顧客ターゲティングのための「旅ライフセグメント5」の活用

多くの人々へ、自社商品の魅力を届けるためには、どうしたらよいでしょうか?消費や旅のスタイルは、社会が成熟した現代において、人々の趣味や志向が多様化し、「誰にでもいいもの」は特徴がなく受け入れられないものになりがちです。お客さまがどんな人で、どんな価値観で消費行動を決定しているのか、より細やかにニーズを見ていくことが必要です。

波潟 郁代

波潟 郁代 執行役員企画調査部長

早野 陽子

早野 陽子 主任研究員

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目次

~どんな人に、どれだけ効果的に、自分たちの魅力を伝えられるのか?~

できるだけ多くの人々へ、自分たちの魅力(サービスや商品)を届けるためには、どのようにしたらよいでしょうか?

消費や旅のスタイルは、かつての成長市場では人々の同じような価値観、志向から成り立っていました。商品やサービスの提供者は‘誰にでも受け入れられる’商品を追う時代であり、性年代やライフステージなどの属性でお客さまを分類すれば、ある程度ターゲティングが可能な時代でもありました。ところが、社会が成熟したモノにあふれる現代では、人々の趣味や志向が多様化し、「誰にでもいいもの」は特徴がなく中途半端で受け入れられないものになりがちです。それ故に、お客さまがどんな人で、どんな価値観で消費行動を決定しているのか、より細やかにニーズを見ていくことが必要です。

さらにSNS(FacebookやTwitterなどのソーシャルネットワークサービス)の浸透によって、個人の発信力が強まり、口コミが確固たる地位を築いています。良い評判が伝搬していくためには、使ってみた人々がどれだけ満足し、「人に伝えたい」と思えるかどうかが大変重要な要素となります。一方‘誰にでも受け入れられる’商品でなくとも本当に良いものなら広く伝わりヒットとなるチャンスにもつながります。
JTB総合研究所では、目指すお客さまに、自分たちの魅力を効果的に伝える新しい手法として、「旅ライフセグメント5」を開発しました。

旅ライフセグメント5 (TLS5)とは・・・
旅行やライフスタイルに関わる18個の設問から、5つの代表的な価値観を見つけ、その価値観の重視度の組み合わせから、旅行者を5つの価値観グループに分類したもの。

旅ライフセグメント5(TLS5) ~旅行やライフスタイルに関わる価値観による5つのタイプ分類

年齢やライフステージ等、それぞれの人が置かれた環境(属性)が変われば、旅行やライフスタイルも、それに連れて変化する。小さい子供がいる家族であれば、子供と一緒にできる体験型旅行を楽しみたいと考える人も増えるだろうし、荷物が多いため自家用車での移動の割合も増える。高齢になれば、ゆったりとしたスケジュールで旅行をしたい、あっさりした食事を食べたい、といった要望も出てくるだろう。

一方で、同じ年代や性別、同じように子供がいるファミリーだからと言って、同じような生活や旅行をしているわけではなく、それぞれの人の持つ考え方(価値感)によっても旅のスタイルは大きく異なる。とはいえ、人によって千差万別な価値観すべてを把握することは実際には困難だ。そこで、消費や旅行についての意識やライフスタイルに関わる質問に対する回答傾向から代表的な5つのグループ“旅ライフセグメント5”を取り出してみた。人々に共通する5つの価値観(A.情報感度の高さ B.人との繋がり重視 C.等身大でいたい D.一味違った旅行がしたい E.価格合理性を重視)のそれぞれを重視する度合いによって、同じような「消費」や「旅行」の傾向を持つ5つのグループ(「高アンテナ」タイプ、「共感」タイプ、「メリハリ消費」タイプ、「体験重視」タイプ)に分類した(表1)。

このような”旅ライフセグメント5“と属性、旅行や購買行動などを掛け合わせることによって、より具体的、かつピンポイントで自分たちの魅力を届けたいお客さまを想像し、アプローチすることが容易となる。この考え方は訪日外国人旅行者の分析にも活用可能だ。

「旅ライフセグメント5」の5パターンについて

(表1)「旅ライフセグメント5」はこんな人


【分析方法】
・因子分析による潜在的な価値観(因子)の抽出。
・抽出された因子得点を用いたクラスター分析によるタイプ分類
・価値観分類のための分析対象者(全体):日本全国に居住する20~69歳の男女 計56,615名

LCC調査から~新しい商品の普及はアーリーアダプターとしての 「共感」タイプに注目~

ロジャース教授のイノベーター理論によると新しいサービスや商品の普及過程では、消費者は大きく3つに分類される。真っ先に利用するイノベーターと、それに続くアーリーアダプター、普及が進んでから利用を始めるフォロワーだ(図1)。「新しい」ことだけに価値を求めるイノベーターと比較して、アーリーアダプターは新しいサービスや商品の価値を認め、口コミなどでフォロワー層へと拡散する力が強いため、オピニオンリーダーとして重要視される。

