MICEからみた特定複合観光施設(IR)

特定複合観光施設(IR)は新しい都市型観光ともいうべき統合型リゾート施設であり、日本においても「IR推進法案」が臨時国会で可決の方向とされている。特定複合観光施設(IR)の整備はMICEと密接な関係があるにも関わらず、MICEとの関係性についての議論が未だなされていない。MICEから見たIRについて考えてみた。

太田 正隆

太田 正隆 MICE戦略室 主席研究員

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目次

特定複合観光施設(IR)をご存知だろうか。インテグレーテッド・リゾート(Integrated Resort)の和訳である。シンガポールでの導入成功により、脚光を浴びている新しい都市型観光ともいうべき統合型リゾート施設であり、日本においても先般の国会で本格的な審議が始まり、「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法案」(通称・IR推進法案)が秋の臨時国会で可決の方向とされている。
実はこの特定複合観光施設(IR)の整備はMICEと密接な関係があるにもかかわらず、MICEとの関係性についての議論が未だなされていない。MICEから見たIRについて考えてみた。

日本におけるカジノ構想と特定複合観光施設(IR)

近年、日本においてカジノ解禁に向けた議論が活発になっている。2002年、石原都知事が立ち上げた「お台場カジノ構想」が、端緒と言われている。一旦は、法整備等が整わない等の理由によりトーンダウンしたが、2005年シンガポールにおいて新しく観光振興を軸にカジノを合法化し、2010年に二つの異なる統合型リゾート(IR)がオープンした。この成功により、日本でのカジノ構想も再燃した模様である。

シンガポールの新しい統合型リゾート(IR)は、ユニバーサルスタジオやウォーターパーク等のレジャー施設を核としたResort World Sentosaと、コンベンション等のMICE施設を核としたMarina Bay Sandsである。前者は、マレーシアを中心に観光から製造業など幅広く事業を行っているGenting Group、後者は米国でカジノ王といわれているLas Vegas Sands Corpによるものである。Resort World Sentosa(RWS)は、米国ユニバーサルスタジオ、世界最大級の水族館、海洋体験ミュージアム等とコンベンションセンターで構成された大規模ファミリーリゾートである。また、Marina Bay Sands(MBS)は、独特のランドマークとなった屋上プールと空中庭園で結ばれた三棟の高層ビルからなる2,500室規模のホテル、東京ビッグサイトを凌ぐ面積を持つMICE施設(会議場、展示場の複合施設)、巨大なショッピングモール、美術館、シアターなどを含み、ビジネスを核としたMICE機能とレジャーを併設した複合リゾートである。
次に、世界最大のカジノ都市となっているマカオの事例を見てみよう。
マカオは、1999年に香港とともに中国に返還されるまでポルトガルの植民地であった。中国大陸における欧州の植民地として、16世紀からポルトガルの居留地があり多くの遺構が数多く残っている。2005年には、マカオ歴史地区として、8つの広場と22の歴史的建造物が、ユネスコの世界文化遺産に登録されている。2002年からカジノ経営権の国際入札を行うこととなり、とかく噂もあった地元独占のカジノの経営態勢が崩れ、香港系、米国系等の外国投資への門戸が広がることとなり、2000年の800万人から2005年には1900万人と訪問者数が倍増。特に、中華人民共和国本土からの入境を解禁したことにより、膨張したチャイナマネーによって2006年には世界最大であったラスベガスのカジノの売上げを超え、世界最大のカジノ都市となった。

ここで近年の動きをざっくりと整理してみると、

2002年 マカオでカジノ経営権について国際入札が行われることで外資が参入。巨大なカジノホテル、エンターテイメント付きホテル等が相次いで参入。
2002年 石原都知事がお台場カジノ構想を発表するも、法整備等が整わない等の理由によりその後トーンダウン
2005年 シンガポールで観光振興を目的にしたカジノ法が可決
2006年 マカオがラスベガスを抜いて、世界最大のカジノ都市となる
2006年 シンガポールでカジノ経営権の国際入札。米国系サンズとマレーシア系ゲンティンが落札。
2010年 Resort World Sentosa(RWS)、Marina Bay Sands(MBS)が相次いで完成
2010年 超党派のカジノ議連発足「国際観光産業振興議員連盟(カジノ議連)」
2013年 12月、カジノを中心とした統合型リゾート(IR)の整備を促す「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法案」(IR推進法案)提出
2014年 6月、同法案の審議(継続審議となり、9月から本格的な法案審議)決定

という流れになっている。

さらに、国内のこれまでのIRに関する議論をまとめると、

    1. カジノは刑法が禁じている「賭博」である

勤労その他正当な原因によらず,単なる偶然の事情により財物を獲得、国民の射幸心を助長し、勤労の美風を害するばかりでなく、副次的な犯罪を誘発し云々。「経済の活性化」のため、働くことなしに濡れ手で粟を求める場を創設することは、まさに本末転倒

    1. ギャンブル依存症の拡大

ギャンブル依存症の患者を大きく増加させる恐れがあり、ギャンブル依存症患者を作り出すことで収益を上げるビジネスモデルとなっている

    1. 多重債務者増加の可能性

カジノの解禁は、これまでの多重債務者対策に逆行するものであり、多重債務者を再び増加させるおそれがある。

    1. 青少年への悪影響

IR型では、レクリエーション施設等様々な施設とカジノが一体となっており、家族で出掛ける先に賭博場が存在するという環境にあるため、青少年の健全育成という観点からも大きな問題がある。

