観光経済新聞再掲 ~マーケットを読む・「あまちゃんに学ぶ地域人財育成のカギ」

最近の離職の傾向として、「自己の成長につながらない」「自分の仕事が社会の役に立っていないと感じる」といった理由が多く挙げられるようになった。2013年4~9月の放映で旋風を巻き起こした朝の連続ドラマ小説「あまちゃん」。このドラマは地域振興や人材育成という観点からも興味深く、若者の働き甲斐とやる気を促す対応策に共感できる点がある。

田中 敦

田中 敦 山梨大学 生命環境学部地域社会システム学科 教授

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あまちゃんに学ぶ地域人財育成のカギ(観光経済新聞 11月9日掲載)

JTB総合研究所 人材育成事業部長、シニアコンサルタント 田中敦

最近、厚生労働省から気になる調査結果が発表された。宿泊・飲食業に2010年に就職した大卒者のうち3年以内の退職者は全体の51%にのぼり(全業種平均31%)、うち1年以内に辞めた人は全体の24.1%であった。早期離職の原因は、給与面への不満、労働条件の厳しさ、当初イメージしていた業務内容とのギャップなどさまざまで、一朝一夕に解決することは難しい。

一方、最近の離職の傾向として、「自己の成長につながらない」「自分の仕事が社会の役に立っていないと感じる」といった理由が多く挙げられるようになった。この2点の離職理由について、「やる気を向上させる」という観点から、三つのとるべき対応策をあげてみた。一つ目は、各人が所属する組織の理念をしっかり伝え、どのようにお客さまに満足してもらえるかについて、サービス業の基本とその役割をしっかり腹落させることである。

二つ目は「若い社員が自己成長を遂げるため、上司と一緒にキャリア観に向き合う」ことである。最近の若者はキャリアに対する問題意識が高く、部下のキャリア育成に関心を寄せない上司や組織に対して気持ちを寄せ合うことに抵抗感を覚えることが多いという。上司は部下と共にキャリア観に向き合い、未来を語り合うことが大変重要になっている。三つ目は、価値観や業態が違う人たちとの積極的な交流、いわゆる「越境学習」である。これは、組織の境界を飛び越え活動範囲を広げることにより組織にいては気付かなかったような新たなアイデアを生みだし、新たな経験、知識、技能を身につけることを意味する。

2013年4~9月の放映で旋風を巻き起こした朝の連続ドラマ小説「あまちゃん」。このドラマは地域振興や人材育成という観点からも興味深く、前述の若者の働き甲斐とやる気を促す対応策に共感できる点がある。理念の浸透と納得感の醸成、という点では、海女クラブの会長で主人公アキの祖母である「夏さん」のリーダーシップは際立っていた。地元住民の祭りを観光客に開放することを渋るメンバーに対し「出し惜しみしてる場合でねぇ…徹底的にサービスすんべ!」と訴え、また、海女を始めたばかりのアキには、「観光海女はサービス業」と厳しく教え込んだ。観光海女はサービス業に徹するというブレない精神がいつも伝わる。外部への接点という点では、鉄道、漁協、地場産業、商工会、観光協会が連携する地域振興の「伝統的」なつながりと活動はよく目にする光景だが、それに留まらず、東京からの出戻りのウェブ担当の若者によるPRやミスコン、地元メディアとの連携など、「若者、ばか者、よそ者」という異質なものや価値観を受け入れオタク文化もうまく融合させている。越境学習の効果が重なる。成就感の醸成と人材育成の両面につながる地域振興の成功パターンだ。

成長戦略のもと、観光産業を取り巻く環境の変化は今後さら加速する。成長意欲の高い若者達に、多様な経験の機会を与え、常に変革を意識させることが、次世代育成のカギとなり、魅力的な産業になるだろう。