当社が国内線LCCが2013年からに3年連続して実施したLCC調査で利用者を旅ライフセグメント5に分類したところ、13年にLCCを利用した人で最も多かったのは、流行に敏感で人との繋がりを重視する「共感」タイプ、次いで価格を重視し、無駄のないシンプルなものを好む「合理派」タイプだった。就航から2年目の14年の調査では、LCCの路線が拡大し、利用率がさらに拡大する中、「共感」タイプは1位ではあったものの、割合は41%から33%へと減少した。最も増加したのは、流行には捉われず、自分が本当に納得したものであれば支出を惜しまない「メリハリ消費」タイプ(14%→18%)だった。他のタイプもそれぞれ1~2%増加した。15年に実施した調査では、利用率はさらに大幅に上昇する中、最初に一番多く利用していた共感タイプの割合はさらに下がり、一般的な散らばり方に近くある。

この結果から、イノベーター理論にあわせると、LCCは、最初にアーリーアダプターである「共感」タイプが利用し、次にフォロワーである「メリハリ消費」や「合理派」タイプなど他のタイプへと波及が進んでいったことがわかる(図2)。

新しいサービスや商品を市場へと浸透させる場合には、アーリーアダプターである「共感」タイプをいかに満足させ、他のタイプへと波及してもらえるかが鍵といえよう。まずは共感タイプのニーズや不満をインタビュー調査などで明らかにし、マーケティングへと活かすことも重要だ。

イノベーター理論:アーリーアダプターである「共感」タイプが利用しフォロワーへと普及していく

(図1)イノベーター理論(1962年スタンフォード大学Everett M. Rogers教授)

LCC利用者のタイプ:将来的にはフォロワーである合理派に波及が進む?

(図2)一般的な旅行者のタイプ分類とLCC利用者のタイプ分類の違い

一般的な旅行者では、「合理派」タイプが36.6%と最も多く、次いで「メリハリ消費」タイプが27.2%だが、LCCの利用者のタイプ分けでは「共感」タイプが41%と最も多かった。しかし、LCCの普及が進むにつれ、LCC利用者のタイプにも変化が見られることから、最終的には一般的な旅行者のタイプに近づくと予想できる。

旅ライフセグメントの活用について

「旅ライフセグメント5」はどのように活用できるのだろうか。対象となる商品やサービスの利用者(旅行者)を分類することで、誰がお客さまで、どんな志向があるのかを把握することが可能だ。また誰に商品を購入してほしいのか、ターゲティングのために、タイプ、属性、購買データなどと組み合わせ、商品の魅力を磨いていく。

<<<旅ライフセグメント5と古民家の再生を考え、良さを伝える>>>
地域で活用しきれずに眠っている、古民家や廃校を観光資源として再生するプランを考えてみよう。どの層をターゲットにしようか。例えば、ちょうど子離れ期にさしかかるバブル世代の女性は、自分自身の時間に余裕ができ始め、旅行にも意欲的になることが期待できる時期だ。そんなバブル世代の女性に向けて、古民家を活用した宿泊施設を提案したいとする。

「旅ライフセグメント5」でバブル世代をタイプ分けしてみると、流行に敏感で情報感度が高く、当時のバブル時代を彷彿とさせる価値観や消費スタイルを持つタイプは全体の約12%にとどまる。最も多いのは、流行に捉われずシンプルな生活を求める一方、宿などの質にはこだわり、気に入った場所や定番のものはリピートする傾向がある「メリハリ消費」タイプ(37%)。このメリハリタイプに注目してみるとする。
メリハリタイプには、昔の派手なイメージではなく、社会やライフステージの変化によって賢く進化したバブル世代の姿が垣間見える。宿泊施設にはこだわり、気に入るとリピートする特徴がみられる。そこで、単に「価格が高い=豪華さ」を追求するのではなく、本来古民家が持つ生活文化の本質を活かしつつ、モダンなテイストや機能性も兼ね備えることや、食事の内容とその演出、再訪を促進するような自由を満喫しながらも、適度な交流や体験プログラムの設定も有効なアプローチとなりそうだ。

本当に伝えたい人をイメージしよう。「誰にでも良いもの」は「誰にとっても中途半端なもの」

ワークショップなどで議論を広げよう
商品やサービスや商品の提供者は、「誰にでも受け入れられる」ことを重視しがちだ。しかし、価格や時間、人材、機能などの制限がある中で、完璧なものを提供することは難しい。その結果、「誰にでもいいもの」は、誰にとっても中途半端で、「誰にも受け入れられない」ものになってしまうことが少なくない。逆に、特定の「誰か」にきちんと受け入れられたものは、その「誰か」にとどまることなく、口コミなどを通じて狙ったターゲット以外にも必ず波及していく。結局はより多くの人々へと受け入れられるための近道だ。

旅ライフセグメント5は企業だけでなく、地域で多種多様な観光関連の方々が一同に会する場のワークショップなどで議論をし、地域の魅力探しやイメージを形成して行くことが可能である。魅力を深堀しつつ、選択権はお客さまにあることを意識し、お客さまは誰なのか具体的にイメージし良い商品やサービスをつくっていくことが必要だ。

本手法の活用や問い合わせに関しては 企画調査部 03-3525-4495 まで