をすることがすごく身近に感じられるようになった」「いろいろな所に行けるようになった」「安く楽しめるようになった」などがあげられ、LCCを活用した旅行が選択肢の一つとして加わったことが分かる。

また、LCCを活用することで移動にかかる費用が節約できるが、6割強の人はその節約できた分を旅行中に使っている。具体的なお金の使い道は、「さまざまな食事、あるいは高価な食事をした」「良いホテル・旅館に泊まった」「多くの買い物、あるいは値段の高い買い物をした」が多かった。このことからは、LCC利用者はこれまでよりも地域で多く消費する層と捉えることができる。そして節約できた分を旅行中に使っているのは、シニア層よりもむしろ若者層に多い。

若者層の旅行離れがよく言われるが、LCCの登場により、交通手段の選択肢が増え、若者はこれを上手に活用し、旅行に出かけている。また、旅行全体をとにかく安く済ます、というよりも、抑えられる所と、ちょっとお金をかけたい所とを選別していると考えられる。受け入れる地域側としては、目的地として選ばれることはもちろんであるが、「ちょっとお金をかけても良い」と思わせる飲食、宿泊、土産、体験プログラムなどを的確に提供していくことが重要となる。

LCCに「同調型」が反応(観光経済新聞 10月5日掲載)

JTB総合研究所主任研究員・守屋邦彦

LCC(格安航空会社)が広く認知され、多くの需要を喚起し、利用者は着実に増加しているが、就航して1年半、利用者した人はどんなタイプの人たちなのだろうか。当社が2013年7月に実施した「国内線LCC利用者の意識と行動調査」では、LCC利用者の特徴を明らかにするため、日常生活や旅行に対する意識、行動に関する回答をもとに、利用者のタイプ分けを行った。

LCC利用者で最も多かったのは「みんなに合わせる同調型」タイプ。このタイプは、20代以下、30代に多く、SNS利用率が高く、人とつながっていたい、「みんな」と同じでいたいという意向が強い。他人の目を意識し、話題のものも押さえている。旅行意欲はそれほど高くないが、旅行する際はパッケージツアーを好む。次に多いのは無駄なものにはお金をかけたくない「合理派・無頓着」タイプ。このタイプも旅行意欲は高くはない。これらに続き、旅行意欲が高く、普通の観光客が行かないような所に行く「こだわり」タイプ、流行に敏感で、人よりも早く知りたい、体験したいという「流行追っかけ」タイプ、そして最後に流行にとらわれず肩肘を張らない生活を好む「シンプルライフ」タイプが存在する。

LCCの就航が旅行者数全体の底上げにつながったことは前回述べたが、旅行意欲が高いとは言えないみんなに合わせる同調型タイプと合理派・無頓着タイプの利用が多かったことを考えると、「話題性」と納得いく価格設定である「経済合理性」が人を動かす強い動機づけになったと言えるであろう。同じ交通インフラである鉄道が、最近、乗車そのものが目的となるような新型車両や観光列車を積極的に導入し、人気を集めているのも、この話題性が要因の一つであろう。

そして、話題になり旅行商品も作られるようになると、まとまった人数での来訪も見込めることとなる。同調型タイプのような、ある程度のボリュームのあるマーケットの旅行機会を維持、拡大していくためには、こうした話題になるものを提供することや、旅行先となる各地域の魅力を高め、また旅行をしたいと思わせることが重要となる。

また、数は多くないが旅行意欲の高いこだわりタイプは、安く旅行をするための選択肢の一つとしてLCCを利用している。このタイプは流行に捉われず、自分が気に入った地域を何度も訪れる。受け入れる側の地域は、このタイプの満足度を高め、リピーターとして確保していくことも重要となる。

観光列車の集客効果を生かす(観光経済新聞 10月12日掲載)

JTB総合研究所主任研究員・守屋邦彦

先日、15年春開業予定の北陸新幹線の運行体系の概要が発表された。開業で、東京と金沢は約2時間半で結ばれ、航空機利用より1時間以上市内への早い到着が可能になる。一方、東京・品川と名古屋を最短約40分で結ぶリニア中央新幹線の詳細ルートや中間駅も既に発表されている。リニアは27年の開業を目指しているので、まだ10年以上先の話であるが、所要時間は現在の半分になる。4時間圏内の陸と空の競争で、目的地により早く到着できる地域は格段に広がった。

こうした、所要時間の競争が進む一方で、「列車に乗車すること」を目的とする旅行を広く楽しんでもらう取り組みとして、近年、観光列車が各地で運行されている。観光列車というと、従来は季節限定で貸し切り列車や専用の列車が走り、主に列車からの風景を楽しむイメージが強かった。しかし近年は、趣向を凝らして製造した専用の新型車両を定期運行し、提供するサービスの面で沿線地域の特徴をより生かしたものが登場している。例えば、大阪・名古屋~伊勢(三重)間を走る「しまかぜ」は、水曜日を除き毎日運行し、展望車両だけでなく、地元名物グルメが楽しめるカフェ車両も備えている。また、新八代(熊本)~川内(鹿児島)間を走る「おれんじ食堂」は、ホテルのロビーやカフェレストランをイメージした車両で、地元の食材を利用した食事をゆっくりとりながら列車の旅を楽しむことができる。

沿線地域の特徴は「食」だけに限らない。和歌山~貴志(和歌山)間を走る「いちご電車」は、車両デザインに駅周辺の特産品であるイチゴをモチーフにし、また、和歌山県の特産品である木材を座席やつり革の手すりなどに使っている。観光列車は鉄道が主役のため、一見地域の関与が少ないようにも思える。しかし、地域側が産品を積極的、安定的に供給することで、地域ならではの魅力が観光列車に生まれ、利用者の増加、そして地域産品の販売量の増加につながる。

いよいよ今月15日には、話題の豪華寝台列車「ななつ星in九州」が運行を開始する。列車はシャワー、トイレ完備のオールスイートのゲストルームや、バーカウンターを備えた客車で構成。1泊2日コースは1人あたり約16万円、3泊4日コースは同約40万円からと高めの価格設定ながら、2014年6月出発分まで完売となっている。

このななつ星in九州の旅では九州各地の観光名所を訪問するが、この旅だけの「特別」が多く盛り込まれている。例えば長崎訪問時には、まち歩きツアー「長崎さるく(さるく=ぶらぶら歩くという長崎方言)」の専用ツアーが組み込まれ、また、鹿児島訪問時には仙厳園での非公開の逸品の見学や、薩摩焼の宗家である沈壽官窯で、年に1度しか公開しない茶室でお茶を楽しむことができる。

話題の観光列車には多くの観光客が集まるが、1度乗車しに来ただけで終わらせてしまっては効果が薄い。最初の来訪のきっかけは観光列車であっても、そこに「特別」を盛り込んだ地域資源を組み合わせることで、各地域への興味、関心をより強く持ってもらい、再訪につなげていくことが、鉄道会社、地域の双方にとっての効果をより高めるためには重要となる。