    1. 民設民営の問題

競馬・競輪などの公営ギャンブルと異なり、民間企業が直接,施工・開発・運営する民設民営である。売上の一定率を納付金として国に納付することとされてはいるものの、その利益はカジノを運営する民間会社が取得するのであり、公営ギャンブルとは大きく異なる。公共の信頼を担保するということは極めて困難。

    1. 経済効果に関する問題

経済効果への期待が大きいが、ギャンブル依存等のさまざまな経済的損失をもたらすことが指摘されている。IRのカジノ以外の施設はカジノの収益を利用して極めて低廉な価格でサービスを提供し、従前から当該地域にあった会議場施設、レクリエーション施設、宿泊施設などへの圧迫が想定される。

(秋田弁護士会の会長声明等を参考に筆者加筆作成)

このように、カジノとIRに関する議論においては、カジノの危険性や問題、ギャンブルと依存症などが論点の中心となり、あたかもIRとカジノが両輪の如く言われている。また、カジノ以外の施設、すなわち会議施設やレクリエーション施設に言及されることは少ないのが現状である。

法律案の概要

特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案の概要のうち、定義等の抜粋を示すと次の通りである。

第一条 (目的)
この法律は、特定複合観光施設区域の整備の推進が、観光及び地域経済の振興に寄与するとともに、財政の改善に資するものであることに鑑み、(以下省略)
第二条 (定義)
この法律において「特定複合観光施設」とは、カジノ施設(別に法律で定めるところにより第十一条のカジノ管理委員会の許可を受けた民間事業者により特定複合観光施設区域において設置され、及び運営されるものに限る。以下同じ。)及び会議場施設、レクリエーション施設、展示施設、宿泊施設その他の観光の振興に寄与すると認められる施設が一体となっている施設であって、民間事業者が設置及び運営をするものをいう。
(以下省略)
第三条 (基本理念)
特定複合観光施設区域の整備の推進は、地域の創意工夫及び民間の活力を生かした国際競争力の高い魅力ある滞在型観光を実現し、地域経済の振興に寄与するとともに、適切な国の監視及び管理の下で運営される健全なカジノ施設の収益が社会に還元されることを基本として行われるものとする。
(以下省略)

参考・衆議院第24号(平成26年6月18日・審議録)
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/000218620140618024.htm

要約すると、以下の通りである。

    1. 基本方針等目的

・観光及び地域経済の振興に寄与
・財政の改善に資する

    1. 特定複合観光施設(IR)の定義

・カジノ施設
・会議場施設、展示施設
・レクリエーション施設
・宿泊施設
・その他の観光の振興に寄与すると認められる施設
・これらが一体化した施設
・民間事業者が設置及び運営

    1. 基本理念

・国際競争力の高い魅力ある滞在型観光を実現
・地域経済の振興に寄与
・適切な国の監視及び管理の下で運営される健全なカジノ施設の収益を社会に還元

2の定義にある通り、特定複合観光施設(IR)は、カジノ施設以外に会議場施設、展示施設等のMICE施設、レクリエーション施設、宿泊施設、その他の観光の振興に寄与すると認められる施設等の観光レクリエーション施設で構成され、一体化していることが求められている。また、日本の特定複合観光施設(IR)・カジノの方向性としては、モナコやマカオのような「外貨獲得型」やイギリスやドイツ等の「国内余暇需要型」と異なり、ラスベガスやシンガポールのような観光産業振興を目的とした「地域振興型」でああるべきだろう。

MICEと特定複合観光施設(IR)

ここでようやくMICEが本題となるが、全国に数多くあるコンベンション施設や展示施設は、一部を除き地方自治体の設置による公設公営型、又は指定管理等を導入した公設民営型である。施設によって土地、建物の所有形態は異なっているが「公の施設」として、建物は行政が所有している公有財産であり行政財産のケースが多い。こうした財産では、年月を経て大規模修繕が必要な場合、民間のマンションのような積立等のシステムはなく、小規模修繕や維持費は捻出できても、大規模な修繕、改修などの道は財政的にも手続き的にも多くの困難があり、個別の自治体だけでは対応しきれない現実がある。
日本初の国立京都国際会館(京都国際会議場)は、そろそろ完成後50年を経過し、現在ある2000名弱収容の大ホールを国際基準にすべく5,000名規模を目指しているが、ようやく今年度(2014)に2,500名規模の新ホール設計費が計上されたに過ぎない。地方自治体の財政力では、言わずもがなである。1980年代から全国にコンベンションホール、展示場等のMICE施設が建設・利用されているが、その後30年を経て、老朽化や国際基準に満たないといった問題が多くみられる。近年、観光立国実現や日本再興のために、MICEに対して多大な期待がかかっている。しかし、国家戦略として位置づけているにも関わらず、MICE施設の社会資本としての位置づけが弱く、地方自治体任せの実態が否めない。
日本における特定複合観光施設(IR)が、カジノとMICE施設、観光施設の集合体と定義されるならば、カジノからの営業収益還元が、設置される自治体のみならず、社会福祉や観光政策と共に、MICE施設へも及ぶべきである。このような、MICEとカジノを含む特定複合観光施設(IR)とのかかわりについて、関係者の活発な議論を喚起したい。

参考文献資料等

  • 「 バクチと自治体」三好円著、集英社新書2009年
  • 「 カジノの文化史」大川潤・佐伯英隆著、中公選書2011年
  • 「 MICE誘致戦略・施設のあり方に関する調査報告書」同検討委員会 2011年
  • 「 新たな成長を実現する大規模MICE施設開発に向けて」報告書、経団連2013年
  • 「 都市再生の推進に係る有識者ボード」内閣官房・都市再生本部同有識者WG資料